ティール組織~マネジメントの常識を覆す次世代型組織

 

(1)本書の概要

 

 今回、ご紹介するのは、原著が2014年に発行されて以来、組織やリーダーシップに関する分野で注目を集めている本です。

 

ティール組織~マネジメントの常識を覆す次世代型組織

(フレデリック・ラルー著、鈴木立哉訳、嘉村賢州解説、

英治出版株式会社より20181月発行)

 

原著のタイトル(“REINVENTING ORGANIZATIONSA Guide to Creating Organizations Inspired the Next Stage of Human Consciousness”)にあるとおり、この本は単なる組織論ではなく、先進的な実例を紹介することに数多くのページを割きながら、人間の認識や心理学などの知見に基づき、新たな段階における組織のあり方を考察し、著者がティールと呼ぶ組織へと変革していくプロセスやそのポイントを述べています。

 

本書は3部から構成されています。

「第Ⅰ部 歴史と進化」では、組織を人間および社会の発達段階(パラダイム)に応じて、衝動型(レッド)組織、順応型(アンバー)組織、達成型(オレンジ)組織、多元型(グリーン)組織、進化型(ティール)組織の5類型に分けて、それぞれの特徴を述べます。ここで色のメタファーを使っているところが本書の特色のひとつで、発達心理学や認知心理学などからの様々な知見を組織の発展段階の考察に借用しています。

「第Ⅱ部 進化型(ティール)組織の構造、慣行、文化」では、進化型(ティール)組織に特徴を、自主経営(セルフ・マネジメント)・全体性(ホールネス)・存在目的(エボルーショナリー・パーポス)という3種類の突破口(ブレイクスルー)から描いています。具体的には、著者がパイオニアとなる組織として紹介する次の12の法人のストーリーを通じて、進化型(ティール)組織の特徴が語られます。

 

【本書で登場する12法人】

AES(アプライド・エナジー・サービス、USA

BSO/オリジン(オランダ)

ビュートゾルフ(オランダ)

ESBZ(ベルリンセンター福音学校、ドイツ)

FAVI(フランス)

ハイリゲンフェルト(ドイツ)

ホラクラシ―(法人としてはホラクラシ―ワン、USA

モーニング・スター(USA

パタゴニア(USA

RHD(リソーシズ・フォー・ヒューマン・ディベロプメント、USA

サウンズ・トゥルー(USA

サン・ハイドローリックス(USA

 

それぞれの法人の事業概要や組織運営などについては、注1に挙げているウェブサイトなどを参考にしてください。

「第Ⅲ部 進化型(ティール)組織を創造する」では、既存の組織(その多くは達成型(オレンジ)組織かと思われます)から進化型(ティール)組織へと変革していく際のプロセスやポイントを述べます。といっても、変革プログラムや導入マニュアルなどといったものがあるわけではありません。進化型(ティール)組織は、組織モデルの普及という点ではまだまだ黎明期にありますから、プロセスやポイントが説明されるに留まります。

 

 実は、本書を読んでみて最も驚いたことは、筆者が以前勤めていた組織や直接間接に見聞きしたユニークな組織(残念ながら当時の筆者には単にユニークな組織という程度の認識しか持ち合わすことができませんでした)と、実によく似ている点が多々あったことです。もちろん、本書で紹介されている進化(ティール)型組織そのものにぴったり一致するという意味ではなく、組織運営・人事慣行・リーダーシップなどの面で、本書が指摘する特徴をもつものがあったということです。

 本書で考察対象として紹介されている法人は、日本ではあまり馴染みのないもののほうが多いのではないかと思われます。そこで、次回以降、本書で語られる進化(ティール)型組織について、こうした体験や見聞も織り込みながらご紹介することで、日本の組織にもその萌芽や展開が既に見られることを説明できればと思います。

 

(2)自主経営(セルフ・マネジメント)

 

自主経営(セルフ・マネジメント)・全体性(ホールネス)・存在目的(エボルーショナリー・パーポス)という3種類の突破口(ブレイクスルー)から進化(ティール)型組織を描いている本書のなかで、まずは自主経営(セルフ・マネジメント)について紹介してみます。

 

 組織といえば、それが営利企業であっても非営利団体であっても、何らかの形で組織図を描くことができるでしょう。通常、組織といえば、いわゆるピラミッド型で上下に指揮命令系統があります。

基本的には、その指揮命令系統にしたがって情報が上下に流れます。組織図や職務権限規程やジョブディスクリプション(職務記述書)などで事前に定められた固定的な仕事(果たすべき役割・職務内容)を割り当てられた個々の従業員が、事前に定められたルールや手順にしたがって仕事としてこなしていくイメージが一般的でしょう。

 進化(ティール)型組織では、多くの場合、フラットで柔軟な組織形態をとります。固定的な役割や上長による指揮命令ではなく、助言や調整のプロセスに従って、それぞれの社員が自ら意思決定をしながら仕事をしていきます。その前提として、徹底した情報共有が行われることになります。フラットといっても、単に権限を委譲する(注2)というのではなく、現実に中間の組織階層をなくし、スタッフ部門を極小化すことで、権限は自動的に第一線の社員がもつ形態となります。

自主経営(セルフ・マネジメント)というのは、一言でいえば、上司なし、部下なし、スタッフ部門なし、ということです。言い換えれば、現場の社員が自らリーダーシップをもって経費や投資を決めて実行することに、ほかなりません。

こうしたことが可能となる前提として、指示命令やルールなどによる強制に基づく仕事の進め方が不要であると全員が納得するだけの相互の信頼感が必要となります。また、当事者同士の話し合いで問題を解決する仕組み(モーニング・スターの例など)など、相互の信頼感を損なわないオープンなコミュニケーションの慣習も見逃せません。

これは、組織といっても伝統的な企業組織というよりも、コミュニティと思えば理解しやすいかもしれません。

数十年前であれば、日本企業の多くはその組織の実態が共同体(コミュニティ)としての要素を強くもったまま運営されていたようです。いわゆる日本的経営の3要素である終身雇用・年功賃金・企業内組合というのも、企業が単なるビジネス・マシンではなく、人間が存在するコミュニティとして機能していることを前提としているはずでした。いまでは喪失されたアフター5での飲み会を通じてのインフォーマル・コミュニケーションも、情報流通という点ではコミュニティを維持するのに不可欠な慣習だったのでしょう。

 

ここで、本書以外の2社の実例を比較しながら紹介します。

ひとつは、情報サービス・コンサルティング・教育研修などのビジネスを行っているA社です。この会社では、CEO自身も含めて、プロジェクトごとに果たすべき役割が変わり、ある時はプロジェクトリーダーとして顧客マネジメント・メンバーのマネジメント・成果物の品質管理・プロジェクトの収益管理などを行うこともあれば、1メンバーとして担当する仕事を処理するだけということもあります。個人個人の目標はありますが、能力開発や研究開発などの目標が中心で、収益目標は会社全体およびサービスライン(事業部に相当します)についてだけでした。

もうひとつはA社の同業他社のB社です。こちらは、ひとりひとりのスタッフが営業(顧客開拓)から回収までプロジェクトの全てを担当する体制でした。収益目標を一人ひとりがもち、その達成に責任を負うわけですから、当然、報酬も個人別の収益目標達成度に応じて決まります。その結果、より大きな目標をより高く達成した人が昇進・昇給も早く大きくなります。

ただ、これでは、組織としての知見やノウハウの共有(注3)、同一顧客へのクロスセリング(異なるサービスラインを売り込むこと)やアカウントマネジメントの強化、新たなサービスラインの開発などは難しいでしょう。しかし、収益へのこだわりとか短期的な業績向上などは確実に実現していましたし、サービスを開発したり新たな知見を導入したりするのは、他社からヘッドハンティングを行えば十分可能です。B社はそのように運営されていたわけです。

この2社の違いがもっとも大きく出たのは、危機対応であったかもしれません。

A社では、ある時、さる顧客企業の資金繰りが悪化したとの第一報が担当者から入りました。CEOはその場にいたスタッフ全員を集めて状況を具体的に説明したうえで、経営危機ということを社外には決して漏らさないように指示する前に、一般の社員から社外秘扱いという声が上がりました。このように、単に指示命令するのではなく、いま何が起こっており、次に何が起きると予想されるのかといった背景情報までも全体で共有しているからこそ、経営トップが指示する前に正しい方針が決まる例が多くありました。

B社では、ある時、さる顧客企業から重大なクレームが入りました。この顧客はグローバルに大きなプロジェクトを展開している先だったため、日本法人だけの問題ではなく、欧米やアジアでもクレームとなりました。結局、担当者が退職し、この一件の責任はすべてその人の個人的な問題として処理されたため、経営陣は事情を知っていても、多くの社員は何が起こっているのかわからないままでした。後に聞いたところでは、個人の問題どころか、各国のオフィスが連動して取り組むべきプロジェクトについてアジア地域では事前に知らされていなかったため、プロジェクトのスタートが遅れ、納期に間に合わなくなったそうです。そして、数年後に同様のケースが再度、発生してしまい、また別の担当者が退職していったそうです。

 

このように、進化(ティール)型組織の特徴である自主経営(セルフ・マネジメント)の要素をもっているA社と、形の上では地域とサービスラインのマトリクス組織となっているB社(達成型(オレンジ)組織と思われます)では、同じ業界業種とはいえ、組織運営も人事処遇も大きく異なっています。

会社の業績や従業員の報酬水準については、概ねB社のほうが高くて処遇は良かったかもしれません。一定期間は、確かにそうでした。にもかかわらず、A社からB社へと転職する人はあまりいませんでした。反対に、B社からA社へと転職する人は相応にいました。

こうした転職の動機が進化(ティール)型組織や自主経営(セルフ・マネジメント)にあると主張する気はまったくありません。むしろ、そこにいる社員個々のキャラクターや人脈といった要素が強く影響していたように思います。

もちろん、個人の能力や実績をアピールして、より高く評価して欲しい人や昇進することによって新たな肩書が欲しい人にとっては、B社は魅力的な職場と言えるでしょう。何しろ、A社には果たすべき役割はあっても、名刺上の肩書きは代表者や取締役くらいしかありません。

 

重要なことは、全員を平等にすることではない。従業員それぞれが自分の領域の中で最も力強く、最も健康になることを認めることだ。支配者の君臨する階層的組織はもはや存在しない。だからこそ、人々の間に自発的にできあがり、進化し、互いに重なり合う(たとえば、成長、スキル、才能、専門知識、認知度などの)階層が多数できても不思議ではない。(本書「ティール組織~マネジメントの常識を覆す次世代型組織」229ページより)

 

 中期的に見れば、進化(ティール)型組織の要素をもっていたA社から、さまざまな人材が出現し、自社だけでなく他社でも活躍するようになっていった事実とも、こうした表現は符号するように思われます。

 

(3)全体性(ホールネス)の回復

 

第二の突破口として挙げられている全体性(ホールネス)というのは、文字を見ただけでは自主経営(セルフ・マネジメント)よりもピンとくるのが難しいかもしれません。

ここでは、社員自身がもち感じている価値観や基準と、組織のもつ価値観や基準があっているかが問われます。言い換えれば、仮面を着けずに、自分の素顔のままで仕事をすることが日々できているかどうかという問題です。仕事をする上で、もし無理に仮面をつけて振る舞うことが必要であるならば、全体性が失われていると言えます。

圧倒的に多くの企業や団体では、ミッション・ステートメントなどの明示的な会社の方針や就業規則等の明文化されたルールが、そのまま現実の仕事に適用されているわけではないでしょう。特に人事処遇上のことや職場の慣行といった面では、不文律や暗黙の了解が現実を支配しています。

極端にいえば、上司や社長の顔色を伺いながら仕事をするのが一般的といえるかもしれません。仕事は仕事、自分の個人的な価値観とは関係なく機械的に仕事をこなすだけ、と割り切っていないと、とてもやり過ごすことができない理不尽や不公平な扱いに日々晒されている人も少なくないでしょう。

 どんなにITが発展しようとも、人間で構成される組織の多くが、まだまだ本音と建前のダブルスタンダードで動いているとすれば、面従腹背の社員ばかりになったり、社内政治に走る社員とそうしたことに無関心を装う傍観者的な社員だらけになりかねません。そして、そうした企業が成長・発展するほどに、取引先までもが面従腹背になったりするでしょう。

実際、社歴や業種などの違いはなく、普遍的とすら言えるほど、表面上の(紙に書いた)ルールと現実の運用ルール(不文律とかムラの掟というべきものか)には大きな齟齬があります。過労死するほどの長時間労働がなくならない一因は、本書の表現を借用すれば、全体性(ホールネス)の欠如にほかならないと言えるでしょう。

また、いわゆるブラック企業であるとか、パワハラやセクハラがまかり通っている組織というのも同様です。悪しき慣習や是正すべき慣行が放置されている以上、そうした職場環境で生き抜いていくには、いやなことでも甘受して耐え忍ぶか(その限度はありますから、どこかで個人のほうが破綻に瀕することになります)、仮面をつけて別の人格を演じてダークサイドに堕ちていく(その分、昇進昇給など処遇上のメリットは期待できるかもしれません)か、見て見ぬふりをして無関心な傍観者となるか、選択肢は限られています。

日常の仕事においても、意味がないからやりたくない仕事(たとえば誰も内容をろくに見もしない資料の作成など)、顧客満足度向上といいながら(儲けにはなっても)顧客のためにならないものを売りつける仕事、予算がないとか前例がないとかルール上認められないといった尤もらしい理由で実現しないアイデアなど、自分を押し殺さなければやり過ごすことができない情況はよくあります。そうした情況も全体性(ホールネス)が失われしまったケースに該当します。

 

多元型(グリーン)組織は、誠実、尊敬、寛大といった価値観を基礎とする文化を切り開いた。進化型(ティール)組織の詳細な基本ルールは、共有された価値観を次のレベルへと引き上げる。(中略)こうした文書は、安全で生産的な職場をつくるためのビジョンを提供する。健全な人間関係について社員たちがお互いに話し合うための語彙を与え、社内では許容されない行動と推奨される行動とを明確に分ける。

価値観に命を吹き込むには一編の文書だけでは足りない。本書のために調査した組織の多くは、創業時からよりよいスタートを切っている。新入社員は全員、オンボーティングの一環として、会社の価値観と基本ルールを学ぶ研修への参加を勧められる。なぜなら、この研修を通じて、組織全体に通じる共通の基準や共通の言語がわかるようになるからだ。

各社は、研修の後も価値観や基本ルールを生かしておくためには、それらについて徹底的に話し合う時間が必要だということにも気がついている。(本書「ティール組織~マネジメントの常識を覆す次世代型組織」256257ページより)

 

 進化型(ティール)組織において全体性(ホールネス)を回復するというのは、単に、誠実・尊敬・寛大といった価値観を実現するというよりも、社員一人ひとりが安心してのびのびと働くことができるようにすることではないでしょうか。そのためには、新たに採用された社員をはじめとして、創業者やCEOから現場で補助的な作業に従事している未経験者まで、相互に健全な人間関係を築いていくことが不可欠です。そうした人間関係があって初めて、自主経営(セルフ・マネジメント)を行う基盤が成立するように思います。

ちなみに、高い労働生産性を実現するには、心理的安全性は不可欠という調査研究もある(注4)ほどです。

ただ、これはちょっと考えてみれば当たり前のことかもしれません。何かを提案したり行動を起こそうとした時に、いちいち上司の顔色を伺ったり、周囲の同僚などの視線を感じたりしながらするのでは、アクションをとる時間やコストが余計にかかります。そのうえ、自己保身の方策を張り巡らしてであっても何か行動をとればいいほうで、いいアイデアを思いついたとしても誰も言わなくなるのが必然でしょう。

こうして、誰も何も言わなくなる組織ができあがります。ここでは、イノベーションも顧客満足も実現することは困難であることは論を俟ちません。アイデアを出すことをノルマにされて、本当に効果的なアイデアが出てくるのであれば、すべての組織が既にそうしていることでしょう。

新しいアイデアが欲しいなら、それを言いやすい雰囲気とかつい言ってしまう環境作りが不可欠です。もちろん、その前提として、解雇のおそれを感じることがないとか、余計なことを言って左遷される心配がまったくないなど、人事処遇上の安全性を実感できる運用の積み重ねも求められます。

 

全体性(ホールネス)について読むうちに思い出された会社が、二つあります。

ひとつめのC社は、ユニークな消費財を次々と開発し販売する会社として有名です。経営トップが社内を歩きまわり、いつでも気軽に社員に声をかけるのが日常となっています。歩きながら、この経営者は「こんなもん、売れるかい」とか「○○を企画したのは、お前か。始末書ものだ」と口では言うものの、実際に始末書をとったことは皆無です。

表面的な言葉の問題ではなく、実際の行動こそ社員は敏感に感じるところがあるのでしょうか、手厳しい言葉をかけられるほどに、次こそ「これはいける」と感心させようと社員も燃えるそうです。実は、本当に見込みのないアイデアには、何も言わないということも社内では知れ渡っているそうで、新入社員は入社早々、社長の前でアイデアを発表することで洗礼を受けるとも言われています。

また、社員全体からより広くアイデアを募るために、経営トップに直接送るメールもあり、定期的に社長賞のようなものが贈られるそうです。そのうえ、ちょっとしたアイデアであっても、経営トップや各部門の責任者から追加の質問や事実確認のメールが来たり、時には新しいプロジェクトを任されたりすることもあり、自分の一言で会社が変わることが実感できるのもC社ならではと言えるでしょう。

 

 もうひとつのD社はITサービスを次々と開発してきた企業でした。創業当初から、エンジニアやサービス開発担当者が自分のやりたいことをユーザーに問うというスタイルで成功してきたそうです。もともと、出退勤の管理などまったく行っておらず、自然発生的に在宅勤務も実践しつつ、オフィスは倉庫を改造してフリーアドレスで各人が好きなようにスペースを使う、今でいえば働き方改革の先頭を行っていたような企業でした。もちろん、スーツ姿の社員など一人もいなかったそうです。

数年前に企業規模も拡大しグローバルに事業を展開しようとして、株式公開の準備に入った途端に、そうしたカルチャーが一変してしまいました。経営幹部や営業を中心にスーツ着用が当たり前になり、出退勤どころか日々の日報代わりに自動的に詳細な時間管理システムが導入され、作業の進捗状況が計画通りでないと即日アラームが立ち経営トップにまでレポートが上がるなど、テレワークであってもなくても、きめ細かくチェックする体制となりました。また、オフィスも一般的なオフィスビルに引っ越し、フリーアドレスではあっても次第に会議が多くなるなど、普通の企業になっていきました。それが株式公開への準備とも社内では認識されていたのかもしれません。

しかし、こうした変化と同時に、新しいサービスの開発が進まなくなってしまいました。これではD社の存在意義そのものが根底から問われることになります。

この時期、エンジニアやサービス開発者などが次々と辞めていった半面、営業や管理部門には人が採用され続けました。ただ、D社の成り立ちや特徴などを教育することはなく、一般的な中途採用者が各々前職のやりかたを持ち込むだけ(本人は経営者の期待に応えようとしてD社にないものを導入しているつもりでしょう)で、仕事の手続きが煩雑になる一方でした。

こうして、株式公開準備に着手して1年ちょっとで、既存のサービスを維持・改善するだけの会社となっていました。結局、D社の創業者などは株式公開を中止し、同業他社に会社を売却することに至りました。

 

この2社のケースからも類推されるように、全体性(ホールネス)というのは、事業運営や企業全体の経営がうまく回っている時にはさほど意識されないかもしれませんが、何かのきっかけで失われて初めてその回復が課題となるものでしょう。

今はうまくいっているC社にしても、現経営者のキャラクターを抜きにしては社員との関係性を維持し続けることは容易でないと危惧されます。だからこそ、全体性(ホールネス)を体系的に維持・向上させていく仕掛けや工夫を本書で紹介されている企業から学ぶ必要がありそうです。

 

(4)存在目的(エボルーショナリー・パーポス)

 

 さて、組織で働く一人ひとりの人間の価値観が、その組織のもつ価値と一致するのが全体性(ホールネス)であるとして、組織のもつ価値に意味のあるものがどれほどあるのでしょうか。そうした疑問をもちつつ働いている人も多いと思われますが、この点に関して本書は辛辣です。

 

組織が定める「ミッション・ステートメント」が空疎に響くのは、自社の存在目的よりも「勝利」を重視しているからだ。ミッション・ステートメントは本来、従業員に感動と指針を与えるものだ。試しに、組織で働くだれかに、「あなたの会社のミッション(使命)を言ってほしい」と頼んでみよう。私がこれを尋ねるとほとんどすべての場合、うつろな目つきが返ってくる。時には頭をかいて、うろ覚えの文章を思い出そうとしながらぼそぼそと答える人もいる。CEOもミドル・マネジャーや現場の作業員と同じで、このテストに合格しない。人々がミッション・ステートメントを素直に受け入れないのは、それが行動や意思決定を左右するほどの力を持っていないからだ。経営陣が白熱した議論の最中に一呼吸置き、会社のミッション・ステートメントの方を見て「当社の存在目的は何を私たちに求めているだろうか?」と指針を求める姿など、少なくとも私は見たことがない。(本書「ティール組織~マネジメントの常識を覆す次世代型組織」325326ページより)

 

 ミッションといおうが、経営方針とか社是社訓といおうが、組織として何らかの指針や方針はあるでしょう。とはいえ、それは額に入れて社長室か役員会議室に飾ってあるだけ(目に見えるように掲げてあるだけマシかもしれませんが)という組織が大半でしょう。

確かに、これは本書が指摘するとおりです。これがクレドとして日常的に身に着けていたり、ビジョンとして社内のいたるところで目にすることがあるものであったりしたとしても、同様です。

そうしたものが、真に最も重視されているのかといえば、そうではないというのが現実です。結局は、売上だったり利益だったり、財務指標こそが最優先されるのがビジネスの日常であり現実であり、それが分からないようでは経営者やマネージャーとして失格の烙印を捺されても文句は言えません。少なくとも、進化型(ティール)組織を目指すわけではない普通の組織においては、そう断言できます。

 

(著名なビジネス書の)タイトルだけを見ても、現在のリーダーが何を目指すべきか、という考え方がわかる。それは成功であり、競争相手を打ち負かすことであり、トップにのし上がることだ。この見方に従えば、利益と市場シェアが重要項目となる。これは株主モデルの本質だ。(中略)

最近は、新しい見方が台頭してきた。これは「ステークホルダー・モデル」と呼ばれ、企業は投資家だけでなく、顧客、従業員、サプライヤー、地域コミュニティー、環境そのもののニーズにも答えなければならないという主張である。(中略)進化の観点からすると、(多元型(グリーン)の)ステークホルダー・モデルは、それよりもせまい(()成型(レンジ)の)株主モデルよりも明らかに一段階上のステップにいる。しかしステークホルダー・モデルでもなお、組織がすべてのステークホルダーに奉仕できるようになるには、人による意図的な介入が必要だとみられている。

もう一段進んだステップ、つまり進化型(ティール)組織の視点とは、組織をもはや資産として(またさまざまなステークホルダーに奉仕する共有財産としても)見ない、ということである。組織は独自の存在目的を追求する一つのエネルギーが集まる場、新たに成長する可能性、ステークホルダーを超越する生命の一つのあり方ととらえられる。(本書「ティール組織~マネジメントの常識を覆す次世代型組織」372373ページより)

 

 結局のところ、大半の組織にとって本音ベースの使命とは、生き残ることでしょう。そのためには、営利企業であればとにかく儲けること、非営利企業であれば、何らかの存在意義をアピールして予算を獲得することに他ならないのではないでしょうか。

特に、トラブルに見舞われた時や業績が悪化した時に、どういう方針が打ち出されるのかによって、経営トップや部門マネージャーの本心が分かります。圧倒的に多くの場合、まずは金であり、利益を出すことが最優先に求められます。

たとえば、製品のリコールにつながるほどでないとしても自社のポリシーや基準に合わないところがある製品があったとして、その問題となっている自社製品を買わないように顧客に呼び掛ける企業など、そうそうないでしょう。実際、環境問題にせよ、労働環境の問題にせよ、自社のミッションやポリシーとして打ち出している公式の方針に反するようなことがあった場合、自社の売上や利益を無視してまで対応策をとる企業はそうそうありません。特に問題となっていることが、明らかな法令違反でないとすると、大半の組織は公表することも避けるでしょう。

こうしたポリシーや基準は、業績評価や日常の業務報告においても評価対象であったり報告すべき事象であったりもします。とはいえ、ミッション・ステートメントや経営方針に何が書かれていたとしても、予算や財務目標などがより優先されたり重視されたりするのが一般的ではないでしょうか。

現にBSCのようにステークホルダー・モデルに適合的なマネジメントシステムはあります。ここでも最優先すべきは、利益でありビジネスの成功でしょう。他の指標は、無視しないまでも優先順位は下がります。特にマネジメントレベルが上位になるほど、そうした傾向が顕著に強まります。そしてそれは、高額な役員報酬のスキームといった形で利益や成功へのプレッシャーとなります。

少なくとも、財務指標よりも優先される価値基準をもち、それが日常の仕事において実践されている企業には滅多にお目にかかりません。

 

存在目的(エボルーショナリー・パーポス)を考えていたところ、建設資材メーカーのE社とF社のことを思い出しました。

もともとE社はシェア重視の会社で、シェアを確保し0.1%でもシェアをアップさせるためには自ら価格競争を仕掛けるのを厭わない企業でした。いわば、レッドオーシャンで泳ぎ続けるのが戦略です。

一方、F社は独自の製品を開発し、ユニークなデザインや他社がやろうとしないカラーバリエーションを展開するなど、規模はあまり大きくはないものの、業界内で一目置かれる存在でした。社員の自主性に任せて顧客に提案して、時には顧客の開発計画の当初から深く食い込んでいくこともありました。E社との対比でいえば、極端に細分化された市場(個々の顧客)において、その市場をブルーオーシャンに変えていくところに強みがあります。

F社の創業経営者の後継問題もあり、E社がF社を買収する形でこのふたつの会社は合併しました。その結果、本書の表現を借りれば、F社が無自覚にもっていた「独自の存在目的」である他にない製品を開発・提案して、建設物・建築物に顧客独自のものを表現する組織のDNAとも呼ぶべきものが、合併後数年もしないうちにほぼ全て見られなくなったそうです。

E社は、シェア第一の行動原理とそれを支えるマネジメントシステム(目標達成度などの結果による信賞必罰の人事制度、数値による目標管理、PDCAを細分化した進捗管理、上意下達のコミュニケーションなど)が徹底していたので、そのなかにF社の社員たちがばらばらに配置されるようになった以上、当然の帰結と言えます。F社の社員の4分の1ほどは自主的に退職しましたが、大半はE社の存在目的に自分を合わせて生き延びていったことになります。

存在目的(エボルーショナリー・パーポス)は、何か紙に書いて方針として定めたり、戦略的かつ意図的に変更したりするものではありません。むしろ、日々の仕事の中で自然と体得されたりするものかもしません。存在目的が一変することはそうそう経験できないことかもしれませんが、合併とその後の統合プロセスのように、そうした契機となる場合があることもまた事実です。

ちなみに、存在目的(エボルーショナリー・パーポス)は個人の価値観というわけではありません。E社で働くようになった元F社の社員のように、同じ人が同じ業界で同じ時期に働いているとしても、どのような組織に属しているのか、その組織がどのような価値観や行動規範で動いているのか、そういった集団のもつ価値観や行動規範こそ、進化型(ティール)組織を考える際に注目すべきポイントです。

 

本書で言及されているように(367372ページ)、感謝や振り返りを日常的に繰り返し行うことで絶えず組織の存在目的(エボルーショナリー・パーポス)を問い直す慣行が、基本的で最も効果的なマネジメントシステムとなっているのでしょう。そしてそれは、経営トップなどのリーダーも、現場の第一線で働くアルバイトやパートタイマーも、すべての社員が等しく実践してこそ、意味のあるものとなります。

したがって、他の経営管理ツール(予算管理、財務管理、購買管理、人事管理などおよび職務分掌や会議体・稟議・決裁等の意思決定ルールなど)やチェンジマネジメントなどの経営変革ツールなどは、ここでは不要となります。感謝や振り返りを真摯に行うことこそ、存在目的(エボルーショナリー・パーポス)を実践する進化型(ティール)組織に不可欠な特徴と言えるでしょう。

 

(5)進化型(ティール)組織を作り出すには

 

 本書は、自主経営(セルフ・マネジメント)・全体性(ホールネス)・存在目的(エボルーショナリー・パーポス)という3種類の突破口(ブレイクスルー)から、その特徴を描いていますが、最後に進化型(ティール)組織を作り出したり、既存の組織を進化型(ティール)組織に作り変えたりしていくポイントを述べています。

そこで最も重要なのが、経営トップ(CEO)と組織のオーナーです。その果たすべき役割が従来の組織とは大きく違うことを、当人たちが自覚的に理解して、従来のCEOや取締役および株主の役割や行動を自ら変えていくことが求められます。

 

組織の運命を左右するのは、経営トップと組織のオーナーの世界観だけなのだが、かなり高い壁であることは間違いない。(中略)ミドル・マネジャーやシニア・マネジャーは何ができるだろう? もちろん、具体的な事例を示したり、実際の進化型(ティール)の慣行をとり入れていくべきだとCEOと経営チームの説得を試みることはできる。しかし残念なことに、私はこの方法もそれほど有効とは思わない。なぜなら、リーダーたちに進化型(ティール)の見方を無理強いしているのと変わりないからだ。発達段階を上がるのは、複雑で、神秘的で、精神的なプロセスだ。それは自らの内側から起こるもので、どんなに素晴らしい主張をもってしても、外から強制されてできるものではない。(本書「ティール組織~マネジメントの常識を覆す次世代型組織」396397ページより)

 

 このように断言されてしまうと、進化型(ティール)組織で働きたいと思っても、まだまだ進化型(ティール)組織が多く存在するとはいえない以上、一般の人はなかなか機会に恵まれないことになります。

現実には進化型(ティール)組織を自ら謳って採用活動を行う企業にそうそうお目にかからないということは、自ら起業するなどして創業者=経営トップとなるのが、進化型(ティール)組織で働く近道といえるかもしれません。

 

CEOが果たすべき、極めて重要な、二つの新しい役割があるという点だ。進化型(ティール)の運営を行うこと、そして、進化型(ティール)の行動の模範を示すための空間をつくって、維持することだ。それ以外の点では、CEOは社員と何ら変わるところはなく、必要なものは何かを感じ取り、プロジェクトに関わり、助言プロセスを用いて判断を下す。(本書「ティール組織~マネジメントの常識を覆す次世代型組織」400ページより)

 

進化型(ティール)組織の経営トップというのは、従来のCEOと異なり、アメリカ企業社会で典型的に見られるヒーローとしてのリーダー=CEOでもなく、古い日本企業に見られたお神輿として担がれる存在のサラリーマン経営者でもなく、ましてや独裁的独善的なオーナー社長でもありません。

CEOこそが、自主経営(セルフ・マネジメント)のチームの一員として働き、自分だけでなく社員も安心して本音で語ることができる職場を実現し、組織の存在目的(エボルーショナリー・パーポス)を社員とともに振り返ってみることになります。

ここでは経営トップは、対外的に会社を代表する役割であるとしても、対内的には進化型(ティール)組織を運営する社員の一人に過ぎません。そうはいっても、CEOが自ら進化型(ティール)組織で働く人の「よき見本」となることは不可欠です。この見本が倫理的にも実務的にも正しいものとして機能しない限りは、進化型(ティール)組織はあり得ません。

 

組織を進化型(ティール)の視点から運営するための二番目の条件は、CEOだけでなく、取締役会も進化型(ティール)のレンズで世界を見なければならない、という点だ。(中略)調査した企業の中の二社については、新しい運営方法を始めたにもかかわらず、従来型の経営方式に戻ってしまった。いずれも、取締役会が創業者と同じ目線で世界を眺めることができず、進化型(ティール)の経営方式をとりやめたのだ。(本書「ティール組織~マネジメントの常識を覆す次世代型組織」420421ページより)

 

経営トップに経営を委ねるのが取締役会である以上、経営トップを選び、その報酬や評価を決める取締役会もまた、進化型(ティール)組織について理解し、その運営について支持する必要があります。取締役会の運営そのものも、進化(ティール)型組織の運営がなされるべきかもしれません。

というのも、事業組織がいくら進化型(ティール)組織の運営を実現しているとしても、取締役会が従来の組織と同様の運営の下にあるとすれば、そこは依然として達成型組織であったり多元型組織であったりする以上、財務目標の縛りが厳しかったり、さまざまなステークホルダーの思惑が蠢いていたりするので、経営トップが全体性(ホールネス)を感じながら仕事をする状況にはないでしょう。その結果、事業運営も進化型(ティール)組織の運営から離れて従来の組織運営と変わらないものに移り変わっていくことが十分に予想できます。

 

今日の世界では株主が企業を所有し、オーナーとして会社が何をすべきかを自由に選ぶことができる。多元的(グリーン)組織の観点に従うと、株主は数多くのステークホルダーの一つにすぎず、株主の力は従業員、顧客、サプライヤー、地域社会、環境といったそのほかのステークホルダーに与えられた発言権によって制約を受けるはずだ。進化型(ティール)組織の視点に立つと、株主の力は制約されるべきではないが、組織の存在目的のほうが超越した存在なのだ。(中略)たとえばホラクラシ―は、取締役会が採用でき、将来の株主までも拘束する「憲法」の草案を作り上げた。この草案では、株主は財務に関する事項で正当な発言権を得るが、戦略を一方的に押しつけたり、組織を従来型の経営慣行に戻したりすることは禁止されている。(本書「ティール組織~マネジメントの常識を覆す次世代型組織」427ページより)

 

 進化型(ティール)組織を運営し続けていくには、こうした意味での経営の民主化が必要とされます。さきほど引用したなかで言及されているように、進化型(ティール)組織として運営されていたものが、オーナーシップの移動をきっかけに従来の組織運営に変わってしまった例もあります。

 本書は進化(ティール)型組織の考え方や運営手法を解説する本でありながら、ある意味では失敗と呼ばざるを得ないケースについても紹介するなど、著者がこのテーマに取り組む姿勢についても誠実さが感じられます。

 

(6)本書を活用するには

 

 本書は、進化型(ティール)組織のガイドブックとして参照する価値があります。それだけでなく、進化(ティール)型組織を目指さない場合にも、それぞれの組織運営形態、特に達成型や多元型の組織についても、その特徴や運営のポイントが表形式でコンパクトにまとめられており、組織運営を見直す際の指針となります。

これから起業しようとする人にとって、組織を立ち上げて運営していく際にモデルとして参照すべきものが何か、ヒントを与えてくれるでしょう。また、付録①「調査用の質問票」は、組織運営をどうすべきか考えている起業家や経営者にとって、ひとつひとつに答えていくことで、自社の組織がどうあるべきか、また現実はどうなっているのか、自然と分析ができます。たとえ進化型(ティール)組織を目指さないとしても、この質問票を使って実際に機能する組織を設計することができるでしょう。

従来の組織のありかたに違和感をもっている人や新しいビジネスには新しい組織があるはずと考えている人にとって、本書で紹介されている進化型(ティール)組織はそれぞれがストーリーで語られているので、具体的な場面で理解しやすいと思われます。これらの組織はまた、その手法や組織改革の経緯などをオープンにしているところばかりなので、学ぶのに便利でもあります。

たとえば、ビュートゾルフは、オランダの地域医療・介護サービスのNPOですが、既にグローバルに事業を展開しています。日本でも2014年と2017年にCEOのヨス・デ・ブロックが講演を行ったり、日本法人を設立したりするなど、日本語で情報を収集しやすいという点で最も学びやすい組織です。

FAVIというフランスの自動車部品メーカーについては、25年以上の経緯や組織運営の詳細が300ページ近い英文の資料(2006年時点)にまとめて公開されています。このように、その組織の歴史を取りまとめてみるというのも、自社の組織運営の特徴を振り返ってみるのに効果的です。そしてそこから、自社の組織運営の特徴や型が見て取れるはずです。

モーニング・スターというトマト加工会社は、特に自主経営に関する情報提供・学習のためのサイトを会社として用意しており、進化(ティール)型組織として独自の組織運営を担う社員がそのやりかたを自ら学習する機会を保証しています。こうしたサイトと自社の教育プログラムを比較してみると、身につけるべきスキルやマインドセットの面から進化(ティール)型組織の特徴が理解できるかもしれません。

ホラクラシー(法人としてはホラクラシーワン)に至っては、自ら開発し手法を整備したホラクラシーという組織運営モデルを普及させることが事業となっています。本格的に進化型(ティール)組織を導入しようとするならば、それもグローバルな組織展開を考えているならば、ある程度は確立した手法を活用することも検討すべきでしょう。

もっと気軽に進化型(ティール)組織の雰囲気を感じ取るには、サウンズ・トゥルーのウェブサイト(英語)の“about us”のところを参照してもいいかもしれません。そこには、職場に連れてきているペット(主に犬と猫)と社員の紹介があります。また、既に亡くなってしまったペットについても、記録が残っています。

 

本書の紹介の最後に注意したいことが3点あります。

第一に、外部から強制して進化型(ティール)組織を作るのは避けるべきだということです。

経営者や社員が自ら従来の組織のありかたに疑問を持ち、別のやりかたがあるのではと感じるところがスタート地点です。その次に、具体的な手法やプロセスを学ぶことになったときに、本書で紹介されている組織の事例が参考となるでしょう。

第二は、経営者や起業家などが経営に関する情報を社員に向けてすべてオープンにする意思が本当にあるのかどうか、そして、社員が決めたことを実行に移すのを見守っていることができるのかどうか、という経営トップ自身の経営スタイルや意思決定スタイルにおける進化型(ティール)組織との適合性です。

特に自らがすべてを決めないと気が済まないタイプの経営者や、会社の財務情報や技術・ノウハウなどを通じて会社の真の姿を社員に知られたくないCEOなどは、無理に進化型(ティール)組織に自社を変えていく必要はありません。

第三に、これも経営トップ自身のことですが、経営者や起業家などの個人的な資質や性格が周囲の人々にとって、親しみやすく相談しやすいキャラクターかどうかという点です。

これが実は一番厄介なポイントかもしれません。というのも、社員Aにとってはいつも笑顔を絶やさず相談しやすいCEOであっても、社員Bにとっては笑顔の裏に冷酷な影を感じてしまい(そう感じるに足るキャリアや実績があるため仕方がないのですが)、表面的には相談を持ちかけるように見えても本心は明かすことができないかもしれません。社員Bにとっては、自主経営も全体性の回復も存在目的の進化も画餅です。

以上のように、進化(ティール)型組織はすべての組織にとってのモデルとなるものではありません。これを踏まえて本書の一部でも活用できるものは活用すべきでしょう。実際、ビュートゾルフの分散型のチーム運営の方法は、サテライトオフィスや在宅勤務などが多くなりつつある現在、十分に示唆に富むものがあります。

 

 

【注1

AES(アプライド・エナジー・サービス)

現在のAES社のウェブサイトは以下のとおりです。

http://aes.com/

 

BSO/オリジン

フィリップスのグループに入った後にフランスのIT企業アトスと合併することになり、現在は法人としては残っていません。なお、現在のアトスのウェブサイトは以下のものがあります。

https://atos.net/en/about-us/company-profile

 

・ビュートゾルフ

オランダの地域医療・介護サービスのNPOですが、日本法人については以下のウェブサイトがあります。

http://buurtzorg-services-japan.com/

2014年にCEOヨス・デ・ブロックが日本で行った講演の資料も公表されています。

http://www.glafs.u-tokyo.ac.jp/wp-content/uploads/2015/08/3Jos_de_Blok.pdf

 

ESBZ(ベルリンセンター福音学校)

この教育機関のウェブサイトは以下のものです(ドイツ語)。

http://www.ev-schule-zentrum.de/aktuell/

なお、英語の資料としては、たとえば次のような概要紹介のものがあります。

http://www.gels.asia/esbz/

https://www.theguardian.com/world/2016/jul/01/no-grades-no-timetable-berlin-school-turns-teaching-upside-down

 

FAVI

このフランスの自動車部品メーカーのウェブサイトは以下のものです(フランス語)。

http://www.favi.com/

この会社のストーリーをまとめた英文の資料(2006年時点)が公開されています。300ページ近いもので、25年以上の経緯や組織運営の詳細が紹介されています。

http://uk.ukwon.eu/File%20Storage/5160692_7_The-story-of-favi.pdf

 

・ハイリゲンフェルト

ドイツの医療サービス企業のウェブサイトは以下のものです(ドイツ語)。

https://www.heiligenfeld.de/

 

・ホラクラシー(法人としてはホラクラシーワン)

ホラクラシーワン社を設立し、ホラクラシーという組織運営モデルを開発・普及に当たっているブライアン・J.ロバートソンが自らホラクラシーについて述べた本は、既に日本でも出版されています。

https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784569827711

ホラクラシーの導入例として注目を集めた企業のひとつザッポス社について、CEOト二ー・シェイのインタビュー記事があります。

https://www.dyna-search.com/jp/23981

会社としてのホラクラシーワンについては、以下のサイトを参照してください(英語)。

https://www.holacracy.org/holacracyone

 

・モーニング・スター

このトマト加工会社のウェブサイトは以下のものです(英語)。

http://www.morningstarco.com/

特に自主経営に関する情報提供・学習のためのサイトも用意されています(英語)。

http://www.self-managementinstitute.org/

 

・パタゴニア

ウェブサイトは一般的なオンラインショップのように見えますが、“インサイド・パタゴニア”のところに会社の方針や組織運営などが明示されています。

http://www.patagonia.jp/home/

 

RHD(リソーシズ・フォー・ヒューマン・ディベロプメント)

この非営利組織については、以下のウェブサイト(英語)を参照してください。

https://www.rhd.org/

 

・サウンズ・トゥルー

この会社のウェブサイト(英語)もオンラインショップとして一般的なものに見えます。

https://www.soundstrue.com/store/

ただし、“about us”のところには、職場に連れてきているペット(主に犬と猫)と社員の紹介があります。また、既に亡くなってしまったペットについても、記録が残っています。

https://www.soundstrue.com/store/about-us/sounds-true-dogs

 

・サン・ハイドローリックス

この流体制御・エレクトロ二クスの部品開発製造企業のウェブサイトは以下にあります(英語)。

http://www.sunhydraulics.com/

なお、上場企業のため、株価情報(以下のサイト)や投資家向け情報などもあります。

http://www.sunhydraulics.com/node/64139

 

【注2

権限を委譲する組織は、本書によれば多元型(グリーン)組織になります。委譲ということは、本来の権限は上位者(究極にはトップマネジメント)にあることになり、進化(ティール)型組織のように権限がそれぞれの社員にあるというものとは異なります。

 

【注3

自分の成功パターンや新たに獲得した知見やノウハウを、わざわざ他人に教えて社内ライバルを自ら作る人はいないでしょう。

 

【注4

グーグルにおける調査研究から得られた知見については、たとえば以下の記事やサイトで紹介されています。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48137

https://www.lifehacker.jp/2017/08/170817_successteam_5traits.html

https://navi.dropbox.jp/google-worker

 

文章作成・編集:QMS代表 井田修(2018627日)