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より激しく変化する事業環境に適応するには(1)

 

先月突然始まった急激なエネルギー価格の高騰など、地政学や政治の面で事業環境が急変しています。もとよりVUCAと呼ばれるようになった環境変化の大きさに対して、いかに柔軟に迅速に適応していくのかがマネジメント上の大きな課題となって久しいでしょう。

ちなみに、VUCAというのは Volatility(変動が大きいこと)・Uncertainty(確実なものがほとんどないこと)・Complexity(複雑に込み入っていること)・Ambiguity(曖昧でどちらとも取れること)の頭文字です(注1)。

Volatilityというのは、変化のスピードがより速くなりその変化の幅があっという間に大きくなることです。LLMに基づくAIサービスの急速な実用化など、その一例にすぎません。

Uncertaintyというのは、予測可能性の著しく低下した現実のことです。戦争の発生や政治的な言説でもよく見られますし、企業にとっては中期経営計画とか5ヶ年計画などは既に無意味になっています。

Complexity(複雑に込み入っていること)というのは、単純な因果関係が失われて、いくつもの複合的な要因が絡み合ったり、ひとつの事象の発生が同時多発的にいくつもの二次的事象を生起したり、ひとつの結果が元の事象の原因になって元の事象を反復・強化したりすることです。これを解決すればすべてうまくいく、といった特効薬のような解決策が見出せないのです。

Ambiguity(曖昧でどちらとも取れること)というのは、ある事象の解釈や価値判断が一義的に定まらない状態です。宗教、民族、歴史的背景など様々な要因・視点が絡み合っているので、ちょっとした広告宣伝活動が思わる方向からSNSなどで問題視されたり、インバウンドをめぐる観光産業の経済的な利益と観光地の住民の平穏な暮らしを脅かすオーバーツーリズムが対立したりするなど、日常的にも双方を満足させることが容易でないことは類例を俟ちません。

 

近年は、VUCAすら死語化しかねないほどで、新たにBANIとかRUPTといった考え方が提唱されています。

まず、BANIというのは、Brittleness(こわれやすさ)・Anxious(不安)・Non-linear(非線形)・Incomprehensible(わかりにくい)の頭文字を取ったものです。

Brittleness(こわれやすさ)というのは、セキュリティが万全であるはずのITシステムがメールに添付されていたコードを不用意に開いてしまったためにランサムウエアの被害に遭うケースのように、一見頑丈に見えるシステムがある一点の衝撃で呆気なく崩壊する現象を言います。ガラスや陶磁器が粉々に割れるイメージを想起すればいいでしょう。

Anxious(不安)というのは、詐欺メールや特流型犯罪などに巻き込まれるのではないかと怖れる気持ちはもとより、新たなSNSサービスや仲間内で流行り出したダンスやスイーツに追いついていこうとするように、常に起きる変化に対応しなければならないと人々が慢性的に不安を感じている状態を言います。一方的に情報を浴びすぎていることに起因するのかもしれません。

Non-linear(非線形)というのは、原因と結果が一致しないため予測がつかない現象です、特に小さな出来事が巨大な変化をもたらすことは予測不能と言ってもよいでしょう。これはいわゆるバタフライ・エフェクトです。感染症などが目に見えるほど大きな結果となっている時には、既に手遅れと言わざるを得ず、正しい手洗いを毎日励行するのが予防法というのでは、不安も解消されません。

Incomprehensible(わかりにくい)というのは、情報が多すぎて何が起きているのか把握できないことです。集めようと思えば、データや情報は際限なく集まりますが、そこから意味を見出すにはAIを活用して何とかすることができたとしても、そのプロセスや結果について論理的で合理的な説明がなされなければ、結局はブラックボックスであり神託のようなものであって、人が妥当な意思決定を行うことが難しくなります。

BANIは「VUCAではもはや現状を説明しきれない」という認識から生まれ、VUCAが「予測の難しさ」に焦点を当てていたのに対して、BANIは「壊れやすく心理的な不安が強い状態」を重視しているようです。従って、何かが起きた際にはそこからの回復力(レジリエンス)に着目したり、BANIの状況に陥っている人に対しては不安感への共感が鍵となるものです。

 

次にRUPT(ラプト)というのは、Rapid(急速)・Unpredictable(予測不能)・Paradoxical(逆説的)・Tangled(もつれ)の頭文字を取ったものです。特にスピード感と矛盾に焦点を当てています。

Rapid(急速)というのは、変化のスピードがかつてないほど速いことです。これは改めて言うまでもないでしょう。つい最近までSaaSといっていたはずのものが、今日では専門分野の業務処理にAIを特化させることでSaaSよりも速く安く確実に処理できるようになっているようです。

Unpredictable(予測不能)というのは、これまでの勝ちパターンや過去から蓄積してきたデータが通用しないことです。競争相手が全くノーマークの業界からいきなり出現したり、製品・サービスが変わった途端に従来は成功者とみられていた社員でも実績が上がらなくなったりするケースが該当します。

Paradoxical(逆説的)というのは、例えば、収益と投資、数値化と感性、効率化と創造性、グローバルとローカル、人材育成と生産性向上、一貫性と柔軟性など、相反する要素を同時に求められる状況を言います。改めて言うまでもないですが、マネジメントとは一見すると逆説的な諸要素を取捨選択し整理・統合してゆくプロセスに他なりません。

Tangled(もつれ)というのは、問題が複雑に絡み合い一つを解決しようとすると他が悪化することです。人手不足を解消しようとして未経験者や新人ばかりを採用したところ、教育訓練を行う手間ばかりがかかって実務が滞ってしまったり、管理職やベテランの担当者に余裕がなく指導・監督ができずに採用した人たちを戦力化できなくなるとともに、管理職やベテランも育成の成果が上がらず評価が下がり昇給や賞与も下がってしまい、双方に退職者が出ることで人手不足に拍車がかかる状況が一例です。

RUPTは心理的な状況というよりも、実務的に混乱している状況を受け入れるアプローチです。重視されるのは、新たな現実の受容、迅速な意思決定と実行、実行結果が想定とは異なるのであればまたすぐに次の手を打つ、といったマネジメントの現実的な姿を見直すことでしょう。

 

今回のコラムでは、こうした事業環境の変化を所与のものとして認めた上で(この点ではRUPT的です)、マネジメント、特に中小企業のマネジメントに当たるには、どのような点に留意すべきか考えていきます。

 

【注1

VUCAとは、もとは軍事用語として30年以上前から言われていた概念です。経営用語としては21世紀に入ってから言われているものです。特に、9.11のテロ、ハリケーン・カトリーナによる災害、リーマンショックなどアメリカを襲ったものに加えて、ヨーロッパにおけるイスラム関連のテロ、日本の東日本大震災が発生したことなども影響しているでしょう。また、狂牛病、SARS、新型コロナなど疾病のグローバルな流行とその多大な影響、地球温暖化が日々の生活に及ぼす酷暑や偏った豪雨と水不足など、疾病の流行や自然環境の変動も無視できません。

もちろん、ITDXAI・ロボティクスなどのデジタルとネットワークのイノベーション、デジタル通貨の普及、グローバルに見られるようになった少子化、急増するインバウンド需要、(特に日本における)物価や金利の上昇など、社会経済上のトレンドの変化やその激化もVUCAを実感させるのに事欠かないものです。

 

作成・編集:経営支援チーム(2026326日更新)

 

 

より激しく変化する事業環境に適応するには(2)

 

事業環境が変化する以上、事業戦略こそ第一に迅速に見直すべきものです。よく言われるように、ひとつの戦略に徒に拘り続けてはいけません。現在のプランがうまくいかないのであれば、すぐにプラン Bに移るべきです。

ただ、現在のように急変する事業環境においては、このようにプランABかというよりも、そもそも戦略の前提条件が変わってしまい、事業そのものをどうするのかが問われる事態も出てきます。そこでは、プランCを予め検討していくことが望まれます。

プランCとは縮退(縮小・撤退)戦略です。現在行っている市場から撤退したり、事業規模を縮小したり、開発プロジェクトを中止したりすることです。

プランCのポイントは実施するタイミングです。具体的に製品を開発したり、既に仕入れや外注への発注などを進めていたり、経営トップ自身が言い出した事業プランだったり、担当している社員の思い入れが強かったりすると、どうしても止めるという意思決定が遅くなってしまいがちです。中止決定のタイミングが遅くなって手遅れにならないようにプランAの立案段階から、GO/STOPを判断する時機と基準を社内で明示しておくなど、マネジメント上のルールを事前に設定しておくことが求められます。

プランCを具体的に進めるとなると、事業の売却や経営資源の入れ替えといったことを実施しなければなりません。例えば、早期・希望退職優遇制度は上場会社ベースで毎年50社、対象人数で12万人程度となっており、著しい業績悪化やコロナ禍のような景況悪化の時に緊急避難的に行う経営手法というよりも、定常的に事業や人員を入れ替えるマネジメントツールとして機能していると言えそうです(注2)。このように、事業の売却や経営資源の入れ替えが当たり前のこととして行われています。

 

プランCを備えておくと同時にもう一方では、次のプランA(プランA Ver2.0)の立案・検討に着手します。こちらは、もともと取り組んでいたプランAと顧客・技術・必要なリソースなどの面で共通点があればよいように思われますが、どれかひとつの要素で共通する部分があればよいという程度に割り切って考えます。プランCで縮退を検討しながら次の事業の種を育てることに着手しなければ、組織全体にとって明日はありません。

特に意識して取り組みたいのは顧客の入れ替えです。現状の顧客を一括りにまとめて捉えるのではなく、顧客をいくつかのグループに分けて把握しておきます。このグループ分けというのは属性によって区分するというよりも、事業戦略上の意味合いから分けるべきものです。

例えば、儲けさせてくれる顧客とあまりおいしくない顧客、要求は厳しいが製品やサービスを開発することにつながる顧客とただ買ってくれるだけの顧客、規模や事業の内容が成長している顧客と現状維持や下降トレンドに入っている顧客など、今後も付き合うことが望ましい顧客を抽出して、その顧客との取引を維持・拡大できるようにするにはどのような製品・サービスが期待されるのかを検討するところから、次のプランAが描かれます。

ちなみに、市場・製品・サービスの絞り込みと新製品開発を巧みに並行させていく企業の代表的な例としては、サイゼリヤを挙げることができます。立地や顧客という面では都市を重視する同社の事業戦略は、まさにコストリーダーシップです。それを実現し続けてきたのは、徒にメニューを増やさず、材料購買の面でも強みを発揮できるようにしていることです。同時に、同じメニューばかりで飽きられることがないように、新しいメニューも提案しており、そこから新たな定番商品が生まれるのです。商品を入れ替えつつあれだけの低価格を維持できるところに、コストリーダーシップ戦略の真髄が表れています。

 

こうしたアプローチは事業戦略を考えるためだけのものではありません。日常生活においても適用できるものです。例えば、ランチに何を食べるのかという意思決定を考えてみましょう。

今日は麺類、昨日は牛丼、先週はとんかつ定食やパスタランチだったというようにその時その場で食べたいものを食べるという人もいるでしょう。また、月曜はカフェ、火曜はラーメン、水曜はコンビニ弁当というように曜日によって決めている人もいるかもしれません。いずれにしても、場所(職場の立地条件など)と時間帯(一斉に昼休みとなるか交代で取るのか)と予算(ランチにかけることができる金額)を制約条件=環境=として、いくつかの選択肢の中から今日のランチを決めることになります。

ある日、時間がない中でプランAとして立ち喰いそば、プランBとして隣りのコンビニでおにぎりを買おうとしていたとします。あいにくそば店は込み合っており入店を諦めて、コンビニでは既に食べたかったおにぎりが売り切れていたら、どうするでしょうか。ここでプランCとして「食べない」という選択肢が登場します。

その日のことだけであれば「食べない」という選択肢もあり得ますが、たびたびこうした事態が起きたりコスト面で外食が厳しいのであれば、外でランチを買ったり食べたりするのではなく、自分で弁当を作って持参するという方策に行きつくかもしれません。これもまた、プランCです。

 

事業環境が変化するのは組織も個人も同じです。ランチを選ぶという日常的な意思決定でも、大企業の事業戦略と同様に迅速に見直すべきものです。時にはプランCを選ばなければならないこともあります。その時になって慌てないために、予めプランCを検討していくことが不可欠なのは組織も個人も同じです。

特に中小企業は組織的にも人材面でも限られていますから、従業員や取引先などには一切相談せずに、経営者が独りで頭の中でプランを検討し、実行する場合をシミュレーションしておかなければなりません。プランCを考えていることは、現状では、決して他者に漏らしてはならない事項でしょう。

 

【注2

データについては以下のサイトを参照してください。

2025年「早期・希望退職募集」は 1万7,875 、リーマン・ショック以降で3番目の高水準に | TSRデータインサイト | 東京商工リサーチ

 

作成・編集:経営支援チーム(2026331日更新)

 

 

より激しく変化する事業環境に適応するには(3)

 

プランAを実行しながらそのオプションであるプランBも実行する可能性があり、その上にプランCを選ばざるをえない事態に直面することを前提に経営資源を活用するには、特に資金・人材・顧客基盤についてしっかりと把握しておくことが求められます。

 

経営資源のうち、何はともあれ、現金が最も重要です。

現金が十分にあれば、人材や顧客基盤、そしてそれ以外の経営資源、特に機械設備や原材料などのハードウエアの経営資源及び時間や地域といったものについては、カネで何とか手当てすることが可能です。言い換えれば、すぐに動かすことができる資金=現金=を相当程度に保有していないのであれば、他の経営資源にある程度は恵まれてはいても、事業環境が急変した場合に即応できないという弱点をもっていることになります。

人材不足であっても資金があれば、他社から人材を引き抜いたり、欲しい役員や従業員がいる会社を丸ごと買収したりすることで事業環境の急変に対処できます。同様に、顧客基盤やハードウエアの経営資源などが大きく欠けるとしても、多少なりとも高いコストを支払うことで現金を活用して対処することができます。

事業環境の急変に備えて現金を十分に保有しておくというのは、一方では資金効率の低下を招く行為です。コストカットや投資削減で徒に現金を蓄えておくのではなく、可能であれば、文字通りの現金ではなくコミットメントラインのような融資枠を事前に設定しておく金融商品を契約しておくとか、社債などを発行しておいて機動的に動かすことができるだけの資金余力をもっておくとか、自社の属する企業グループの間で資金プールを設けておくといった工夫が必要です。

こうした手段は中小企業単独では実現が難しいとすれば、同様の中小企業が集まって資金調達手段としてのホールディング・カンパニーを設立して平常時から資金調達能力を高めておくといった方策を検討すべきでしょう。

そして個々の中小企業としては、現金の回収をできるだけ早くして現金化の比率を高めていくことを強く意識しておきたいものです。理想的には売上が発生した時点で100%現金で回収できればベストです。現実には不可能ですから、12ヶ月以内の口座振込とか決済システムからの入金があるようにしておきたいものです。

いずれにしても、何らかの手数料を差し引かれて売上が100%回収できないとか、自社に現金が入ってくるのが数か月後とか、売掛債権を売却して現金化しなければならないとか、入金までの期間が長い場合や売上を100%回収できない状況にあるとすれば、まずは売上に関する業務改善が必要です。特に、決済手数料やシステム利用料、券売機等のリース料など、売上管理や決済に要するコストが総売り上げの数%を占めるのであれば、事業環境の急変がなくても早急に改善すべきでしょう。

 

次に人材という経営資源について考えてみます。

事業環境が急変する状況における人材というのは、その価値が急変しかねないリスクを多く含んだ経営資源です。この点は、現金という経営資源と比較してみれば明らかです。

100万円の現金は、インフレが進むと将来は減価するとしても、1年後に現在価値で50万円をきることは考えにくいでしょう。人材は、今日は戦力となっている人でも、1年後に事業を転換しているとすれば、その変化についていける人とそうでない人では、人材としての価値がプラスからマイナスに一変するかもしれません。リスキリングやキャリアカウンセリングが効果的であるとしても、それらでは変化のスピードについていけないのです。

一般論ですが、自社のこれまでの事業のなかで成長し人材価値を高めてきたからといって、これからもそうであり続けるという保証はありません。事業環境が急変する場合、そうした急変に適応してきた経験がないとすれば、事業転換に抵抗したり反旗を翻すような行動に出たりするのが自然な反応です。

従って、人材については最悪の場合、全員を解雇するか退職させることを前提に、資金調達を考えておくべきでしょう。自社の事業転換に一定のタイムフレームでついてこられない人については、資金がある内に次のキャリアに挑戦してもらう機会を与えるのが経営者の責務です。特に中小企業の場合、自社内でのキャリア開発には大きな限界がありますから、人材の入れ替えを躊躇してはなりません。

同時に、新たな事業に向けて新たな人材を調達することも必要です。こちらにも資金は必要です。事業環境が急変する状況で経営者がしなければならないのは、こうした経営判断を下して実行に移すことです。時には、自社に残す人と社外に出す人を峻別しなければなりませんし、最終的には辞めさせるべき人のリストを作成しつつ、次に雇うべき人材を採用する手続きを進めるのが経営者の仕事です。

 

第三に重視すべき経営資源は顧客基盤です。これは、起業や新規事業開発に挑戦した経験がある人であれば実感されることと思いますが、ゼロの顧客をイチにするというのは、事業を起こす上で最も厳しいものです。イチの顧客を10にし、100にしていくのも容易なことではありませんが、まずはイチがないと始まりません。

その点、既に事業を営んでいて何らかの顧客との関係ができあがっている企業にとって、仮に現在の事業を全て止めてしまったとしても、顧客との関係が何らかの形で維持できているうちに、その顧客との関係性のなかから次に事業の種が芽を出すことがあれば、顧客ゼロからのスタートとは比べ物にならない優位性があります。何しろ、すぐに売上が立ち、現金が入ってくるのですから。

仮に、自社がひとつの会社のみに全面的に依存する下請けであったとしても、その唯一の顧客から評価されて発注されるものがあれば、当面は事業としてやっていくことができます。事業環境の急変で下請け関係を切られることも十分に予想されますが、それは次の経営課題です。

特に法人向けの事業に取り組んでいる企業にとって、数少ない顧客とのつながりで既存の事業を回しているケースは珍しくないでしょう。既存の顧客の事業について第三者から見て成長が見込めるのであれば、当面はその既存顧客についていくのが現実的な方針です。それらの顧客の事業転換を読んで製品・サービスを先取りして開発できるように、顧客に深く入り込むのもひとつの戦略です。

もちろん、少数の特定顧客に売上の大半を依存するというのは、可能であれば早急に変えるべき事業構造ではありますが、中小企業にとって容易に実現できることではありません。むしろ、その構造を捨て去らなければならない状況に追い込まれて初めて事業構造を変えることに取り組むのが現実でしょう。

できるところから、顧客を少しずつでも広げていくことを経営者が意識できない限り、中小企業が顧客基盤を変えていくことは難しいものと思われます。既に顧客基盤があるのであれば、事業環境が急変しても、まずはその活用を考えるところから着手すべきでしょう。

 

作成・編集:経営支援チーム(202649日更新)

 

 

より激しく変化する事業環境に適応するには(4)

 

事業環境の急変に適応するのに、資金・人材・顧客基盤など必要と思われる経営資源を相当程度に有しているとしても、それだけで十分に準備できているわけではありません。最も重要なのは、経営者自身が事業環境の急で激しい変化に適応していくマインドセットをもち、必要と判断する方策を自ら考えだし、いくつかの選択肢の中から意思決定して実行していくことです。

言い換えれば、単に事業を成長させて収益をあげて次の投資を実行していくだけでなく、事業に見切りをつけたり売却や廃業を断行したりすることこそ、経営者として果たすべき役割であると改めて自覚すべきでしょう。

こういう時代における経営者は、特定の事業を見るだけでは役割を果たしたことにはなりません。ポートフォリオ・マネージャーとして企業全体の事業構成を経営資源の制約や事業環境の動向などに照らして最適化していくのが、経営者の仕事なのです。

個々の事業運営に関わるのではなく、事業運営は執行責任者(事業運営の子会社の社長とか事業部門を担う執行役員など)に任せることが、手始めに経営者に求められます。経営者を選ぶ取締役会もそうした観点で経営者を指名し、その結果を評価しなければなりません。

 

こうしたことはわかってはいても、現実はその通りには動かないというのが多くの企業の実情です。特に中小企業ではそうでしょう。圧倒的に多くの中小企業では相変わらず、経営者がオーナー兼執行責任者兼実務担当者であるのが実態です。

そこでは、経営者自身が事業のコアとなる製品・サービスの開発にのめり込んだり、人事や財務に時間を取られていたりするでしょう。そうした現実は仕方がないと諦めるのか、経営者でなければできないことは経営上の意思決定であることを想起して、今の姿を変えていこうとするのかが経営者に問われるべきテーマです。

経営者自身がその企業のオーナーであるならば、日常的に事業の入れ替えを選択肢にもって事業運営に当たらなければなりません。もちろん、執行責任者を自分以外に委ねるのは人材が量的にも質的にも不足するなかで極めて困難なことでしょう。

経営者が事業を切り離すことを頭の片隅に置きながら仕事をするのは、既に矛盾しています。そこで、できるだけ実務から手離れするように業務の仕組みを見直すことから始めることになります。

特に事業を立ち上げている時期では、オーナーであり経営者である人が自ら実務のひとつひとつを処理していくのは当然ではありますが、その後できるだけ早期に実務を自らの手から放していくことが肝要です。

そのためには、次のような仕事の進め方を意識的に行うことが要請されます。

 

l  実務はすぐに誰かに引き継ぐ習慣をつけておく

l  実務を処理する一回目は自ら行うとしても二回目以降はルールや仕組みを作って自分でなくても処理していけるようにしておく

l  日常的な仕事は業務の効率化に長けている人に任せて自動化・システム化していくのを組織全体の当たり前にしていく

 

一口で言えば、その場しのぎの仕事のやり方を意識的に止めて、自動化・システム化・仕組み化を進めていくことです。

その上で、経営者はまず事業環境の変化を感じ取ることが必要です。事業環境の変化を他社よりも抜きん出て早く見抜くことは難しいものですが、何かが変わってきていると感じ取ることはできます。例えば、定期的に顧客の現場を訪問し実地に見学することで、変化を感じ取ることは可能です。毎回、気づいたことをメモしておくだけでも変化は見て取れるものです。こうした時間や労力こそ経営者が自ら投入すべき資源と言えます。

事業環境の変化は、決して社外人脈作りやセミナー参加などで把握できるものではありません。仮にそうしたところで何らかの知見を得られたとしても、その段階では既に起きた変化を確認しているに過ぎず、経営者としては一般論を知らなかったことを恥じるべきでしょう。事業環境の変化、特に自社を取り巻く身近な環境の変化は、その現場にいる顧客や取引先や従業員などから直接見聞きする情報の中から感じ取ることができなければなりません。

 

ここまで述べてきたように、経営者が事業の急な方向転換を可能にするには投資家的な立ち位置が必須で、そのためには実務に埋没しないように自分の時間やエネルギーをコントロールしなければなりません。要は、事務処理や関係者とのコミュニケーションなどの時間や労力をいかに削減して、投資家的な立場に自らの時間やエネルギーを充てていくのかが問われます。

既にAIによる事務効率化は単なるチャットから、一歩進んでエージェント化(自動実行)へと発展しています。つまり、日常の「書く・まとめる」をゼロにする=毎日発生する定型業務をAIに丸投げする=ことから着手してみることが必要です。

例えば、Microsoft Teams にある機能では、録音から文字起こし、さらには決定事項やTo Doリストの抽出まで数分で終わるので、ミーティングのメモや会議などの議事録を完全に自動的に作成して関係者に配布することができます。既に精度が90%を超えているとされており、人間が修正する手間は最小限でよいと言われています。

また、メールやチャットのドラフト作成では、ChatGPTClaude といったAIに、箇条書きで要件を伝えるだけで、相手に合わせた適切なトーン(敬語・親しみやすさ等)の返信文を生成することが可能です。

次のステップとしては、バラバラのデータや複数の資料を横断して分析することも自動化することになります。Google Workspaceなどを使うと、社内の大量のPDFや議事録やマニュアルなどを読み込ませ、そこからデータテーブル(表)を自動的に作成することができます。それらをグラフ化するのも容易です。

例えば、「過去1年間の見積書から、取引先別の合計金額を抽出して表にして」といった指示で、取引先別の集計表が出現します。ExcelGoogleスプレッドシートで関数を組んで処理していた作業も、Gemini for Workspaceなどに「この列の住所表記を統一して」「不要な重複を削除して」と日本語で指示するだけでデータが使えるように整えることができます。

更に、自分でプログラミングができなくても、特定の業務に特化した専属のアシスタントに相当するものを構築できます。例えば、「メールで届いた請求書をAIで読み取り、自動でクラウド会計ソフトに入力し、支払い期限をカレンダーに登録する」といった、ITツールをまたいで業務処理を自動化することもできるようになっています。Gemini EnterpriseClaude などの機能を使えば、人事・経理・マーケティングといった特定業務のルールを教え込んだ、自分だけのアシスタントをノーコードで作れます。

こうしたことは、やったことがないとどこから手をつけるべきか躊躇したまま、何も進まないことになりがちです。AIによる効率化の原則は「自分が一番嫌いな、単純な繰り返し作業」から自動化することです。伝票入力、スケジュール調整、報告書作成など、経営者自身が日常的で煩わしい事務作業を特定して、それらを自動的に処理する方法をAIに尋ねると、最適なツールやプロンプト(指示文)をAIが提案してきますから、それに応じて日本語で作業を指示すればよいのです。

もちろん、こうしたAIの活用は事務効率化に留まりません。AIを自分の秘書や顧問などとして活用することで、いままではアイデアが及ばなかったような事業戦略上の選択肢を考え出すことも可能となります(注3)。

中小企業や個人事業ではこうしたことを自らやってみることも必要ですし、現に行って一人で数十もの顧客に対応する士業の事例なども広く知られるようになっています。そうした事例を見て学ぶことも中小企業の経営者にとって不可欠な習慣となってきています。

 

【注3

実はこのコラムも昨年よりGeminiChatGPT などを活用して作成しているところがあります。実感として下調べなどの作業効率が上がったことはもちろんのこと、コラムへの反応なども良くなったところがあり、ポジティブな効果があったと言えます。

 

作成・編集:経営支援チーム(2026415日更新)

 

 

より激しく変化する事業環境に適応するには(5)

 

前回述べたように、事業環境の急変に適応するには、経営者自身が事業環境の急で激しい変化に適応していくマインドセットをもち、必要と判断する方策を自ら考えだし、いくつかの選択肢の中から意思決定して実行していくことが必須です。

つまり、経営者というよりも投資家的な立ち位置にあることが不可避であり、実務に埋没しないように自分の時間やエネルギーをコントロールしなければなりません。事務処理や関係者とのコミュニケーションなどの時間や労力をいかに削減して、投資家的な立場に自らの時間やエネルギーを充てていくのかが問われることになります。

それでは、事業環境の急変に適応するには、働く人ひとりひとりはどうすればよいのでしょうか。経営者や上司に言われるままに漫然と仕事をこなしていれば、それなりに給料をもらえて定年退職するまで同じ組織に居続けることで、社会人としてのビジネスキャリアが全うできる、とは多くの人が直感的に無理だろうと思うところでしょう。

実際、新卒で就職した組織に定年退職まで勤め続けるというキャリアプランは、ずいぶんと昔に過去のものとなっていました。自らの意思か組織の都合かはともかく、転職することは圧倒的に多くの人々にとって当たり前のことです。ひとつだけはっきりしているのは、働く人一人ひとりのビジネスキャリアに責任を持つことは、組織にとっても経営者にとっても原理的・実務的に不可能であるという点です。

 

そこで、一般的には次のようにキャリアについての考え方自体が変わってきています。

まず、転職がキャリアのひとつのステップとして多くのビジネスパーソンにとって当然のこととなる以上、ビジネスパーソンの基本的なスキルが今の組織だけで通用するスキルではなく、ポータブルなスキルとして身につけることが社会的に求められます。

職種や業界が変わっても持ち運べる(ポータブルな)スキルを具体的に言えば、対人スキル(交渉力、共感力、リーダーシップなど)とか問題解決力(課題の本質を見極めて解決策を導き出し実行する力)などが頭に浮かびます。

これらのポータブルなスキルを平均的なレベルで身につけていることは必要不可欠ですが、キャリアを切り開いていくには何かひとつでよいので、強みと呼べるレベルに磨き上げたものを有していることが望まれます。

 

ポータブル・スキルはある意味ではどこにでもあるスキルですから、それだけではビジネスパーソン個々の強みを表現することにはつながりません。ポータブル・スキルとともに、セルフブランディング(自分にタグをつけること)も必要です。「〇〇さんと言えばこれ」という強みを言語化し他者に認知してもらうことを心掛けておきたいものです。

セルフブランディングというと、多くの人が「自分にはそんなに強く主張できる強みはない」と思い込みがちですが、実は自分の強みを自覚していないだけなのかもしれません。例えば、ニッチな強みをもって、大きな括りで業界やマーケットで目立とうとするのではなく、狭くても良いから特定のコミュニティや専門分野で「××のことはあの人に聞こう」と思われる存在になることです。

そのためには情報発信と信頼醸成も重要です。社内だけでなく、社外のネットワークやSNSなどで自分の考えや実績を可視化しておくことが、仕事に限らず、思わぬチャンスを引き寄せることはよくあります。

 

こうしてみると、キャリアをラダー(昇進)からポートフォリオ(仕事の可能性)に見方を変えることが要請されます。

キャリアアップという表現がありますが、これは暗黙の前提としてキャリアはアップ(上昇)するものと認識しています。しかし、事業環境が急変する時代では、組織構造は変化に弱いピラミッド型では機能しません。ピラミッド型のラダー(組織階層)が多少は残るとしても、基本的には階層が少なく社外にもつながる組織編制を原理とするでしょう。

そうした組織では、現に担当している分野とかこれまで経験を積んできた職種という一つの専門性だけで勝負するのではなく、複数のスキルや経験を組み合わせて、事業環境の変化に柔軟に適応していくことで仕事が進んでいくでしょう。

こうした状況でよく言われるのは、スキルの掛け算とキャリアのリスク分散が必須の方法論です。例えば営業とITとか人事とデータ分析のように、異なる領域のスキルを掛け合わせることで、ひとつの専門分野しか経験していない人材プールの中で人材としての価値が高まる可能性が出てきます。

また、複数のプロジェクトや社内外のコミュニティに幅広く関わることで、業界を超えた変化に日常的に曝されることにより、事業環境の激しい変化が当たり前のこととなり、柔軟に対応できるようになる習慣が身につくかもしれません。

 

一方、転職したり現在の組織で仕事のやり方を見直したりする際に、どうしてもこれまでの見方ややり方に拘ってしまい、頭ではこれではダメだとわかっていても、なかなか新しい環境に馴染んだり経験したことのないやり方にチャレンジできなかったりすることもあるでしょう。理屈の上では、事業環境が激変する状況でアンラーニング(学習棄却)が重要であることはわかっていても、実際にアンラーニングを実践するのは容易なことではありません。

多くの場合、アンラーニング自体が未知の経験であり結果が出ていないアプローチでしょう。従って、アンラーニング自体に日頃から取り組んでいくことがポイントなのです。

つまり、アンラーニングを習慣化することが肝要です。新しいことを学んでやってみるには、まずはこれまでのやり方や見方を止めてみることです。そして、結果が容易に出ないことを自らの経験とするのです。

過去の成功体験が今求められる変化に取り組むのを邪魔することがあります。常に「今のやり方がベストか?」と疑い、柔軟にアップデートし続ける姿勢が、長期的にはビジネスパーソンにとってのキャリアの生存戦略になります。

そもそも、最初に就職することが偶然の産物という面が強いでしょう。学生がどんなに真剣に考え抜いたところで、ビジネスの現場やそこで遭遇するイベントを予測することなど不可能です。キャリアは計画というよりも、偶然の出会いや変化を味方につける計画的偶発性(プランド・ハプンスタンス)を前提に取り組むべきものでしょう。

例えば、今でも受発注などの連絡をFAXに依存している業界もあります。その状況を、DX化やIT化どころではない遅れている業界と嘆くのか、スマホでよりとりするだけで自社の優位性が生まれるかもしれないチャンスと捉えるのか、たまたまアルバイトをした会社の実情を知った上でどう活かすかは、その人のものの見方や状況の捉え方次第なのです。

 

いざキャリアを転換する機会が訪れたとしても、自分の健康状態や家族の事情など、そうやすやすとキャリアチェンジを実現するわけにはいかない場合もあります。取り組みたいテーマ、挑戦したい仕事、一度は一緒に仕事をしてみたい人々との関係などはキャリアを検討する上で重視すべきものですが、同時に、経済的な事情や地理的環境などの制約条件も無視できません。

キャリアを巡る話は、どうしても長期的な視点や留学など費用の掛かるテーマに行きつくことが多く、なかなか実行に踏み切れないと思われがちです。とは言え、今なら何はともあれこれだけは譲れない事項があるのであれば、日々の仕事に取り組む上で現実的な優先順位をつけておくことも重要です。

キャリアを発展させるのに制約条件になっていると思われることでも、実は計画的偶発性(プランド・ハプンスタンス)の契機となって、思いもよらないキャリアを切り拓くことにつながるかもしれません。特に、出産・育児・介護・長期の休養などのプライベートなイベントが、仕事上の契機となることはよくあることです。

 

以上をまとめると、次の5点を明確に意識して自らのキャリアを作り上げていくことが望まれます。

 

l  ポータブル・スキルを磨き抜く

l  自分にタグを付ける(セルフブランディング)

l  キャリア観をラダー(昇進)からポートフォリオ(仕事の可能性)に変える

l  アンラーニング(学習棄却)を習慣化し偶然を味方につける

l  その時点で優先すべきものを自分で明確にしておく

 

サッカーで自陣からボールを回しながら相手の弱点を探して攻撃に移っていくように、キャリアも主導権を自分が握ってビルドアップするべきものなのです。もちろん、ただボールを回せばよいというわけではなく、味方が異なる方向に走り出すタイミングを見計らって相手の裏にボールを通すとか、時にはわざとボールをキーパーまで戻してやり直すといったことで、攻撃のきっかけをつかんだり体制を作り直したりすることもあるのです。

特に中小企業に勤めている人にとって、主導権をもって自分のキャリアを作っていくことは、社会人として生きていく上で避けて通れないテーマです。

大企業であれば、仕事や人間関係も様々なものがあり、スキルアップの機会や教育研修プログラムも豊富に用意されている中で、異動や転職も含めて経済的なリスクを小さくしながらキャリアの選択肢をもつこともできるかもしれません。この点は、企業規模が小さいほど現実的に難しいでしょう。

自ら叩き上げで会社を切り盛りしてきた経営者が、実務の細部にまで拘っていたりマイクロマネジメントの傾向が強かったりすると、社員が仕事にチャレンジすることを事実上禁止されているかもしれません。新しい事業や製品・サービス、業務改革などのために必要な知識やスキルを学ぶのも、経営者からやってみてからでないと前に進まないというのでは、なかなか実行に移せません。

ただ、経営者が知らないテーマや苦手な分野、興味・関心がない領域では、コストがかからなければ経営者が口出しすることがあまりないことで、社員がフリーハンドで挑戦できる余地があるケースも見られます。特にAIDXといったことに関わるのであれば、年齢の高い経営者ほど尻込みしがちですから、社員のキャリアにつながるような挑戦を仕事上のテーマとして見つけることができるでしょう。

その際に注意したいのは、上記の5点を思い出してキャリアを発展させる方向とタイミングを見誤らないことです。中でも、「その時点で優先すべきものを自分で明確にしておく」ことは重要です。経済的な問題や家庭の事情などがある場合は、仕事上のテーマよりも労働条件を優先して転職の機会を活かすべきでしょう。仕事上のテーマやスキルアップなどは、新しい職場で改めてチャレンジしてもよいのです。経済的な事情からより高い給料が得られる業界や職種に転職することで、結果的に仕事上のチャレンジや自分のスキルアップにつながることもあるのです。

 

 

作成・編集:経営支援チーム(2026421日更新)

 

 

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