55歳という年齢

 55歳という年齢

  

私事で恐縮ですが、明日で満55歳になります。

 55歳といえば、筆者が初めて就職した頃はまだまだ多くの企業で、定年年齢だったと記憶しています。その後、次第に60歳定年が普及していき、今日では希望があれば65歳まで雇用することが企業に義務付けられています(注1)。

  

ちなみに、平均寿命との関係で言えば、昭和60年では、男性の平均寿命が74.78歳、寿命中位数が78.06歳、同じく女性の平均寿命が80.48歳、寿命中位数が83.38歳となっています(注2)。平均寿命から2025歳を差し引いたものが定年年齢(55歳)に相当すると言えそうです。

 男性についていえば、当時は、55歳で定年退職すると、半分程度の人は70歳代半ばまでの約20年間に亡くなっていますが、55歳という年齢は既に現役のほうに組み込まれるべき年齢に変化していたことがわかります。その後、さらに寿命が延び、次第に60歳定年が普及していくのにつれて、60歳どころか65歳でも現役であり続けるのが当たり前となってきています。

  

もともと、終身雇用や年功序列による処遇体系は、55歳定年が現実的に機能していた時代に適合していたものでした。

  たとえば、昭和20年代には、特に現業部門に多くの人員を抱える業界(鉄道、鉱工業など)では、50歳代までに亡くなる社員が大半だった、という話を聞いたことがあります。そうした現実のもとでは、55歳が定年年齢であると、本当に終身雇用(亡くなるまで雇用し続けること)だったことが推測されます。

  一方で、着実な経済成長があったことも見逃せません。それに応じて、個々の企業も規模が拡大したり、新たな企業が生まれたりするので、若い社員を次々に採用しなければならなかったわけです。同時に年齢の高い層の社員は次々に少なくなっていくとすれば、年功によって処遇して、仕事ができる先輩社員をつなぎとめることに経済合理性があります。

  

そうした仕組みが、うまく回らなくなってきたことが誰の目にも明らかになってきた頃に、筆者は就職活動をしていたことを後に知りました。

 さきほど述べたように、社会全体のなかでは既に55歳を現役のほうに組み入れるべき状況に変化していたので、人事制度、特に賃金制度や退職金制度の改定も進んでいきました。年功的な賃金体系を何とか変えていくことが求められていたのです。就職後に担当した仕事の多くが、正にこうした人事制度改革のプロジェクトでした。

  

さて、もし今、文字通りの終身雇用で定年年齢を定めるとしたら、平均寿命から考えれば8085歳にすべきでしょう。もしくは、定年年齢を定めること自体を止めるのでしょう。仮に80歳代前半まで働くとしたら、大卒新卒入社の人は60年程度、入社した会社で働き続けることになります。

 これは半世紀以上も働くイメージですが、あまりにも長期的すぎるでしょう。働くということは労働契約を結ぶということですが、雇用する側もされる側も、50年も60年も先のことはどうなっているか分からないというのが、ホンネでしょう。そもそも50年以上も及ぶような契約に、雇用関係が適しているとは、とても思えません。

  実際、55歳になろうとしている筆者自身、40年も50年も前に今の自分を想像することは無理でした。仕事をしていた30年前ですら、現在を想定することは困難でした。

 いまは労働契約のありかたから抜本的に見直すべきタイミングかもしれません。一例を挙げれば、雇用期間に定めのない契約そのものがいいのかどうか、改めて検討することから始めるべきかもしれません。言い換えれば、全ての労働契約は有期とする(たとえば5年や10年を上限とする)といったレベルから見直すことが必要な時期に、差し掛かっているのではないでしょうか。

 少なくとも、雇用期間を定めずに従業員を雇用して自らは先に退職することが確定的な雇用主(経営者)の立場よりは、明確に雇用期間を定めて、その間の事業運営をしっかりと見通して経営に当たるほうが、雇用主(経営者)として責任ある態度ではないか、そう感じるのは筆者だけでしょうか。

 一方で現実は、既にそういう方向に動いていることは否定できません。いまどき、いわゆる正社員(雇用期間に定めのない従業員)だけで構成されている企業を見ることは、滅多にありません。パートタイマー、アルバイト、嘱託社員、派遣社員、業務委託者などなど、契約形態や名称は多種多様ですが、いわゆる非正規と呼ばれる従業員のほうが多数派という組織も、よく見かけます。

 そういったさまざまな人々を組み合わせて、事業を柔軟に運営することができれば、企業にとってメリットがあるだけではありません。働く人にとっても、自分の都合や事情に応じて柔軟に労働契約を結ぶことができれば、実は本当の終身雇用(元気で働くことができる間は何らかの形で雇用されること)が実現できる可能性があります。それは同時に、比較的短い期間(といっても年単位でしょう)で労働契約を見直すことが不可欠ですから、むしろ定期的に見直すことを制度化するほうが望ましいものと思われます。

  

【注1

高齢者等の雇用の安定等に関する法律(通称、高齢者雇用安定法)の制定・改定に伴い、まず1986年に60歳定年が努力義務化され、1994年の改正(施行は1998年)で60歳未満の定年が禁止されました。2012年までの改正を経て、現在は、原則として希望者全員を65歳まで雇用することが義務付けられています。

 

【注2

平均寿命および寿命中位数の数値は、厚生労働省「平成26年簡易生命表の概況」表4に拠ります。同表では、平成26年時点で、男性の平均寿命が80.50歳、寿命中位数が83.49歳、同じく女性の平均寿命が86.83歳、寿命中位数が89.63歳となっています。

  

作成・編集:QMS 代表 井田修(2016714日更新)