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「働き方」改革を巡る座談会(1)~働き方の実態は~

 

― お忙しいところお集まりいただき、ありがとうございます。ようやく「働き方」改革を目指した法整備も一段落し、企業経営にもさまざまな影響が出てくると予想されます。

そこで本日は、大きく事業を転換された会社を経営されていたり、自ら創業したベンチャー企業を経営されている方々にお集まりいただき、来年度から施行される労働時間法制の見直しや雇用形態に関わらない公平な待遇の確保などについて、経営の現場の声をお伺いしたいと思います。

 

以下の座談会では、一部、守秘義務を要する事項に言及しているものもあるため、個人名などを特定されないよう、お話しいただいた方はすべて匿名とさせていただきます。それぞれの方々が経営される企業について語っていらっしゃる内容も、企業名を特定されないように、一部、変更して掲載しています。

 

ご参加いただいた方々のプロフィールは以下の通りです。

Aさん(男性40歳代):外食サービスを創業。現在もCEOとして複数の業態で多店舗展開の陣頭指揮を執る。

Bさん(男性50歳代):ある地方でマルチ・フランチャイジーを経営。外食、コンビニエンスストア、事業所向けサービス、教育関連サービスなどをフランチャイジーとして展開。

Cさん(女性40歳代):IT関連サービスを創業。観光や宿泊などに特化してビジネスを展開している。

Dさん(女性50歳代):製造業の会社を父親より引き継ぎ、CEOとして大きく業態転換を図った。現在、一種のSPA(製造小売業)として事業展開中。

Eさん(男性30歳代):医療・介護サービスの会社で新規事業を立ち上げ、その後、立ち上げた事業をスピンオフしてCEOに就任。現在、医療・介護関連のITサービス会社を経営。

 

― はじめに、皆さんそれぞれの会社での「働き方」改革への取り組みの現状を伺いたいと思います。

 

Aさん ここ数年、ビジネスを成長させるのに、人材不足を痛感しています。人材の質以前に、数がとにかく足りません。外食や小売りで事業を拡大しようと思っても、人手不足に成長を阻まれてしまいます。

 

― やはり人材不足は大きな問題ですか。

 

Bさん 私も外食やコンビニなど、店舗を構えて商売をしているところでは、やはり人材不足は大問題です。営業時間全体をカバーできるようにシフトを組むことができない店舗もあり、けっこう苦労しています。ただ、他の方々のように都市部で事業をしているわけではないので、必ずしも24時間営業にこだわる必要もなく、営業時間のほうを変更して対処することもあります。

 

Cさん 私たちの提供しているサービスは、情報提供や予約管理などをアプリで対応するものなので、ご利用いただいているホテルや旅館および観光施設などでは、いままで予約や問い合わせ対応に取られていた分の労働力を他の仕事に活かせると評価していただいています。お客様である施設運営会社さんは、人員をぎりぎりで回されているという印象です。

 

― もの作りの現場ではいかがでしょうか。

 

Dさん 人材が十分足りているかと問われれば、まだまだ不十分なところが多々あります、とお答えすることにはなりますが、人材不足で事業が回らないということはありません。

うちは、もともと製造現場で長年働いてきた職人とか機械加工のベテランスタッフが多かったのですが、製造現場を明るくきれいにすることで、若手や外国人も入社してくるようになりました。すると、未経験の人にベテラン社員が丁寧に指導するようになりました。長年、まともに後輩となる社員を採用していなかったわけですから、当初はうまくいかないこともよくありましたが、いまでは70代の社員が20代の外国人に手取り足取り教えていますよ。ベテランほど教えたがりなのかもしれません。

 

Eさん うちもDさんのところと同様です。人材不足なんて言い出せばきりがありません。ただ、現状は、幸いなことに人手不足倒産の危険性はありません。私たちの会社では、人材を採用するというよりも、業務委託とかパートナーさんとして自宅や自分の事務所で仕事をしてもらうほうが多いので、お互いにWin-Winの関係をもって対応しています。

 

― 今回の働き方改革では(注1)の内容ですが、まず労働時間法制の見直しがあります。残業時間の上限規制、勤務間インターバルの導入、月60時間を超える残業に対する割増率アップ、高度プロフェッショナル制度の導入など、大きな影響を受けそうなものは、どのあたりでしょうか。

 

Aさん 実際のところを言えば、残業を無理強いすることはありません。いまどき、そんなことをすれば、すぐにブラック企業の烙印を押されてしまいます。そうなれば、ブランド価値が瞬時に失われます。勤務間インターバルが気がかりだったのですが、今年のデータを見る限り、問題はなさそうでした。

 

Dさん 昔は受注量の変動が激しくて、忙しい時は徹夜で生産するなんていうことも珍しくはなかったですね。ただ、事業構造を変えて受注生産を止めてからは、無理な生産を社員にお願いすることもなくなりました。その分、売り切るための方策を日々捻り出すのは大変ですけど、ネット通販を活用してプライシングも自分たちでできるので、試行錯誤しながらも対応できています。

 

Eさん さきほども言ったように、私たちの会社では、業務委託とかパートナーさん‐パートナーというのはうちの技術基準を満たしているエンジニアの方を事前に登録して案件を優先的にお願いするプログラムなのですが‐委託先にしてもパートナーさんにしても、技術レベルに応じた単価設定になっているので、自分の生活を犠牲にしてまで仕事量を確保することはあり得ないはずです。もちろん、こちらでも発注量に無理がないかコントロールはしています。

ところで、労働時間の客観的な把握を企業に義務付けるとありますが、全員タイムカードで管理するとか、仕事に使うパソコンやスマホの起動時間を全て会社が監視するのでしょうか。

 

― すでにそういうシステムやアプリも開発されているようですが、大手企業であれば、Tokyo Workers(注2)のように、第三者がオフィスの稼働状況をモニタリングしてくれることもありますから、わざわざ会社がやらなくても把握できるかもしれません。ちなみに、Eさんのところでは、高度プロフェッショナル制度は導入されますか。

 

Eさん 検討する予定もありません。うちで直接雇用しているのは、ITのプロのエンジニアというよりも、マーケティングやプロジェクトマネジメントを担当している者が大半です。誤解のないように付け加えれば、社内にもエンジニアもいますし、CTOもいますが、彼らの仕事は技術動向の見極めとかパートナーの認定基準の策定といったものが中心になります。

 

― なるほど。では次に、雇用形態に関わらない公平な待遇の確保という点ではいかがでしょうか。

 

Cさん 私たちの会社には、正社員と非正規社員という区分けがもとからありません。役員と社員という違いはありますが、社員は個々の事情に応じて38時間のあいだで適当な時間を決めて働いています。このようにしないと、女性ばかりで会社を運営していくことは不可能です。

 

Bさん フランチャイズで運営している事業それぞれは、法人も違いますし、個別に就業規則も定めています。形の上では代表者は私ですが、実際のマネジメントは店長などの責任者が事業ごとにいます。いわゆる正社員は、責任者クラスしかいません。他のスタッフは全員、パートタイマーやアルバイトですから、不合理な格差を付けようがありません。

 

― 賞与とか昇給とかはいかがでしょうか。

 

Bさん 事業によって多少は違いますが、賞与も昇給も責任者クラスにはありますし、週4日以上やってもらっている6ヶ月以上勤めたパートタイマーさんには賞与もあります。昇給はむしろパートさんやアルバイトのほうが早いですよ。23ヶ月もすれば仕事を覚える人は覚えますし、ちゃんとできるようになれば時給をアップさせますから。

 

Aさん うちもBさんとほぼ同じです。各店舗で働いているキャストさんは、仕事のスキルに応じて昇給しますし、店の営業成績に応じて賞与も半年ごとに出しています。むしろ、本社のマネージャーやスタッフの方が賞与なしとか昇給対象にならないことが多いですね。

 

― 派遣社員などはいますか。

 

Aさん 雇い止めですか。とんでもないですよ、そんなことをしたら、仕事が回らなくなりますから、むしろ社員になるように、事あるごとに頼んでいます。何年も働いてくれた人を派遣切りするとか、まったく昇給させないなんて、大きな組織ならともかく、中小企業やベンチャーではありえません。

 

Dさん 業績が極端に悪くなれば、確かに給与カットや人員整理という話になりますし、うちも以前はそういう状況に追い込まれたこともありました。

 

― 「働き方」改革どころではないですね。

 

Dさん 基本は、働き方ではなくて、業績が上がるように仕事のやりかたをゼロから見直すことではないでしょうか。

 

【注1

厚生労働省が公表しているリーフレット“働き方改革~一億総活躍社会の実現に向けて”に概要は紹介されています。以下のサイトで見ることができます。

https://www.mhlw.go.jp/content/000335765.pdf

 

【注2

Tokyo Workersについては、以下のYouTubeのサイトを参照してください。

https://www.youtube.com/channel/UCJA7uPDWPZFwl0YPpgc73EA?view_as=subscriber

 

 

文章作成・編集:QMS+行政書士井田道子事務所(2018731日更新)

 

 

「働き方」改革を巡る座談会(2)~課題は何か?~

 

 

― 「働き方」改革を進める上で、これといって意識されている課題はありますか。

 

Eさん 組織運営とか人材面での課題というのは、特に感じません。もともとベンチャーや中小企業はあまり人材もいませんし、経営者といっても担当者と同じように実務をやっていますから、口頭でもチャットでもその場で決めて動きます。

 

Cさん そうですね、事務処理とか報連相とかは、システム上で完結しています。Eさんの会社も同様と思いますが、システム開発やお客様サポートといった仕事は、テレワークといいますか、社員や業務提携先の方々の自宅や事務所でやってもらうのが大半なので、無理やり残業とか長時間労働を強制しようにも、「今日はここまで」って言って電源を切られたら、それで終わりです。

 

Eさん 最後に泣きながら徹夜するのは、経営者しかいません。

 

― Aさんはどうですか。

 

Aさん 私たちのような外食ビジネスでは、経理処理にしても、人材採用にしても、アプリで対応できますから、いちいち紙に書いて本社に上げるということはありません。業務マニュアルやトレーニングも店舗では基本的にタブレットで対応できるようにしています。

 

― さすがに採用は本人に会ってみないと決められないのでは?

 

Aさん 外食とか対面型のサービス業では、現場のスタッフの採用は面接や実技試験などを行わないと決定できません。ただ、そこに至るまでの応募書類提出とか書類選考、面接の日程調整といったものは、絶えず最新のITサービスを導入しています。電話で日程を調整するとか、応募書類を郵送してもらうということは、ないですね。

 その上で、実際に会ってみます。スマホの画面で見た印象と、実際に会ってみた印象というのは、かなり違いますから、新業態店を出す時には必ず私が会います。採用を決めるのは店長ですが、どうしても合わない人については、私が拒否権をもつようにしています。

 Eさんのところでは、直接会わなくても、技術レベルの高い人材なら採用されるのですか。

 

Eさん よほど高度な技術があって、どうしても欲しい人材であれば、ネットを通じてコミュニケーションをするだけで仕事を頼むかもしれませんが、実際にエンジニアを採用するのであれば、直接会いますね。見た目ではなくて、その人の技術やビジネスについての考え方とか、仕事の価値観みたいなものが合っているかどうか、確かめたいので直接、会うようにしています。

 

Bさん フランチャイズ・ビジネスも同様です。本部との間では、契約書などは紙ベースで取り交わしますが、日常の業務ではITベースですね。

ただ、課題というほどのことではないかもしれませんが、本部から誰か来たり、アンケートなどの調査があったりすると、仕事が中断されたり、その後に対応しなければならないことが出てきたりして、余計な手間がかかることはよくありますね。

 

― 本社とか本部と現場との関係は、永遠のテーマかもしれませんね。

 

Bさん 私たちは複数のフランチャイズに加入していますから、それぞれの違いとか特徴もあります。現場のフランチャイジーを最優先に考えて対応してくれるところもあります。

 

― Dさんは何か課題を感じられていますか。

 

Dさん 「働き方」を改革するというのは、労働生産性を向上させることにつながらなければ意味がないと思います。まず、そこがはっきりしないケースが多いのではないかと危惧しています。

労働生産性を向上させるには、まず自社のビジネスモデルの見直しから始めるのが筋でしょう。先代の頃は大手の下請けとして部品の受注生産をしていたのですが、それを止めて、自社製品のネット販売に切り替えた当初は、なかなかトップライン(売上)が目標をクリアできず、苦労しました。とはいえ、営業担当を置く余裕はありませんから、ネットに注力したというのが実情です。結果的に、トップラインの生産性は担当者が1名ですから、労働生産性は高くなりました。

 

― 製造における労働生産性はいかがですか。

 

Dさん 職人さんっていうのは、どうしてもいいものを作りたいのです。それが、自分の納得できるものに偏ってしまうと、コストも工数もかかり過ぎてしまいがちです。それでは、経営者としてボトムライン(利益)を確保できませんし、働いた分に見合った処遇も実現できません。

 そこで、職人さんのもっているスキルやノウハウを活かした製品を企画するが経営者の仕事になってきます。その際に、職人さんたちと喧嘩腰になっても、製品にとって不要なものと絶対に欲しいものをわかってもらうのに、相当な時間がかかりましたし、その間に退職していった人もいます。

 ただ、一度理解して納得してもらうと、製品作りは早いですね。同時に、職場環境も私が先頭に立って毎朝、5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)を徹底していったり、未経験の人たちを新たに雇用してベテランの職人に指導してもらったりしたので、労働生産性は着実に向上しました。

結局のところ、最大の課題はトップラインを引き上げられるような製品を企画し続けていけるかという点かもしれません。これも、社員全体で進める仕組みを試行錯誤している最中です。

 

Aさん うちのビジネスでいえば、労働生産性を向上させる上で、もしかすると最大の問題は、現金管理かもしれません。うちのような店舗型のビジネスの場合、実際に支払いに使われるのは、まだまだ現金が多いのです。

 

Bさん 確かにそうですね。店で現金管理がなくなれば、本当に作業効率は上がりますし、店長やシフトリーダーがその日の売上や現金を集計したり確認したりする作業が不要になれば、その分、23人時程度は毎日、工数を削減できます。

 

Eさん うちは個人顧客向けのビジネスではないので現金を扱うことはまずないのですが、業界慣行としてまだまだFAXでのやり取りが多いので、ITサービスを提供しながらも、お客様とのコミュニケーションは電話とFAXです。

 

Cさん うちも国内のお取引先には電話やFAXを使うことが多いですね。海外とのやりとりは、ほぼすべてネットです。国内のほうがコミュニケーションの手間とか時間はかかりますね。ビジネスのスピード感は、海外の方が速いし、何より余計な手間がかかりません。

 

Eさん ファイルをワンクリックでやり取りできるのに、わざわざ何ページも印刷してからFAXして、先方に着いたかどうか電話で確認して…

 

Cさん そうそう。「働き方」を改革するなら、FAX禁止法でも作ったほうがすぐに効果が出るんじゃないですか。

 

Aさん ついでに現金も使用する範囲を限定してほしいですね。

 

― 労働生産性を向上させるには、ひとつの会社でできることには限界があるということでしょうか。

 

Dさん 事業承継やIT導入などで補助金や助成金の制度を活用したのですが、申込手続きや申請書類の作成などでまだまだペーパーワークが多くて、けっこうな作業量でした。見積書や領収書をひとつとっても、紙で整理し保存するのではなくファイルで対応するようになれば、企業も官公庁も生産性が上がることは間違いありません。

 

 

文章作成・編集:QMS+行政書士井田道子事務所(201886日更新)

 

 

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