起業家のセカンドキャリア

 起業家のセカンドキャリア

 

先週末から、今年もJリーグが開幕しました。

  その開幕戦で、横浜FCの三浦知良選手が後半途中から出場し、49歳になっても現役で元気にゴールを狙う姿を見せたそうです(注1)。

  プロ野球では、昨年まで中日ドラゴンズで活躍した山本昌広選手は現役生活が30年を超えていました。

  

プロスポーツでは、プレーヤーとしての現役生活が30年を超える方々が見受けられますが、起業家はいつまで現役で活躍できる職業でしょうか。

   改めて考えてみると、職業人生の大半が起業家であり続ける人は、極めて限られた存在でしょう。

  プロの起業家というのは、起業家として現役であり続ける人であるとすれば、シリアル・アントレプレナーであり続けることになります。確かに、会社を立ち上げては倒産させ、事業を興しては潰し、ということを繰り返す人はいますが、そうした例の大半は起業家というよりも、事業の失敗が続く人というべきでしょう。

  もし、シリアル・アントレプレナーとして、次々にビジネスを立ち上げることが好きで得意でもあり、数年ごとに新しいビジネスにゼロから挑戦し続ける人は、それなりにいるでしょう。しかもそれを30年以上も続けている人となると、かなり限定された存在でしょう。

  ふつうは、5年毎、長くても10年毎にキャリアを見直すのは、スポーツ選手もビジネスパーソンも起業家も同じことでしょう。

  

起業家の「次のキャリア」をいくつかに分けて考えてみよう。

  

第一は、起業が成功して、起業家からオーナー経営者に脱皮していくものです。多くの場合、起業した人は、そのままCEOなどとして直接、その会社の経営に当たり続けます。

  そうすると、いつの間にか起業家から経営者に転身していくことになります。この転身は、ごく自然に行うことができる人もいます。しかし、できない人もまたいます。企業規模が大きくなるにつれて、起業家の手には負えなくなり、外部から招聘した経営のプロに起業家が追放されるといったケースもときには見られます。

  自覚的に選択したキャリアではないため、起業家であった人が企業経営者になりきれないと、結局は会社や事業そのものが上手くいかなくなることになりがちです。

  

第二は、IPOや会社の売却を行って、創業した会社の経営からは身を引き、次の経営者に完全に託すものです。起業家から投資家へとキャリアチェンジを行うパターンです。

  この場合、会社や事業を売却して得た資金や創業した会社の株式そのものなどをベースに資産を形成し、その資産を活用する投資家に転身することになります。その後のキャリアは企業への関わり方から、いくつかに細分化できます。

  起業に直接関わり続けると、いわゆるエンジェルとよばれるような起業支援型の投資家に転じる人もいます。このケースの多くは、VCを設立して、その代表や幹部となるものでしょう。

  一方、起業とはまったく関わりなく、純粋に投資だけを行うようになると、ときにはコレクターや社会活動家などに転身することもあります。典型的には、現代美術を中心に絵画を収集するコレクターとか、慈善団体やNPO法人などを設立して社会的な課題の解決に当たる、ビル・ゲイツのような活動家といった人々が想起されます。

  このようなケースには、投資する対象が自身の政治活動であれば、政治家への転身というような場合も含まれます。アメリカなどでは割とよく目にするケースですが、日本でも過去には田中角栄という例がありました。

 

第三は、起業で身に付けた経験やノウハウを他者にトランスファーするキャリアです。

  職種としては、大学院や大学などの研究・教育にあたる人(教員)ということもあれば、講演・セミナーや執筆などを中心に個人事務所・自営業となる人、NPO法人などを設立したり、官公庁の外郭団体などの公的な組織で起業支援業務に当たったりするなど、起業を志す人々を支援する人(団体役員や団体職員)など、職業分類上はさまざまなキャリアが考えられます。

  なかには、第二のキャリアと重なるところもありますが、次世代の起業家を発掘・育成するために、自らの資産を使って起業家のための教育の施設やプログラムを作って、エンジェルも兼ねる人もいます。

  

第四は、就職というのもあります。

  たとえば、創業した会社を他の事業会社に売却して、自分は売却した相手の会社の役員に就任するというものもあります。また、起業がうまくいかずに、廃業して再就職するというケースも、実はけっこうありそうです。

  海外では、ベンチャー創業者が別の企業に就職するケースをよく見聞きします。スタートアップ企業を作っては、大手の同業他社に売却し、一旦は、売却先の企業の役員になるが、すぐにまたスタートアップにチャレンジし、ある程度まで成長させたところで、また大手企業に売却する、といったことを連続して行う例が、少なからず、あります。ただ、こうした例は、就職というよりも、シリアル・アントレプレナーとして捉えるべきものでしょう。

  

そして、第五に、何もしない、完全な引退というものもあります。資産家として資金運用を個人的に行うことはあっても、特に起業や経営には関係しないといったものです。資産家というだけで、特に雇用関係や役員としての委任契約も結ばない状態も、実質的な引退と考えてよいでしょう。

  欧米では、こうした状態を“Happy Retirement”と呼ぶらしいのですが、日本でも相応の資産を形成して海外に移住することで、実質的な引退というキャリアを選択する方々もいるようです。

  なかには、一見、引退に見えても、創業オーナーとして実権を握り続けることもあります。海外に移住するかどうかではなく、株式所有などを通じて投資活動や起業経営に影響力があるかどうかで判断すべきでしょう。

  

最後に、実質的にセカンドキャリアがない場合というのもあります。現実には、これが最も多いかもしれません。

  起業といっても、一定規模の事業ではなく、フリーランサーや個人事務所、数名を雇用する自営業や小規模企業のままで、それなりに事業年数が過ぎていくこともあるでしょう。また、定年退職後の起業などでは、セカンドキャリアというほどの時間がないこともあるでしょう。

  

起業家がどのようなキャリアを選ぶのか、もちろん、本人の選択次第ですが、実は自ら選ぶよりも、周囲の状況や関係者の意向などに左右されるところも小さくないでしょう。

  それゆえに、起業や事業拡大に忙殺されすぎないように、定期的に起業家自身のキャリアを改めて検討する機会を意識的に作り出すことが必要かもしれません

  

【注1

 http://www.hochi.co.jp/soccer/national/20160228-OHT1T50080.html

  

作成・編集:起業支援チーム(201633日更新)