起業する場所を選ぶには(4)

起業する場所を選ぶには(4)

 

(3)より続く

 

起業する場所について考える視点として、立ち上げようとしている事業の特性、顧客との関連性、調達すべき経営資源へのアクセスについて述べてきましたが、最後に、想定している事業展開のスピードがあります。

 

事業展開のスピードというと、場所の問題よりも資金調達の問題ということが多いのですが、起業する場所を不適切に選んでしまうと、事業展開の足枷になってしまうこともあります。事業展開のスピードが速いということは、一般に事業規模が拡大するスピードが速いことも意味するでしょう。したがって、事業拠点がすぐに手狭になり、短期間で移転を繰り返したり、事業拠点が多くの場所に分散したりするなど、コストやマネジメントの面で課題が次々に出てくることが想定されます。

特に早期にグローバルに展開するつもりであれば、日本で起業するよりも、創業当初から海外でビジネスを展開するという選択肢もあります。コストを考えても、そのほうが効率的ということもあります。

 

ここで、起業の際に自宅開業を行う場合を考えてみます。

設立する法人の形態はともかく、実質的に個人事務所であるような場合は、自宅開業やレンタルオフィスでもよいでしょう。ノマドワーカーのように、物理的に特定のオフィスをもたなくても仕事はできます。事業といっても、個人もしくは少数の人間で一定期間、安定して運営していくのでよければ、自宅開業で問題ありません。

しかし、早期にビジネスを立ち上げて、それなりのインパクトのある事業を生み出すつもりであれば、創業当初から適切な場所に事業拠点を設けることが必要です。

もちろん、創業当初は資金面で余裕がなく、別にオフィスなどの拠点をもつコストをおさえて自宅開業からスタートするしかないという状況もあるかもしれません。本来は拠点を置きたいところにオフィスを設けたくても、なかなか思い通りにならないことも多いでしょう。

ここで注意したいのは、場所の選択に当たって、創業当初に拠点を設けるのにかけることができるコストは、制約要因のひとつに過ぎないということです。コストの例としては、オフィスを借りるのであれば保証金やオフィス備品の購入費やリース料などがあるでしょう。ランニングコストとして毎月支出されるものや、将来発生するであろう移転に要する一時的なコストなども、事前に想定しておくべきではあります。

ただし、これらは、起業する場所の問題というよりも、実際に借りる物件を選択する際の条件であって、場所を選ぶこととは切り離して考えるほうがよいでしょう。

起業家にとっての最大の制約条件は、資金よりも時間でしょう。そうであるならば、移動の時間というのは最も減らすべき無駄かもしれません。自宅開業であるがゆえに、顧客や投資家などの関係者に会いに行くのに移動時間が余計にかかるようでは、最も貴重な経営資源を浪費していることにほかなりません。場所を選ぶ基準は、顧客や経営資源などにアクセスしやすいかどうかです。

そこで、起業支援施設への入居というのも、起業する人自身の時間を効率的に活用する方法のひとつとして検討してもよいでしょう。起業を支援するサービスなどをその場で受けることもできるというメリットもありますし、入居者同士で相互に起業に関する知識や経験や人脈などを共有できる可能性もあります。起業支援施設が現にある場所も、顧客や経営資源等へのアクセスという点で希望するものを見つけることができる程度に、さまざまな地域にあります。

以上ご説明してきたように、事業を大きく展開していこうとするのであれば、自宅などの物件の条件を一旦外して、顧客や投資家や人材などへのアクセスがしやすい場所がどこであるかをしっかりと考えて起業すべきでしょう。

 

 

作成・編集:経営支援チーム(20161016日更新)