新着コラムをご紹介いたします。

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リモートワークにおけるリーダーシップ(1

 

コロナ禍を契機にリモートワークを本格的に導入する組織が多くなるにつれて、改めてリーダーシップを巡るさまざまな課題が明らかになってきました。

特にコロナ禍への対応が二転三転したり、方針は決まってもなかなか実行に移すことが容易でなかったりする状況下では、誰もリーダーシップを執らない(執れない)まま時間が過ぎて、身動きが取れない企業もあります。その一方で、状況の変化に機敏に対応して、事業を作り変えたり、収益を増大させたりする企業も少なくありません。

この違いはどこから生じるものでしょうか。

一言で言えば、変化に対応するリーダーシップの違いから生じるものでしょう。つまり、変化の方向がわずかにでも見えるものがあれば、その方向に試行錯誤の第一歩を踏み出すリーダーが機能している組織と、そうではない組織との違いが明確な差となって現われているのです。

ここで注意したいのは、リーダーは必ずしも組織の長というわけではないということです。むしろ、現場にいて仕事の組み立てを熟知している人が、状況の変化に応じて新たな仕組みを生み出していることが、リーダーシップを発揮していることなのです。

組織上の長は、檄を飛ばしたり細かく指示を・命令を下して自ら先頭に立って活動するというよりも、現場が動きやすいように必要な経営資源を調達したり周囲の雑音から現場を守ったりすることに注力していることが多いように思われます。

実際、コロナ禍に置かれている組織に求められるリーダーシップというと、現場の創意工夫・試行錯誤から新たな枠組みや仕組みを作り出していること、それらを迅速に集中的に実施するために必要な支援を与えたり障害を取り除いたりすること、何かと不自由な状況や例外処理に迫られる事態が多い中で落ち着いて指示や提案を行っていること、時には朝令暮改を厭わず違っていたりダメだと判断すれば即座に方針を変えること、そして、これまで行ったことがない仕事や処理方法に対して逃げずにとりあえずやってみる余裕があること、といった事象を見て取ることができます。

この連載では、コロナ禍のような想定外の状況におけるリーダーシップのありかたを、改めて考えてみたいと思います。

 

なお、当サイトでは、これまでにもリーダーシップについていくつかの事例などをコラムや書籍紹介の形で採り上げてきました(注1)。リモートワーク固有の課題を扱っているわけではありませんが、それぞれの事例を通じてリーダーシップを巡る議論の一端を理解できます。

 

作成・編集:経営支援チーム(2021414日更新)

 

【注1

当コラムで過去に採り上げたリーダーシップに関するものは、次のようなものがあります。

「2001 キューブリック クラーク」に見るリーダーシップとイノベーション

「超越の棋士 羽生善治との対話」に見るリーダーシップ

1918年の最強ドイツ軍はなぜ敗れたのか」に見るリーダーシップと戦略

入社式の訓示に注目!

また、“書籍のご紹介”で採り上げたことがある「ビジネススクールで教えているファミリービジネス経営論」では、ファミリービジネスにおけるリーダーシップのありかたとして、スチュワードシップが紹介されています。

 

 

リモートワークにおけるリーダーシップ(2

 

コロナ禍にあるかどうかに関係なく、リーダーシップは組織で仕事を進めていくのに必要不可欠なものです。そのことに異を唱える人はまずいないでしょう。それでは、リーダーシップとは何なのか、いつどのように発揮すればよいのか、そして結果とどのような関係にあるのか、こうしたことを明確に意識して実践している人は稀かもしれません。

 

まず、本稿におけるリーダーシップの定義と考察する上での枠組みについて述べます。

ここではリーダーシップというのは、複数の人々が仕事(注2)を行う際に、関係する人々に何らかの影響力を行使して自ら主体的に仕事を進めることとしましょう。そのリーダーシップを考察するには、リーダー、フォロワー、オブザーバー、そして(仕事をする)場を検討しなければなりません。

リーダーは、自ら主体的に仕事を進める人です。ただ、その仕事は一人ではできないものです。一人で完結する仕事には自主性や積極性は必要かもしれませんが、リーダーシップは不要です。

言い換えれば、リーダーシップとは行動や発言を通じてある結果や目標に向かって人々(関係者)を動かして結果を生み出すことに他なりません。リーダーとはリーダーシップを発揮して仕事を進める人です。

フォロワーは、リーダーがやろうとしていることを理解し協力していっしょに仕事を進める人(たち)です。企業という組織で言えば、通常は上司がリーダーで部下がフォロワーとなります。ただし、これはあくまでも一般論で、個々の仕事においては部下がリーダーで上司がフォロワーとなる場合も往々にして発生します。

例えば、チーム全体で「今期の売上目標を達成する」ということは、チームの責任者である営業所長がリーダーとなってチーム全員で取り組むものでしょう。しかし、個々の営業先に対してどのようなアプローチでどのような提案をして売上につなげていくかということは、営業担当一人ひとりがリーダーシップを発揮して取り組まなければ結果に結びつけることはできません。個々の営業先については、営業所長はリーダーではなく、担当営業をサポートするコーチや支援者として動かなければなりません。

オブザーバーというのは、リーダーやフォロワーと違って直接その仕事を進める立場や役割にはないものの、仕事の進み具合やその結果が自分の仕事に影響を及ぼすなど何らかの間接的な関係も有するものです。新入社員にとってみれば、他の部署に配属になった同期入社の人とか、採用担当だった人事の人などです。

オブザーバーはリーダーの直接の影響下にはありません。さきほどの例で言えば、営業所長がリーダーとして振る舞う影響は、あくまでも当該営業所だけですが、同じ営業所長同士はオブザーバーとして相互に営業所長としてのリーダーシップのありようを見合っているでしょうし、他の営業所の営業担当者も自分のところの所長と比較して他の所長の評判を見聞きしているでしょう。

そうした見聞が何らかの形で自分のところの営業所長のリーダーシップのありように影響しないはずはありません。「A所長は頭ごなしに怒らずに、ちゃんと事情を聴いてくれる(それに引き換え、うちの所長はまともに部下の話を聞こうとしない)」とか「B所長は同行セールスでとれたお客さんも、部下のCさんの手柄として部長に報告したそうだ(うちの所長は部下の手柄も自分でやったことにしている)」といった噂話でも、他の所長の耳に入れば何らかの影響があるかもしれません。

 

リーダーシップを考察するには関連する人々だけを検討するだけでは不十分です。なぜなら、仕事をする場のありかたもリーダーシップを規定し大きく左右するものであるからです。この「場」というのは、組織のありかた、コミュニケーションのシステムやツール、仕事のコンテクスト、個人のキャラクターなどから構成されます。

組織のありかたというのは、組織の規模、組織図で表される組織の形や相互の関係(上下関係、指揮命令系統など)を始めとして、組織の運営方法、意思決定や命令・報告などのルート(公式のものだけでなく非公式なものも含む)、職務権限や責任範囲、職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)、固有名詞ベースの人員配置、公式の組織図には表示されない非公式なネットワークなどを含みます。

コミュニケーションのシステムやツールというのは、口頭(直接の対面、電話やZOOMなどによるリモートによるもの)・文書・IT(メール、チャット、ファイル共有など)などの仕組みによる違いもありますし、11(個別の指示・指導・面談・相談・助言など)、1対多(訓示・集合教育・CEOからの手紙・マニュアルやパンフレットなど)、多対1(目安箱・従業員意識調査・顧客満足度調査など)、多対多(会議、展示会などのイベントなど)といったチャネルによる違いもあります。

仕事のコンテクストというのは、どういう事情や経緯でその仕事を進めているのかということです。次々とうまく行っている状況で更に次の仕事をしようとしているのか、立て続けの失敗の中で何とか失地を回復しようとしているのか、同じ組織で同じ人が取り組むにしても、そこに至る経緯や事情が違えば取り組む姿勢(マインドセット)や求められるスキルセットも違ってきます。

時には、リーダーとフォロワーの人間関係もコンテクストを左右します。「この前、この人の言うとおりにやって、お客さんに怒られた」と10年前のことでもしっかりと部下は覚えていることであっても、マネージャーはそのことを忘れたままリーダーシップを発揮しようとして、あれこれと指示を出しても部下は聞く耳をもたないでしょう。

そして、個人のキャラクターもリーダーシップにおける場(コンテクスト)を考える上で無視できない重要な要素です。真面目に仕事に取り組んでいるにも関わらず成果が挙がっていないプロジェクトチームに、仕事はもうひとつでもどこか憎めないキャラクターのアシスタントをチームリーダーにつけたところ、チームのムードが明るくなり、ダメでもともとといった楽観的な空気が出てきて、プロジェクトも動き出すようになる、そういったエピソードはプロジェクトで仕事を進める組織ではよくあることです。このようにチーム内の特定の1人を入れ替えるだけで、チームの雰囲気が一変することは実によくありますし、そうした狙いで人事異動を行うことも常套手段と言えます。もちろん、反対に、あの人が加わったプロジェクトは、途中まで順調であっても最終的には必ず立ち消えになる、そういうキャラクターの人もいます。

 

従ってリーダーシップはTPOに応じて変化し、リーダーがそのスキルや適性を発揮する様もまた変化するものです。実際の企業組織でチームを率いてそれなりに結果を出している組織リーダーにとって、こうした変化は自然発生的なものかもしれません。誰に何をどのタイミングでいかなるコミュニケーション・チャネルを通じて伝えれば、相手を動かすことができるのか、巧みに使い分けることができるのが優れたリーダーの要件のひとつです。

ちなみに、状況に応じて変化するリーダーシップというと、シチュエ―ショナル(状況対応型)リーダーシップを思い浮かべる方もいらっしゃると思います(3)。シチュエ―ショナル(状況対応型)リーダーシップは部下の発達(成熟)度に応じて上司は指示のスタイルを変えていくことがポイントですが、リーダーシップは上司と部下だけを見ていればいいものではありません。そのほかの関係者(オブザーバー)やリーダー・フォロワー・オブザーバーが仕事を進める場についてもしっかりと把握しておかないと、適切なリーダーシップを実行することはできません。

 

作成・編集:経営支援チーム(2021419日更新)

 

【注2

金銭を介しての労働という意味よりももっと広く「2人以上の人が共同で行う作業」というくらいの意味で、仕事を仮に定義します。

 

【注3

ケネス・ブランチャードが提唱したSLSituational Leadership)理論では、部下の発達(成熟)度が低い段階では上司は詳細な指示を出して部下を動かす指示型から、少しは部下からアイデアや意見を出させて自立を促すコーチ型を経て、業務遂行能力が十分に身についたところでより高いモチベーションを引き出す援助型となり、最終的には基本的な意思決定(方針や目標の設定)まで本人に委ねて上司は報告を受ける委任型へとリーダーシップのありかたも変えていく必要性が説かれています。

 

 

リモートワークにおけるリーダーシップ(3

 

リーダーシップが問われるのはリモートワークに迫られたからではありません。政治にせよ経済にせよ、また日常の暮らしの中にせよ、地球温暖化や経済的な格差の拡大など国家を超えるような課題について取り組むにせよ、どのような局面においてもリーダーシップのありかたが問われています。言い換えると、リーダーシップがうまく機能していないから多種多様な課題を解決するに至らない現実があります。

 さらに言えば、リーダーシップが効果的に機能する以前の問題としてまず、リーダーシップについての誤解があることを指摘できます。

 

代表的な誤解のひとつに、優れたリーダーシップを有する個人が存在するといったものがあります。

 もし、リーダーシップが個人の資質や特性で決まってしまうとすれば、いわゆる「生まれながらのリーダー」とか、宗教的な意味合いでの救世主のようにリーダーとなって現世で苦しむ人々を救済するように運命づけられている人、すなわち「神によって選ばれし者」だけがリーダーとなってしまいます。

こうしたリーダーの存在だけを仮定するとすれば、組織運営などできなくなります。リーダーの数が足りなくなるからです。また、起業家もそうそうお目にかからない存在になりかねません。

起業家とは起業するという状況において自ら起業する人です。その起業家を発掘しようとすれば、自ら起業のチャンスをつかもうとする人にチャンスと資源を与えるのがベンチャーキャピタリストであるはずです。もし、もって生まれたリーダーシップを起業家に求めるとすれば、三賢人よろしく起業家となるべき人を探し出すのがベンチャーキャピタリストの役割になってしまいます。

起業家が起業という局面におけるリーダーであることは間違いありません。とはいえ、そのリーダーシップはその局面で望まれるものであるに過ぎず、天賦の才ではありません。もし天賦の才だとしたら、アメリカは神が選んだ起業の国ということになるでしょう。すると、多分、日本は選ばれた国ではなさそうです。これでは、起業を政策的に活性化させることは諦めるしかありません。

この結論に多くの人は同意できないでしょう。つまり、起業が盛んかどうかは、起業家的なリーダーシップを持つ人が多く存在するというよりも、企業を取り巻くビジネス環境の違いに着目すべきです。個人の資質の違いを議論するよりも、起業を促進する事業環境を法的にも社会的にも整備するほうが現実的な効果がありそうです。

 

同様にカリスマ的なリーダーシップというのも、リーダーの個人的な資質や特性ではないことに気がつきます。カリスマ的な人を求めるフォロワーの心理・心情や、その局面に至る経緯などから、一気に課題を解決してくれる人を求める状況にピタリとうまく嵌まった人がカリスマと事後的に呼ばれるのです。

実際、ヒトラーが政権を取る前のドイツの状況は、第一次大戦後のインフレ経済や小政党の分立による政治的な混乱が続くばかりでした。その状況を一気に改善して欲しいのはドイツ人であれば誰もが思ったことでしょう。そこで出現してフォロワー(国民大衆)に大いに受けたのがヒトラー及びナチスだったわけです。この手のリーダーシップのポイントは、数多くのフォロワーに受け入れられるためにポピュリズム的な方法によって、短い間にリーダーシップを公式化し正統な権力奪取を実現することです。そのためにプロパガンダやテロを実行することも厭わないことが必須条件です。

ただし、こうしたポピュリズム的な方法には限界があります。それは政策(課題解決策)相互の辻褄が合わないことです。ポピュリズム的な手法で辻褄が合わないとかうまく政策が機能しないのは、外国勢力や国内の反体制派の妨害工作のせいと決まっていますから、むしろ辻褄が合わず、政策的に破綻しているところがあるほうが、その犯人捜しと責任回避の形でフォロワーを扇動しやすいのかもしれません。

従って、カリスマ的なリーダーとかカリスマ型リーダーシップというのは、リーダー個人の資質や特性ではなく、それを許すに至る社会情勢や政治・経済動向などのリーダーシップの「場」、特にコンテクストやコミュニケーションのツール(言葉と共に暴力)やシステム(中央でコントロール可能なマスメディア)を活用できるかどうかに依存したリーダーシップのひとつのあり方に過ぎません。

 

次に指摘したいリーダーシップに関する誤解は、リーダーとヒーローの混同です。これも実によく見られるものですが、このふたつは大きく異なるものです。

ヒーローは、個人として自ら高い成果を挙げた人です。スポーツにせよ、企業業績にせよ、その人個人の力で出した結果から判断されるものです。もし、一般の学校の運動会で100メートルを10秒以下で走った学生がいたら、大変なヒーローとなるでしょう。平均的な営業担当が月に100万円の契約を1件とれればいいビジネスで、入社したばかりの新人の営業担当者が1億円の契約を毎週1件取り続けることができたとしたら、社長賞どころの騒ぎではなくなるでしょう。

しかし、ヒーローはリーダーではありません。リーダーは個人ではなく、チームが成果を出せるように必要な方策を採る人です。もちろん、自ら個人(プレイヤー)として成果を生み出せるのであれば、成果を生み出すことはかまわないですし、それが(偶然できたことではなく)真に優れた成果であるならば、ヒーローとして称えられることもあるでしょう。

この混同の例は、MLBのポストシーズンによく見られます。毎年10月になると、リーグチャンピオンシップからワールドシリーズへと次々と重要なゲームが行われます。そこで大活躍をしてチームをリーグチャンピオンからワールドチャンピオンに導く選手が出てくると、10月後半には「○○(大活躍している選手の愛称)を大統領へ」と書いたカードをかざし声援を送るファンが目立ちます。特に大統領選挙が行われる年には、より多く目にすることがあるように思われます。

リーダーがヒーローとなるのはあくまで結果論に過ぎません。リーダーにもともと求められているのは、個人ではなくチームとして成果を出すことです。そのために、チームメンバー(フォロワー)や関連部署などを動かすことが必要とされるのであって、自分が目立った結果を出すことが求められているわけではありません。

反対に、ヒーローになった人を自動的にリーダーにすると、大半は失敗します。これはさきほどのポストシーズン最中のMLBのエピソードを考えてみればわかります。野球選手として優れた結果を出したからといって、アメリカ合衆国の大統領がすぐに務まることは、まずあり得ないでしょう。

しかし、現実の企業社会では、けっこうヒーローを公式なリーダーにしてしまいがちです。主力製品に成長したものを開発したエンジニアを、全社を挙げてのプロジェクトの責任者にしてしまったり、凄腕の営業担当を営業教育のリーダーに任命したりといった話はよく耳にします。そして、その結果はたいていプロジェクトの空中分解であったり、体系的な教育ではなく自慢話か説教に終始したりといったものです。

 

もうひとつの誤解が、リーダーはイノベイティブな仕事を推進し、マネージャーは既に確立した仕事を管理するという、リーダーとマネージャーを区分する考え方です。

リーダーとマネージャーを区分するのは旧来の考え方としては理解できますが、今の時代、マネージャーが担うマネジメントに、イノベーションという考え方が不要ということはありません。

むしろ、日々の仕事を社外のイノベーションを取り込むなどして改善し続けることなしには、オペレーショナル・エクセレンスの追求・実現は不可能です。GAFAに代表されるイノベーション志向の巨大企業が成功し続ける理由のひとつに、現実の仕事におけるオペレーショナル・エクセレンスを非常識なまでに追求することが挙げられます。

日々の仕事にすらイノベーションが求められる時代であるからこそ、マネージャーがイノベーションにリーダーシップを発揮するか、少なくともイノベーションを理解してその実現を邪魔しないようにチーム内の合意形成を図るような形でリーダーシップを発揮することは必要でしょう。

 

リーダーに求められるものとして、コミュニケーション能力の高さ、特にスピーチの能力の高さがあるというのも、誤解かもしれません。

もちろん、リーダーにコミュニケーション能力がなくてよいと言っているわけではありません。リーダーシップを発揮するにはコミュニケーションのスキルは必要不可欠です。

とはいえ、仕事の場面でリーダーシップを発揮するのに必要なコミュニケーションは、TEDでのスピーチとは異なるものです。一緒に仕事をする人たちは単なる聴衆ではありません。ましてや、ヒトラーやケネディのようなカリスマ的な政治家のスピーチを日常の職場で行う必要性もありません。

リーダーシップを発揮するのに必要なコミュニケーションとは、まずは聴くことです。○○の仕事を××までにこうして欲しいとフォロワーに言う前に、それぞれのフォロワーの事情や抱えている問題などを把握することからリーダーシップを発揮することが始まります。そして、仕事を進める上での障害があれば、それを取り除くために必要な経営資源を調達すると約束するとか本人が解決できるヒントを助言するといったことがあってから、具体的な仕事の話につながるでしょう。

要は、業務指示や命令をリーダーが公式に発さなければ動かないチームでは、変化の激しい現代において期待される成果を挙げることは困難なのです。フォロワーが置かれている(と意識的・無意識的に感じている)状況を手早く理解し、その認識をフォロワーと大筋で一致していることを確認しておくことが、チームとして仕事を進めて成果を挙げるに至る早道なのです。

 

リーダーシップにはいつも機能する何らかの「正解」があると思っているとしたら、それがそもそも誤解なのです。生まれながらのリーダー、救世主、カリスマ、ヒーロー、イノベーションの旗手、スピーチの名手、こういったリーダー像は現代においてはリーダーシップの正解ではないことを改めて強く認識しておきましょう。

 

作成・編集:経営支援チーム(2021426日更新)

 

 

リモートワークにおけるリーダーシップ(4

 

リモートワークから生じている問題点として、例えば次のようなものが挙げられます。

 

・物理的に同じ場を共有していない

・時間的にも同じ場を共有できないこともある

・コミュニケーションの際に言葉以外の要素が極めて弱い

・特に表情やボディランゲージなどの非言語的な要素が受けとめられにくい

・テンポよく次々と意見やアイデアが出てくることが難しい

・情報を伝えようとする側から見ればこちらの伝えたいことが本当に伝わったのか実感が得にくい

・情報を受け取る側も相手が何を言いたいのか伝わりにくい

・それらの結果として知識の共有が進みにくい

・いっしょに働く仲間としての意識とかパートナーシップといったものが醸成されにくい

・一人ひとりが孤立化して燃え尽きるのを止めることが難しい

・仕事の成果を評価するのが難しい(注4

・情報漏洩やハッキングなどの対策としてセキュリティの強化・進化と働く人々への信頼感の両立が容易でない

・個人の住居などオフィス化することに伴う経済的な補償が適切かどうか不明な場合もある

・そもそもリモートワークに必要なツールを使えない人がメンバーの中にいる(使おうとする気がない人がいる)

 

これらの問題点について、もう少し詳しく見てみましょう。

まず、物理的に同じ場を共有していないというのは、問題点というよりもリモートワークで行う上での必然です。実際、MBWAのように、その場その場できめ細かなコミュニケーションを取るようなものはリーダーシップの手法をして採りにくいでしょう。

直接対面しているのであれば、ミーティング終了後にちょっとした立ち話をしたり、コーヒーでも飲みながらアドバイスを送ったり注意したりすることもできますが、リモートワークでの打ち合わせとなると、Zoomなどをオフにしてしまうとフォローが難しいこともあります。特に叱責や揶揄など本人にとってみれば心穏やかでいられないコミュニケーションが行われた場合、リーダーが言ったことでなくても、言われた側は心理的安全性が維持されていると感じることが難しいでしょう。

空間的な共有だけでなく、時間的に同じ場を共有できないこともリモートワークでは往々にして起こります。極端な話、日本と欧米やアフリカでは大きな時差がありますし、同じアジアといってもインドや中東ともなると同時に打ち合わせを行うことは難しいでしょう。日本国内でリモートワークを行うにしても、各人の仕事の都合や個々の家庭の事情などによって、同じタイミングで同じアプリにアクセスをしようとすること自体が厳しいかもしれません。

仮にミーティングの設定はうまく出ていたとしても、リモートならでは問題として、関係者の相互理解がどこまで得られたのかという問題があります。フォロワーに理解して欲しいことが的確に理解されているかどうか、リーダーにとっても把握しきれないところがあります。だからといって、ミーティングや日常的な業務指示を行う度に理解度チェックのテストをするわけにもいきません。フォロワーやオブザーバーにしても、自分たちの疑問や懸念がちゃんとリーダーが受けとめて適切に対応してくれるのか、なんとも言えないままミーティングが打ち切られてしまったと思っていても、そのことは誰にも伝えらないままであるかもしれません。

リーダーとフォロワーの間だけでなく、フォロワー相互やリーダー同士の間も、リモートワークのために職場でのちょっとしたやりとりができなくなってしまい、情報やノウハウの共有ができにくくなっています。仕事の結果はファイルなどで共有できるとしても、そこに至るまでのプロセスで必要な仕事の進め方やちょっとしたヒントとなる知識の共有が進みにくいのもリモートワークの問題点と言えます。

また、仕事を手際よく進めたりアイデアを出し合ったりするのに、コミュニケーションがリズムよく行われることも必要です。リモートワークとなると、このリズムがどうしても形成されにくいでしょう。これは単に通信回線のスピードの問題ではなく、アイコンタクトやボディランゲージなど非言語的なコミュニケーションが取れにくい点に問題があるように思われます。

こうした情報やノウハウの共有が進みにくくなると、いっしょに働く仲間としての意識とかパートナーシップといったものも醸成されにくくなるでしょう。仕事上何か困難なことがあっても、上司どころか同僚などにも気安く相談することが難しいとすれば、どうしても一人で仕事を抱え込みがちになります。それは同時に、一人ひとりが孤立化して燃え尽きる虞を増大させることにもなります。

一方で、情報漏洩やハッキングなどの対策はリモートワークで強化・向上させることはあっても、簡素化されることはあり得ません。実際、リモートワークのもとで仕事を進めるにはITは不可欠です。そのセキュリティを強化するには、情報機器のスペックを特定のものに制限したり、従業員のひとつひとつのアクセスをすべて把握して異なるパターンを検出したらすぐにネットワークから遮断するといった手法を導入している企業も多いでしょう。こうしたセキュリティ対策はコストもかかるとともに、対象となる従業員からの会社への信頼感を損なわないようにすることも忘れてはなりません。

そして、個人の住居などをオフィス化することに伴う経済的な補償が適切かどうかという問題もあります。そうした経済的補償を一切行わないというのも一つの方針としてあり得ますが、そのための前提条件は相当程度に高い賃金(報酬)をすべての従業員に支払っていることです。

経済的補償への対応として「自分から会社に意見を言う」といかにもリーダーシップを発揮したという体でミーティングをまとめたつもりが、いつになっても会社からの返答がなく、これといった施策も出てこないとなれば、リーダーとして失格と見なされるのは致し方のないところです。

 リモートワークに限った話ではありませんが、現実のビジネスを取り巻く環境の変化が速いことは今更述べるまでもありません。目まぐるしく状況が変化するのに対応するには言動も素早く変えることが必要です。リーダーシップにもアジリティが不可欠ですし、リーダーの言動にアジャイルなものが求められます。だからといって、確たる見通しのないことを勝手に言い出せば、リーダーシップを損なうだけです。

 状況の変化は至るところで生じます。対面で打ち合わせをしている最中であっても、リーダーとフォロワーの関係が入れ替わることもあるでしょう。特に相手が社内の人々だけではなく顧客やパートナー会社などの社外関係者なども参加している状況では、いま話題となっていることに最も詳しい人が話の主導権を握っていくとすれば、実際に詳しい人がリーダーシップを発揮せざるを得ません。

リモートワークでのミーティングともなると、打ち合わせているテーマについて詳しいかどうかは、よりはっきりとミーティングに参加している人たちが知るところとなります。上司か部下かといったことに関係なく、仕事を進める上で話が最も分かっている人にその場を仕切ってもらわなければ仕事が進みません。

そもそも、先輩や上級者(年齢が上)だから部下(年齢が下)に教えるとか指示を出すというのが間違った認識でしょう。年齢や経験がないほうがビジネスを進める上で有利な環境とすら思えるのが現実ではないでしょうか。

現にリモートワークに必要なシステムを整備し使いこなすのは若い人が多いでしょう。リモートワークの実務スキルがベテランほど欠けていることが多いから、リーダーシップを発揮したくても、できないのが現実です。ここでは、リーダー=年長者という前提で仕事を進めようとすればするほど、組織は機能しません。リーダーは自然発生的なものであるとすれば、若いほうがリモートワーク下でのリーダーになりやすいはずです。

特にリモートワークでZoomなどを使ってミーティングを行う際にリーダーシップを発揮しようとすれば、Zoomなどのコミュニケーションアプリを活用できるのが大前提です。それすらできなくて、セッティングなどをすべて部下任せにするような上司であれば、何を言っても誰も聞く耳をもたないでしょう。少なくとも、自ら学ぶ姿勢を見せて若手のできる人に事前に教えてもらうとか、反対にミーティングの仕切りをすべて若手に任せて自分はサポート役に徹して、できた成果は若手の手柄として褒めるくらいのことを行って見せるべきでしょう。

ちなみに、ミーティングが終わった後に飲みに行って愚痴や不満を聞くことで説得するなどの事後のフォローを行うことが困難であったり、上司にせよ部下にせよ個別にコミュニケーションを取って対応するといったテクニック(例えば「ここだけの話」「ほかの人には言わないで欲しいこと」をこっそり耳打ちすることで話を通そうとすること)が使えないのも、リモートワークの特徴かもしれません。これらもリモートワークに不慣れな人にとって、よりリーダーシップを発揮しにくい要因ともなっています。

 

【注4

リモートワークにおける評価の問題については、既に言及したコラムがあります。

 

作成・編集:経営支援チーム(202155日更新)

 

 

リモートワークにおけるリーダーシップ(5

 

前回のコラムで指摘したような問題がリモートワークには付きものであるとして、ミーティングを主宰する場合を例にとりリーダーシップのありかたを説明してみましょう。

 

ミーティングの主宰者が仮にリーダーであるとします。

実際は、テーマやリモートでのミーティングに関する技術的な課題などから主宰者だけがリーダーシップを発揮するとは限りません。リモートワークに限らず直接の対面でのミーティングであっても、主宰者以外の参加者がさまざまな局面で議論をリードしたり、決定的な事項を指摘するなどして、リーダーシップを発揮することが期待されるはずです。そうした積極的な関わりがなければ、ミーティングの後で自分のこととして次のアクションを取ることも期待できません。

故に、ミーティングを主宰するからといって必ずしも100%のリーダーであるとは限りませんが、主宰する以上、何らかの形でリーダーシップを発揮することは期待されます。

 

さて、主宰者(リーダー)はミーティングという場の設定をするのが第一の仕事です。いわゆるアジェンダの設定や参加するメンバーの選択や日程調整などを自ら行い、技術的なことがわからないのであれば、できる人を動かしてやってもらうのが、リーダーの第一の仕事の内容です。

特に、誰を招集するか、ということはアジェンダの設定とともに、リモートワーク下でのミーティングを行う上で極めて重要なポイントです。誰彼構わず招集することは非効率的であるばかりでなく、呼ばれた人の私生活にもマイナスの影響を及ぼすものがありうることを肝に銘じなければなりません。

何しろ、リモートでミーティングをしている最中は、同じ住居内にいる家族やペットなどにも静かにしていて欲しいものですし、突然、ミーティングに乱入されては会社も家族も困ります。

誰でもオブザーバーとして参加するのは構いませんが、ミーティングに参加してもこれといって貢献(意思決定のミーティングであれば意思決定に資する発言をする、情報を共有して次のアクションに移るのが目的であれば、情報を理解したかどうか、次に何を行うのか自分が当事者としてわかっているかどうかが問われる)が求められるわけでもないのに、「一応聞いておいて」という程度の人は招集しないほうがいいでしょう。

同時に、「自分は聞いていない」という言い訳を出さない工夫もリモートワークの特性を活かして対処します。例えば、オブザーバーとしての参加及び映像や音声のファイルへのアクセスはいつでも(ライブでも後日でも)認めることで、極秘や部外秘でない限り、本人に必要と判断されるアクセスを保障しておけばよいでしょう。

ミーティングに参加するメンバーを選ぶということは、言い換えれば、フォロワーとその他のオブザーバーとを区分することです。ミーティングのアジェンダに沿ってリーダーとともに行動して欲しい人がフォロワーです。

フォロワーには、ミーティングのリマインダーを前日に通知します。その際に事前に目を通しておいて欲しい資料などがあれば、添付します。

ただし、前日が金曜日で業務終了後に翌週の月曜の午前中に予定しているミーティングの資料を送ろうものなら、休日に「仕事をしろ(資料を読め)」と言っているのに等しい行為ですから、止めるべきですし、会社としてはリーダーがそうした指示を出さないように注意すべきです。事前配布は止めて、アマゾンのように会議の冒頭に参加者全員で資料を黙読する時間を設けるというのも、ひとつの方法です。

 

ひとたびミーティングが始まったら、リーダーは他のことはすべて措いて、自分のしゃべりすぎを注意しましょう。ミーティングが主宰者の独演会になってしまったら、それは失敗です。特にリモートワークでは、ひとりが喋っているだけのZoomであるならば、事前に収録した映像と音声を各自が自分の都合のよい時に勝手に見聞きすればよいだけです。

直接の対面での会議でしばしば見られるように、目標未達であったり、何か失敗があった人を吊るし上げるようなミーティングは、対面でも行う価値があるとは思えませんが、リモートで行う意味は全くありません。リモートのミーティングに参加していることになっている人たちは、観たくないものや聞きたくもないものをきちんと受け止めるはずがありません。つまり、Zoomはオンになっていても、心はオフです。中には、「回線状況が悪い」ことにしてZoomもオフにしてしまう人もいるでしょう。

リーダー(ミーティングの主宰者)が忘れてはならないのは、自己満足を得ることではなく、フォロワー(ミーティングに参加しているメンバー)がミーティング終了後に期待される行動をとってくれるようにもっていくことです。そのためには、フォロワーに疑問や納得がいっていないことを言語化してもらわなければなりません。

本来のミーティングというものが、さまざまな意見の交換があって何らかの合意が形成されて、参画した全員が次の行動に移る契機となるものであるとすれば、主宰者(リーダー)はファシリテーターの役割を果たすことが要請されます。そのことは理解できても、リモートでファシリテーションを行うには、かなり難度が高いコミュニケーション・スキルが求められます。いきなり理想を追うのではなく、できるところからやってみるほうが良いでしょう。

その一例としては、ミーティングに参加するメンバー(フォロワー)たちに発言を促すように語り掛けたり、ブレストを行うミーティングであれば、事前にいくつかアイデアを考えておいてもらうことがあります。

ここで、心理的安全性を担保することがリモートワークでは難しいと思われるかもしれません。直接会っているのであれば、ミーティング終了後にちょっと立ち話やコーヒーでも飲みながらアドバイスを送ったり注意したりすることもできますし、ボディランゲージが言語を補完して表面的な言葉の意味だけでなく、言外のニュアンスを伝えることもできます。リモートではシステムをオフにしてしまうとフォローのしようがありませんし、そもそも画面を通じて言外のニュアンスを伝えるというのも無理な話です。

したがって、リーダーは書面などで明確に言語化して伝えるべきことは伝えることが必要です。コミュニケーション・スキルというと、スピーチやプレゼンテーションを重視するように思われるかもしれませんが、リモートワークで最も必要なのはきちんと読み手に伝わる文章を書くスキルです。リモートであるからこそ、口頭表現やボディランゲージに頼ることなく、誤解なく的確かつコンパクトに相手に伝えるべきことを伝えるには、メールにせよPDFファイルを添付するにせよ、言葉で書いて表現することが必須です。

これはフォロワーについても同様です。何か異論・反論や意見・疑問などがあるのであれば、その内容を文章にして関係者に伝えることが求められます。こうした文章は、あくまでビジネス文書ですから、必要に応じて数字や図表といったものも活用しますが、基本は言葉を書くことで表現されます。

心理的安全性を担保するのに有効なもうひとつのコミュニケーション・スキルは、聴くスキル、いわゆる傾聴力です。画面越しには感じ取れないかもしれませんが、フォロワーが疑問や不安に思っていること、どこか納得していない様子などを感知するには、ミーティングに参画しているひとりひとりの仕事について、リーダーが興味や関心や好奇心を強くもって話を聞きたいと身を乗り出しているかどうかが問われます。

ミーティングの最中はもとより、それ以外の時にもチームメンバーの仕事について困っていることがないかどうか、進捗状況や他の関係者(顧客や取引先など)のリアクションなどを、リモートでのミーティングを開始する前後に一言でもいいから尋ねてみる、そういうことの積み重ねが心理的安全性の基盤となります。

 

前回のコラムで述べたように、リモートワークの特性として指摘できるのは、「物理的に同じ場を共有していない」ことや「時間的にも同じ場を共有できない」ことです。それに付随して、「コミュニケーションの際に言葉以外の要素が極めて弱い、特に表情やボディランゲージなどの非言語的な要素が受けとめられにくい」ことも無視できない特性です。

これらの特性はリモートワークを行う上では不可避なので、これらを前提としてリーダーシップを発揮するしかありません。そのために求められるコミュニケーションには、直接の対面とは異なる難しさがあります。そのリモートワークならではの難しさを解消するには、まず、言葉で的確に表現することがあります。その言葉を互いに聞き取ることが必要ですから、相手の発言が完全に終わるのを待って、こちらの発言を開始することを強く意識しておきます。

口頭でのやりとりだけでは相互にどこまで理解できたのか測りかねるかもしれません。そこで、リモートでのミーティングの前に、テーマとなる事項に関する資料や想定される試算などを可能な範囲で準備したり、ミーティング終了後には参加メンバー全員が自分の議事録を作成して、全員の分を議長(必ずしもリーダーである必要はありません)が取りまとめて、理解が食い違っている箇所があれば、その点を明らかにして全員で共有するといったフォローが必要となります。

なお、ミーティングの結果や責任者の判断などで最終的に決定したこと(次回のミーティングの日程やテーマなどは最低限の決定事項のはずです)を、関係者全員が理解できるように、ファイル共有やカレンダー機能などを活用することも不可欠です。こうした最低限のIT活用すらできないとか活用する気がない人は、リーダーどころか、オブザーバーとしても失格と言わざるを得ません。

 

作成・編集:経営支援チーム(2021519日更新)

 

 

リモートワークにおけるリーダーシップ(6

 

それでは、ミーティング以外の場面でリモートワークにおけるリーダーシップのありかたを考えてみましょう。例えば、日常的にデスクワークをしている最中に、新入社員とかまだ経験の浅い若手社員が上司や先輩から明日の定例会議のための資料作りを指示されたが、どこから何に手を付けたらよいのかわからず、すぐに行き詰ってしまった状況を想定してみます。

資料作りを指示されている社員は、リモートワークであれば余計に、わからないところをその場で誰かに尋ねるといった、ちょっとしたコミュニケーションがとりにくいのは事実です。チャットツールを活用するにしても、同じ部署に所属する同僚にはそれぞれに自分の仕事がありますし、仕事をするペースや時間配分なども異なります。こちらにとって都合のよいタイミングで答えてくれるとは限りませんし、答えが返ってこないからといって誰かを非難するわけにもいきません。

そうなると、同じ質問ばかりするわけにもいかず、他にも仕事はあるでしょうから、この資料作りは後回しになるかもしれません。別の仕事に取り掛かれば、それなりに時間もかかります。そうこうするうち夕方になり、指示していた上司や先輩から「できあがった資料を見せて」とチャットが入ったり、資料を画面で共有して確認するミーティングの時間になってしまうかもしれません。

このタイミングで、実はまだできていないことが明らかになってしまうと、上司や先輩から叱責されたり、「わからないなら、なぜその場で訊かなかったんだ」と詰問されたりするでしょう。もしかすると、二度とまともな仕事は任されないことになるかもしれません。

本人からすると、資料作りの際にわからなかった点を誰も教えてくれなかったとか、仕事を指示する上で具体的な助言(自分は以前こうやって作成したとか参考とすべき他の資料がどのファイルにあるか教えること)がひとつもなかったといった不平不満がでることが予想されます。しかし、上司や先輩からすれば、そんなことはリモートワークであってもなくても、いつでも訊いてくれれば教えたのに、ということになるでしょう。

同じ空間にいて仕事をしているのであれば、ちょっとした質問をしたり、わからないことや不明な点を周囲の同僚などに尋ねたりすることは、タイミングを見て行いやすいものです。ときには、昼休みや休憩の時などに雑談がてら訊いてみることもできます。

実は、リモートワークにおけるリーダーシップの問題の核となるのが、自分で自分の仕事にリーダーシップをもつことです。この例で言えば、リモートワークだからといって遠慮せずに、と同時に他の人の仕事を邪魔しないように十分に気をつけて、資料作りに必要なアドバイスをもらうことです。そして、どのタイミングで何をすればそれぞれの仕事の納期を守ることができるのか、逆算して今日一日の仕事のスケジュールをしっかりと作っておくことが、自分で自分の仕事にリーダーシップをもつことの第一歩です。

 

もちろん、理想論を言えば、助けてほしいときに同僚たちが我先に助言してくるように促したり、リーダー自ら「困っている」「助けて」と発信・発言することで困った時に質問をしやすい雰囲気を意識的に醸成したりすることが組織上のリーダー(経営者、管理職など)に望まれます。

しかし、上司だから、先輩だからといって、後輩や新人が期待するリーダーであるわけではありません。これはリモートワークとは関係なく、普遍的に言えることです。まして、技術動向や社会情勢などが激変するのが当たり前の時代にあっては、年齢が高くビジネスの経験年数が長い人の方が事業環境の変化や仕事のやり方の変化についていけないのが、必然ですらあります。

組織上の立場から見て理想的なリーダーなどそうそう存在しません。現場の立場で実務に当たっている人たちが、上司や経営者が自分たちの日々の仕事のリーダーであるということは、そもそもあり得ません。

まして、リモートワークを行っている状況下では、部下や社員ひとりひとりに目が届くほうがおかしいのです。組織上のリーダーが仕組みやルールで対応できることといえば、就業時間以外は電話・メール・Zoomなどから完全にフリーにして仕事から切り離すことや、一人ひとりが孤立化して燃え尽きるのを防ぐためにアンケート調査やウェアラブル・ディバイスなどを活用して定期的に心身の就業状態をチェックすることといったところでしょう。

 これでは上司や先輩はリーダーらしいことを何もやってくれないと思われるかもしれません。特に、リーダーシップをリーダーが何らかのメッセージを発して、そのメッセージに沿って人々を動かすことと理解しているのであれば、何も指示・指導せず、自分がわからないと部下に訊くような人がリーダーであるはずはありません。

仮にリーダーの果たすべき役割がメッセージの発信とフォロワーの誘導であるとすれば、リーダーはスピーチやプレゼンテーションを行うのが主な仕事となってしまいます。

ただし、リモートワークの下では、ライブで直接、スピーチやプレゼンテーションを見聞きするわけではありません。むしろ、リモートの特性を活かして、事前に収録した(またはライブ配信を録音・録画した)スピーチやプレゼンテーションを、フォロワーが各自の都合に合わせてファイルにアクセスして再生すればいいはずです。

こうしたことを行うには、リーダーは優れた役者であることが求められます。少なくとも、シェイクスピアの作品(5)程度の面白さを体現できなければ、人々は数十秒も映像と音声を見聞きしてはくれないでしょう。

現実を振り返れば、企業経営者や経営幹部の圧倒的大多数は、ここで求められるレベルのスピーチやプレゼンテーションを行うに足るスキルを有しているとはとても思えません。通常の記者会見ですら、大半はつまらないものか、不祥事対応として不十分で却って炎上してしまいます。結局、リーダーシップに不可欠なスキルがないことを自ら証明してしまうことになるのが、組織上のリーダーの大半を占めるものと危惧されます。

スピーチやプレゼンテーションを行うスキルが不足している以上に、語るべきものがないことを問題として指摘すべきかもしれません。よくあるのは、形だけは事業戦略とかミッションやバリューを掲げていて、その説明会もやってはいるものの、その内容が実際の行動につながっていない企業です。

そもそも、リモートワークでない時に、それらの事業戦略とかミッションやバリューが社員の心に響き、日々の行動に落とし込まれていたのでしょうか。リモートワークとなっても、特にミッションやバリューを現実の行動につなげる新たな工夫や仕掛けを行っていないのであれば、それらは完全に名目に過ぎないことが明らかです。

立場上のリーダーについては、スピーチやプレゼンテーションを行う上でのスキルの欠如に加えて、そもそも何らかのメッセージを部下や広く社員一般に伝える必要性を感じていないことが、現実なのです。故に、その現実に立ち向かうには、自分が自分の仕事のリーダーとなって、上も下も関係なく周囲の人々を巻き込むことが求められます。

そのためのツールとしてITを用いて、自らのスケジュール、仕事の進捗状況、達成したこと、身につけたスキル、チャレンジしたいことなどを社内に公開しておき、やりたい仕事があれば仕事の方から声が掛かるように仕掛けておくことが肝要です。時には、転職サイトやスカウトメールへの登録など、社外にも情報を発信しておくくらいのことはやっておきたいものです。

 

作成・編集:経営支援チーム(2021524日更新)

 

【注5

たとえば、「ジュリウス・シーザー(カエサル)」第3幕第2場のシーザー暗殺に至った理由を述べるブルータスの演説とそれに引き続くアントニーのシーザー追悼演説や、「リチャード3世」第1幕第2場のグロスター公リチャード(後のリチャード3世)がヘンリー6世の妻でリチャードが殺した皇子エドワードの母でもあるアン王妃を口説く台詞のように、文字で読んだだけでも魅せられるレトリックをもったテキストを生み出す上に、優れたシェイクスピア役者さながらに語り演じることができて初めて、部下や社員の多くが見て聞いて理解して行動につなげてくれる可能性が出てきます。

 

 

リモートワークにおけるリーダーシップ(7

 

次に、社外の関係者もいる場面でのリーダーシップのありかたを考えてみましょう。例えば、顧客との商談や外部スタッフなども交えてプロジェクトを進める場合に、リモートワークの中でどのようにリーダーシップを発揮すればよいのでしょうか。

 

そもそも顧客に対してリーダーシップを発揮するとはどういうことでしょうか。商談においてセールストークやプレゼンテーションで顧客をリードして、手早くクロージングにもっていけばよいのでしょうか。

リモートワークでなければ、顧客と直接のやりとりを通じて、ストレートに値引きをする・おまけをつける・お買い得を演出するなどして、価格交渉を行いながら顧客に「得した」と思わせるのが営業のリーダーシップであったかもしれません。

しかし、リモートワークを通じて同様のことを行うと、顧客はその場のノリで購入を決めるよりも、もともとも提示されていた価格の妥当性や正当性に疑問を抱き、価格だけでなく品質や機能などにも不安を抱く虞があります。リモートワークであるが故に、直接、製品やサービスを手に取って確かめることができない以上、顧客が抱いた不明なことや不安な点にとことん付き合って不満や不安を解消するのが、顧客に対するこれからのリーダーシップのありかたでしょう。

その上で、顧客が購入を決めた後でも、事前に収録した映像やスペックを記した文書ファイルなどを閲覧可能にしておき、いつでも不安な点や不明なことを顧客自身が自ら解消するように行動を促すことも、営業のリーダーシップとして必要です。営業を行う側がプッシュするのではなく、顧客に選択権をもたせたり、必要な情報にいつでもアクセス可能な状況を設けて、不安や不満を解消できるようにしておく仕掛けが求められます。

もちろん、顧客に自ら決めるように導くことも必要です。ときには、残りの個数をカウンターで表示するといったテレビショッピングやネット販売で行われているような仕掛けがあったほうがいいかもしれません。また、来店した顧客を逃がさない接客が従来は必要でしたが、来店しない顧客にリモートで必要な情報を届ける仕組み、たとえば、アプリでクーポンやチラシを配布する程度の仕組みなども必須でしょう。

このとき、顧客との関係性がどの程度の時間、蓄積されてきたものかによって、情報を提供するツールやそのコンテンツは変わってきます。蓄積が全くない場合、すなわち「一見さん」とか初めて購入しようとしている顧客(その時点ではまだ顧客ではない人)に対しては、広く浅く(マス)から次第に求めているものを絞り込むような仕掛けが必要です。それに対して既に一定の関係性が出来上っている顧客には、これまでの購入履歴から次のオススメを提示したり、他の顧客との交流の場(リモートでもリアルでも)に招待するといった、より深く個別性の高いアプローチが妥当でしょう。

いずれにせよ、営業担当が個々に仕掛けるというよりも、営業体制のなかでシステム化された仕掛けが効果を発揮するものです。したがって、営業のリーダーシップは、そういった仕掛けを作り出し、その効果を検証して、次の仕掛けへの洞察を得るなかから発揮されるものです。

 

こうしたアプローチは法人営業でも基本的には同じです。というのも、旧来の接待やインフォーマルな折衝で物事を決めていく手法は、人と人との直接的な接触が不可避なため、極めて採りにくいものだからです。

そこで、セールストークやプレゼンテーションを無理にリモートで行うよりも、必要な情報はすべて開示してみせて、あとは顧客に自ら決めさせるといったアプローチが、実は営業が顧客との間でリーダーシップを発揮する、ひとつのスタイルです。

その際に、決定するまでの説明や交渉で用いるものは、文書に限らず、映像、音声、数字やグラフなど、ICTを活用してリモートでやりとりすることが可能なものを何でも用いるとともに、その結果やコンテンツもすべて残して事後にアクセスできるようにしておきます。また、購入条件や付帯条項などもすべて商談の中で決定したものは、PDFファイルをFAXや郵送物の代わりに活用して修正不可の形態で取り交わしておきます。

いわゆる腹芸や口約束はリモートワークでは通じません。必ず、文書化し記録を残すことが肝要です。

言い換えれば、具体的にリモートで商談を進める場をセットするのであれば、そのときまでに用意しておくべき書式や説明資料などを事前に相互に取り交わして確認したり、メールでやりとりするなどして事前に内容を細部まで詰めておくことが、営業がリーダーシップを発揮することに他なりません。もはや営業というよりもコーディネーターと呼ぶ方がふさわしいかもしれません。

外部スタッフなどを交えてプロジェクトを進める際も顧客への営業活動と同様です。ただし、参画するメンバーの立場が商談のときよりも複雑になるので、リーダーシップを発揮するとはいっても、表面的には単なる調整役に見えるような動き方をすることになるでしょう。

リモートワークにおいてリーダーシップを発揮する上で問題なのは、リーダーらしく見えるかどうかではありません。リーダーに求められるのは、リモートで仕事を進めながら、チーム(組織全体、会社全体)でちゃんと結果を出すことです。もし、リーダーが一方的に指示・命令を出したり、勝手に時間や資金に制限を設けたりしてしまうと、関係者は動いてくれないことを肝に銘じておきます。リーダーが何かをするのではなく、少なくとも関係者が仕事を進めていく上で障害となるものは事前に取り除いておくことこそ、リーダーの果たすべき役割なのです。

 

作成・編集:経営支援チーム(2021611日更新)

 

 

リモートワークにおけるリーダーシップ(8

 

ここまで7回にわたってリモートワークにおけるリーダーシップのありかたを検討してきました。一般にリーダーシップを発揮すること自体を再考すべき時代である上に、リモートワークという新たな状況に対応する必要があるために、より問題が多く目立っています。そこで、改めてリモートワークから生じている問題点を再掲しておきます。

 

・物理的に同じ場を共有していない

・時間的にも同じ場を共有できないこともある

・コミュニケーションの際に言葉以外の要素が極めて弱い

・特に表情やボディランゲージなどの非言語的な要素が受けとめられにくい

・テンポよく次々と意見やアイデアが出てくることが難しい

・情報を伝えようとする側から見ればこちらの伝えたいことが本当に伝わったのか実感が得にくい

・情報を受け取る側も相手が何を言いたいのか伝わりにくい

・それらの結果として知識の共有が進みにくい

・いっしょに働く仲間としての意識とかパートナーシップといったものが醸成されにくい

・一人ひとりが孤立化して燃え尽きるのを止めることが難しい

・仕事の成果を評価するのが難しい

・情報漏洩やハッキングなどの対策としてセキュリティの強化・進化と働く人々への信頼感の両立が容易でない

・個人の住居などオフィス化することに伴う経済的な補償が適切かどうか不明な場合もある

・そもそもリモートワークに必要なツールを使えない人がメンバーの中にいる(使おうとする気がない人がいる)

 

これらの問題点がある中で、立場上リーダーとならざるを得ない典型的な例として、本稿ではミーティングの主宰者を採り上げました。

リーダーの第一の仕事はミーティングという場の設定をすることです。いわゆるアジェンダの設定や参加するメンバーの選択や日程調整などを自ら行い、技術的なことがわからないのであれば、できる人を動かしてやってもらうのが、リーダーの第一の仕事の内容です。

ミーティングに参加するメンバーを選ぶということは、ミーティングのアジェンダに沿ってリーダーとともに行動して欲しいフォロワーを選ぶということです。フォロワーには、ミーティングのリマインダーを前日に通知します。その際に事前に目を通しておいて欲しい資料などがあれば添付して、選ばれたことを自覚してもらいます。

ひとたびミーティングが始まったら、リーダーは他のことはすべて措いて、自分のしゃべりすぎを注意しましょう。直接の対面での会議でしばしば見られるように、目標未達であったり、何か失敗があった人を吊るし上げるようなミーティングは、対面でも行う価値があるとは思えませんが、リモートで行う意味は全くありません。

リーダー(ミーティングの主宰者)が忘れてはならないのは、自己満足を得ることではなく、フォロワー(ミーティングに参加しているメンバー)がミーティング終了後に期待される行動をとってくれるようにもっていくことです。そのためには、フォロワーに疑問や納得がいっていないことを言語化してもらわなければなりません。

リーダーは書面などで明確に言語化して伝えるべきことを適切に伝えることが必要です。コミュニケーション・スキルというと、スピーチやプレゼンテーションを重視するように思われるかもしれませんが、リモートワークで最も必要なのはきちんと読み手に伝わる文章を書くスキルです。リモートであるからこそ、口頭表現やボディランゲージに頼ることなく、誤解なく的確かつコンパクトに相手に伝えるべきことを伝えるには、メールにせよPDFファイルを添付するにせよ、言葉で書いて表現することが必須です。

これはフォロワーについても同様です。何か異論・反論や意見・疑問などがあるのであれば、その内容を文章にして関係者に伝えることが求められます。こうした文章は、あくまでビジネス文書ですから、必要に応じて数字や図表といったものも活用しますが、基本は言葉を書くことで表現されます。

こうしたやりとりが促されるには、心理的安全性が担保されていなければなりません。そのために有効なコミュニケーション・スキルとして、聴くスキル、いわゆる傾聴力があります。画面越しには感じ取れないかもしれませんが、フォロワーが疑問や不安に思っていること、どこか納得していない様子などを感知するには、ミーティングに参画しているひとりひとりの仕事について、リーダーが興味や関心や好奇心を強くもって話を聞きたいと身を乗り出しているかどうかが問われます。

 

次に、ミーティングを主宰する以外の場面でリモートワークにおけるリーダーシップのありかたを考えてみました。例えば、日常的にデスクワークをしている最中に、新入社員とかまだ経験の浅い若手社員が上司や先輩から明日の定例会議のための資料作りを指示されたが、どこから何に手を付けたらよいのかわからず、すぐに行き詰ってしまった状況で、どのようにリーダーシップを発揮すればよいのでしょうか。

理想論を言えば、新入社員であろうと経験が浅い社員であろうと、派遣社員や社外スタッフであろうと、自分で自分の仕事にリーダーシップをもって、わからないことはわからないこととして、周囲の同僚や先輩などに訊くことです。同時に、助けてほしいときに同僚たちが我先に助言してくるように促したり、リーダー自ら「困っている」「助けて」と発信・発言することで困った時に質問をしやすい雰囲気を意識的に醸成されていることが望まれます。

現実的に考えれば、リモートワークを行っている状況下では、部下や社員ひとりひとりに目が届くことはありえないでしょう。組織上のリーダーが仕組みやルールで対応できることといえば、就業時間以外は電話・メール・Zoomなどから完全にフリーにして仕事から切り離すことや、一人ひとりが孤立化して燃え尽きるのを防ぐためにアンケート調査やウェアラブル・ディバイスなどを活用して定期的に心身の就業状態をチェックすることといったところまでです。

 これでは上司や先輩はリーダーらしいことを何もやってくれないと思われるかもしれません。特に、リーダーシップをリーダーが何らかのメッセージを発して、そのメッセージに沿って人々を動かすことと理解しているのであれば、何も指示・指導せず、自分がわからないと部下に訊くような人がリーダーであるはずはありません。

但し、企業経営者や経営幹部の圧倒的大多数は、ここで求められるレベルでメッセージを発信するスキルを有しているとはとても思えません。社員を相手に何かメッセージを発したり、質疑応答などを通じて理解してほしいことをきちんと伝えるスキル、いわゆるスピーチやプレゼンテーションを行うスキルが不足している以上に、語るべきものがないことを問題として指摘すべきかもしれません。

リモートワークでない時ですら、自社の事業戦略とかミッションやバリューが社員の心に響き、日々の行動に落とし込まれていたのでしょうか。リモートワークとなっても、特にミッションやバリューを現実の行動につなげる新たな工夫や仕掛けを行っていないのであれば、それらは完全に名目に過ぎないことが明らかです。

結論として言えるのは、リーダー自ら「困っている」「助けて」と発信・発言するように習慣づけておき、他の社員も困った時に質問をしやすい雰囲気を醸成しておくこと、個々の社員もフォロワーの立場に甘んじることなく自分の仕事のリーダーとしてわからないことは自ら関係者に訊ねること、これらを互いに毎日試みることが有効でしょう。

 

ここまで述べてきたことは社内での話でしたが、基本的には社外の関係者、顧客との商談や外部スタッフなども交えてプロジェクトを進める場合などにも当て嵌まります。

リモートワークを通じて商談を進めようとすると、顧客はその場のノリで購入を決めるよりも、もともとも提示されていた価格の妥当性や正当性に疑問を抱き、価格だけでなく品質や機能などにも不安を抱く虞があります。直接、製品やサービスを手に取って確かめることができない以上、顧客が抱いた不明なことや不安な点にとことん付き合って不満や不安を解消するのが、顧客に対するこれからのリーダーシップのありかたでしょう。

その上で、顧客が購入を決めた後でも、事前に収録した映像やスペックを記した文書ファイルなどを閲覧可能にしておき、いつでも不安な点や不明なことを顧客自身が自ら解消するように行動を促すことも、営業のリーダーシップとして必要です。営業を行う側がプッシュするのではなく、顧客に選択権をもたせたり、必要な情報にいつでもアクセス可能な状況を設けて、不安や不満を解消できるようにしておく仕掛けが求められます。

このとき、顧客との関係性によって提示するコンテンツは変わってきます。関係性が薄いとか全くない場合、すなわち「一見さん」で初めて購入しようとしている顧客(その時点ではまだ顧客ではない人)に対しては、広く浅く(マス)から次第に求めているものを絞り込むような仕掛けが必要です。既に一定の関係性が出来上っている顧客には、これまでの購入履歴から次のオススメを提示したり、他の顧客との交流の場(リモートでもリアルでも)に招待するといった、より深く個別性の高いアプローチが妥当でしょう。

いずれにせよ、営業担当が個々に仕掛けるというよりも、営業体制のなかでシステム化された仕掛けが効果を発揮するものです。したがって、営業のリーダーシップは、そういった仕掛けを作り出し、その効果を検証して、次の仕掛けへの洞察を得るなかから発揮されるものです。

その際に、決定するまでの説明や交渉で用いるものは、文書に限らず、映像、音声、数字やグラフなど、ICTを活用してリモートでやりとりすることが可能なものを何でも用いるとともに、その結果やコンテンツもすべて残して事後にアクセスできるようにしておきます。また、購入条件や付帯条項などもすべて商談の中で決定したものは、PDFファイルをFAXや郵送物の代わりに活用して修正不可の形態で取り交わしておきます。

いわゆる腹芸や口約束はリモートワークでは通じません。必ず、文書化し記録を残すことが肝要です。具体的にリモートで商談を進める場をセットするのであれば、そのときまでに用意しておくべき書式や説明資料などを事前に相互に取り交わして確認したり、メールでやりとりするなどして事前に内容を細部まで詰めておくことが、営業がリーダーシップを発揮することに他なりません。もはや営業というよりもコーディネーターと呼ぶ方がふさわしいかもしれません。

外部スタッフなどを交えてプロジェクトを進める際も顧客への営業活動と同様です。ただし、参画するメンバーの立場が商談のときよりも複雑になるので、リーダーシップを発揮するとはいっても、表面的には単なる調整役に見えるような動き方をすることになるでしょう。

 

リーダーシップが問われるのはリモートワークに迫られたからではありません。政治にせよ経済にせよ、また日常の暮らしの中にせよ、地球温暖化や経済的な格差の拡大など国家を超えるような課題について取り組むにせよ、どのような局面においてもリーダーシップのありかたが問われています。言い換えると、リーダーシップがうまく機能していないから多種多様な課題を解決するに至らない現実があります。

 さらに言えば、リーダーシップが効果的に機能する以前の問題としてまず、リーダーシップについての誤解があることを指摘できます。たとえば、優れたリーダーシップを有する個人が存在するといった誤解があります。リーダーシップは個人的な資質や天賦の才というよりも、他の人に移転可能なスキルです。また、一気に課題を解決してくれる人を求める状況にピタリとうまく嵌まった人を事後的にカリスマと呼ぶにもかかわらず、課題を解決する前からカリスマを求めるというのも、一種の誤解です。

リーダーとヒーローの混同も、実によく見られるリーダーシップに関する誤解のひとつです。ヒーローは、個人として自ら高い成果を挙げた人です。スポーツにせよ、企業業績にせよ、その人個人の力で出した結果から判断されるものです。しかし、ヒーローはリーダーではありません。リーダーは個人ではなく、チームが成果を出せるように必要な方策を採る人です。

リーダーはイノベイティブな仕事を推進し、マネージャーは既に確立した仕事を管理するという、リーダーとマネージャーを区分する考え方も、誤解のひとつです。リーダーとマネージャーを区分するのは旧来の考え方としては理解できますが、今の時代、マネージャーが担うマネジメントに、イノベーションという考え方が不要ということはありません。

むしろ、日々の仕事を社外のイノベーションを取り込むなどして改善し続けることなしには、オペレーショナル・エクセレンスの追求・実現は不可能です。GAFAに代表されるイノベーション志向の巨大企業が成功し続ける理由のひとつに、現実の仕事におけるオペレーショナル・エクセレンスを非常識なまでに追求することが挙げられます。今は日々の仕事にすらイノベーションが求められる時代であるからこそ、マネージャーがイノベーションにリーダーシップを発揮するか、少なくともイノベーションを理解してその実現を邪魔しないようにチーム内の合意形成を図るような形でリーダーシップを発揮することは必要です。

リーダーに求められるものとして、コミュニケーション能力の高さ、特にスピーチの能力の高さがあるというのも、誤解かもしれません。リーダーにコミュニケーション能力がなくてよいと言っているわけではありませんし、リーダーシップを発揮するにはコミュニケーションのスキルは必要不可欠です。

とはいえ、仕事の場面でリーダーシップを発揮するのに必要なコミュニケーションは、TEDでのスピーチとは異なるものです。一緒に仕事をする人たちは単なる聴衆ではありません。ましてや、ヒトラーやケネディのようなカリスマ的な政治家のスピーチを日常の職場で行う必要性もありません。

ミーティングを主宰する例で言及したように、リーダーシップを発揮するのに必要なコミュニケーションとは、まずは聴くことです。○○の仕事を××までにこうして欲しいとフォロワーに言う前に、それぞれのフォロワーの事情や抱えている問題などを把握することからリーダーシップを発揮することが始まります。そして、仕事を進める上での障害があれば、それを取り除くために必要な経営資源を調達すると約束するとか本人が解決できるヒントを助言するといったことがあってから、具体的な仕事の話につながるでしょう。

 

リーダーシップにはいつも機能する何らかの「正解」があると思っているとしたら、それがそもそも誤解なのです。生まれながらのリーダー、救世主、カリスマ、ヒーロー、イノベーションの旗手、スピーチの名手、こういったリーダー像は現代においてはリーダーシップの正解ではないことを改めて強く認識しておきましょう。

こうした旧来のリーダー像では今のリーダーシップを機能させることは無理であることは自明です。その一方、リーダーが黙ってやりかたや行動を見せるだけで、フォロワーはそれを盗んで試みるといった「背中を見せる」スタイルも、リモートワークではまともに機能するはずがないと言わざるをえません。

本来、リモートワークを行っているかどうかに関係なく、リーダーシップは組織で仕事を進めていくのに必要不可欠なものです。そのことに異を唱える人はまずいないでしょう。

業務指示や命令をリーダーが公式に発さなければ動かないチームでは、変化の激しい現代において期待される成果を挙げることは困難です。フォロワーが置かれている(と意識的・無意識的に感じている)状況を手早く理解し、その認識をフォロワーと大筋で一致していることを確認しておくことが、チームとして仕事を進めて成果を挙げるに至る早道です。そのために効果的な仕組みや仕掛けを作ったり、チームメンバーがものを言いやすい環境を生み出したりするのが、リーダーシップを発揮することに他なりません。

 

作成・編集:経営支援チーム(2021615日更新)

 

 

 

 

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