春は卒業
3月は卒業の季節です。
社会人にとって卒業というと、学校の卒業式のイメージでしょうか。年齢によっては、定年退職を想起する方々も多いのではないでしょうか。
ところで、いつの頃からか、会社を自発的に辞めることを「卒業」と呼ぶことが多くなりました。退職した人が自ら「このたび○○会社を卒業しました」などということを、よく耳にするようになってきたのではないでしょうか。特に外資系企業やベンチャー系の会社あたりでは、ごく当たり前に言われているようです。
先日、あるIT系の企業を退職して別のIT系の会社に転職したばかりの方にお会いしたしました。
「プロジェクトが一段落し、やるべきことは終わったので、A社を卒業しました」とご挨拶頂いたので、不躾な質問をさせていただき、事情を聞いてみました。
「開発プロジェクトを任されたり、プロダクト・マーケティングも担当させてもらったり、仕事は大変だったですよ。でも、面白かったし、やりがいもありました。」
仕事が充実していたのは確かだったそうです。とはいえ、処遇面の不満も、多少はあったようです。
「実績を挙げれば思い切って昇給させるという話だったのに、いつになってもあまり給料は上がらないし、先輩のBさんあたりは、簡単なプロジェクトを担当するだけで、自分より貰うものは多かったみたいですからねえ。」
実はA社では、近いうちにストックオプションを導入する予定だったそうです。その次には、正式に上場準備を進めるのではないかと社内では噂されていたそうです。
とはいえ、どれも先々の話ばかりで、実際はどうなるか分からないと思っていたところに、偶々あるスタートアップ企業からの誘いがあり、今までの経験を生かして次のステップに進めもうと決心をしたのだそうです。
これはほんの一例に過ぎませんが、会社(経営者や人事責任者)のいうことを100%納得して信じることができていない状況では、きっかけがあれば卒業を選択する人材は少なくないでしょう。多分、有能な人ほど、そういうタイミングの見極めが賢くできるのではないでしょうか。
会社としては、有能な人材ほど手放したくはないのですが、本人が決心している以上、無理な引き止めは互いに感情的なしこりを残すだけでしょう。会社ができることといえば、顔では笑って次のキャリアに送り出してあげることくらいしかありません。
もちろん、退職時の手続きをきちんと進めることが大事なのは言うまでもありません。
特にエグジット・インタビュー(退職予定者に対して人事などが行う面接)は、形だけ行うのではなく、退職を申し出ている社員が重要な人材だと思っているならば、経営者が1時間程度は時間を取って、感情的にならずに、真剣に話を聞くことが重要と思われます。できれば、そこで真の退職要因を探り出して、今後も予想される有能な人材の流出を防止していくとともに、他社を卒業してきた人材を引き付けることができるように、会社を改善していきたいものです。
経営者や人事責任者が直接そうした面接を行うのが難しい(退職予定者も話しにくい)のであれば、社外の第三者がヒアリングを行って課題を抽出し改善案を助言するといったほうがいい場合もあります。
考えようによっては、卒業はいいことなのかもしれません。
個人にとっては、自分の意思に反して辞めさせられたわけではありませんから、次の仕事に前向きに取り組むことができるでしょう。仕事を続けることが無理な状況に会社から追い込まれたり、リストラなどで強制的に退職させられたり、何らかの個人的な事情で退職せざるを得なくなってしまったり、とても卒業とはいえない状況に陥ってしまう人も少なくないのですから。
企業にとって、人材の流出は間違いなく痛いことではありますが、喧嘩別れにならず、その後もいい関係が築けるようにできれば、卒業していった社員が新たなビジネスを生み出す触媒になってくれるかもしれません。取引先の候補をひとつ紹介してくれるだけでも、悪い話ではないでしょう。
本当に卒業といえるのであれば、それだけの人材を輩出できたことの証明にもなります。いい学校は優秀な卒業生がいてこそ、いい学校と評価されるわけです。同様に、いい会社の条件のひとつは、多くの卒業生がいるということでしょう。卒業生の存在で実証される人材輩出力は、同時に、社外から人材を引き付ける力でもあります。
作成・編集:人事戦略チーム(2015年3月16日更新)