ブラック・ロールモデルを活用するには
ロールモデルとなる人が身近にいると、人材育成やキャリア開発などに取り組みやすいという声をよく聞きます。反対に、これといったロールモデルが職場に見当たらないと、なかなか人材育成が進まない、ということも、しばしば言われるようです。
たとえば、一定期間、正社員の採用があまりなかった企業が、近年、改めて新卒定期採用に力を入れて採用したところ、その大半が数年で退職してしまうといったケースでは、新入社員にとってロールモデルとなる若手や中堅の社員がいないことが、退職の一因として指摘できるかもしれません。
また、女性の積極的な活用といいながらも、管理職や役員への登用などが、なかなか進みにくい理由のひとつに、女性社員のロールモデルが見当たらないから、という意見も多く見られます。
ところで、皆さんの職場にロールモデルとして、これはという人は具体的に(個人名を挙げて)存在していますか。
「○○さんです」と即答できる人には、本当に良い会社(職場)に勤められている幸運を喜ぶべきではないでしょうか。
残念ながら、多くの人には、そういう幸運は滅多に訪れません。通常は、良い点もあるが問題もある人、くらいの人材が存在するくらいではないでしょうか。
むしろ、現実の職場においては、ロールモデルの対極の人材、すなわち、ブラック・ロールモデルの存在ばかりが目につくのではないでしょうか。
ブラック・ロールモデルというのは、無能な上司、使えない部下、仕事を教えられない先輩、足手まといな後輩、ダメな同僚などなど、とても手本にはならない人、こうなってはダメだと思える人をピックアップして、反面教師としてみることです。
もちろん、能力的にも性格的にも全面的にダメという人も、そうそういないとは思います。実際には、管理職なのに適切なマネジメントができないとか、後輩の若手に知識やスキルの面で追い抜かれているにもかかわらず、新たに仕事や技術を学ぼうとする意欲がない中堅社員など、「その立場なのに何故?」という行動をとっているケースが、大半でしょう。
言い換えれば、見習いたい、そうなりたい、ということは特にない一方で、そういう面は見たくなかった、こうして欲しいという行動はとらないのに、やめて欲しい行動はとっている、そんな点ばかりが目立つ社員や役員が、ブラック・ロールモデルの有力な候補者です。
職場にブラック・ロールモデルがいたら迷惑とか邪魔という存在ですが、そこからでも、何かしら学べるものがあるかもしれません。そのダメなところ、その理由(なぜそうなったのか?)をできる範囲でいいので、少しでも分析してみては、いかがでしょうか。
管理職なのに適切なマネジメントができない上司の例でいえば、それが特に意思決定が優柔不断で、方針がコロコロと変わってしまい、部下も関係部署の人たちも困っているとしましょう。
困っているという状況にあっても、だからあのマネージャーはダメだ、ということで終わってしまわないで、ひとつ考えてみましょう。
もともと優柔不断な性格なのでしょうか?
カラオケに行くと、歌う曲を即座に決めているのではないでしょうか?
もしそうなら、仕事面で優柔不断でしょうか?
一人で商談をするときも、いちいち会社にもち帰っていますか?
案外、お客さんからはかわいがられていませんか?
どういう場面で優柔不断でしょうか?
(役員報告?部下との打ち合わせ?関係部門との会議?)
仮に、このマネージャーが役員に報告したり関連部門と調整したりするときに限って、その優柔不断ぶりが現れるのであれば、その本当の理由は分からずとも、自分だったら、役員報告や部門調整などをどのように臨むのか、頭の中でシミュレーションをしてみてもいいでしょう。
もしかしたら、正式に決まっていない段階で事前に部下に方針を説明しない方がいいのかもしれませんし、報告や調整への準備をしっかりとすることが重要なのかもしれません。場合によっては、部下を役員報告や部門調整に同席させて説明させることで、方針が変わったとしてもその事情を納得させることができるかもしれません。
要は、見習うべきロールモデルとは、とても呼べない人であっても、ある種の類型の代表と考えれば、ブラックな(ダメな)ロールモデルとして、自分だったらどうするか、を考えてみることで、自分の行動を見直すきっかけとすることができます。そうした活用方法を知っているだけでも、イライラする気持ちを多少は抑えることができそうです。
さて、ブラック・ロールモデルというアプローチを、既に実践している会社もあります。
ある流通・サービス系の企業では、一昨年や昨年に採用した新卒定期採用者を集めて、就活中に体験したエピソードをできるだけ多く収集しました。その結果から、いろいろな企業の採用担当者をいくつかのタイプに分けて、自社の採用担当者にそれぞれの類型の評価と改善案の作成を行ってもらいました。
実際には、エピソードの過半は、この会社の採用担当者のものでした。なかには、○○ハラスメントと指摘されても、しかたがないような、いわば問題行動と言わざるを得ないものも、少なからず含まれていました。
客観的に整理されたものとはいえ、採用担当者本人たちは、自覚せずにとっていた言動が問題行動として指摘されて、かなりショックを受けているようでした。
この会社では、一部の採用担当者を、ここ数年で採用された社員に入れ替えて、採用担当者のチームごとに、再度、採用担当者のあるべき姿を検討するセッションを設けました。そこから、今年の採用マニュアルを整理しなおしたり、ロールプレイなどのトレーニング・メニューを改定したりするなどして、今年の採用活動を推進しているそうです。
いかがでしょうか。ブラック・ロールモデルであれば、たいがいの人にとって身近にモデルを見つけ出して、ちょっと考えてみることができる手法です。少なくとも、モデルとしてみるべき対象が見当たらないということは、まずないでしょう。
作成・編集:人事戦略チーム(2015年8月13日更新)