国府谷明彦氏スペシャルインタビュー

第1回「認知行動療法を軸に3事業を展開」

聴心館 館長 国府谷明彦氏
聴心館 館長 国府谷明彦氏

 さまざまなベンチャー企業の「人材・組織・働き方」をご紹介していくインタビューの第12弾。

 

今回は、認知行動療法を中心にカウンセリングを行われている、聴心館館長の国府谷明彦さんにお話を伺います。

 

― はじめに、こちらで提供されているサービスをご紹介いただけますか。

 

国府谷さん 聴心館では、心の悩みをもつ方や精神疾患の方を対象に、投薬以外の方法、すなわち、認知行動療法に基づく治療法により、悩んでいる状態を改善し、社会復帰できるように支援しております。

 

― 具体的には?

 

国府谷さん 2週間に1度、150分を基本とする面接を継続的に受けていただきながら、改善治療を進めていきます。

  はじめに、患者さん(聴心館ではクライアントの方をこう呼びます)には、いま何がつらいのか、話していただくことからスタートします。ここは、医学でいえば『問診』に相当します。

 次に、毎回、テーマを決めて問題を分析する、査定面接を通常4回行います。ここで、性格や遺伝要因、生育歴、家庭・職場・人間関係などの環境要因などを分析し、問題となる悪循環を調べていきます。ここは、医学上の『検査』に相当します。

  その次は概念化の作業です。困っている問題を思考・感情・行動の面から、どのような悪循環を形成しているかを把握し、対応する改善治療計画としてとりまとめ、患者さんにご説明します。ここは、医学上の『診断』に相当します。

  そして、改善治療になります。問題となる悪循環のパターンを認知や行動を変えることで修正していきます。通常、20回の治療面接を通じて行います。この段階では、患者さん自らがホームワークを通じて、新しいスキルを学習実践していきます。

 

聴心館では認知行動療法をプログラムとしてしっかりと体系化しています
聴心館では認知行動療法をプログラムとしてしっかりと体系化しています

  

― そうすると、聴心館は個人向けのサービスですね。

 

国府谷さん 聴心館では個人向けです。

 ちなみに、グループの聴心舎で企業向けのサービスを行なっています。ストレスチェックよりもさらに踏み込んだ『うつチェック』を行うことで、メンタルヘルスの予防措置を進めたり、認知行動療法によりうつなどの問題をもっている社員に対して改善治療を行ったり、休職者の場合には、職場復帰を支援したりします。

  もちろん、定期的にメンタルヘルスのご相談を受ける場を設けるなど、一般的な予防・啓蒙活動なども行います。

 

― ストレスチェックそのものは扱われないのでしょうか。

 

国府谷さん 聴心舎としては、直接は扱いません。

 ストレスチェックそのものは、ビジネスとして見た場合、新規に参入されるところも多く、今後はかなり激しい競争になるものと予想されます。もともと定期健康診断もストレスチェックも産業医に報告義務があるため、早晩、定期健康診断を提供されてきた業者が、最終的にストレスチェックを含めて全部を実施するようになるのではないかと予想しております。

  そうした競争の激しいサービスよりも、実際に効果のある予防措置や、うつ病にかかられた方を実際に改善するサービスに主軸を置いて,聴心舎のサービスを提供していきたいと考えています。

 

人材育成にも力を入れる国府谷さん
人材育成にも力を入れる国府谷さん

― 人材育成に向けての事業もされているそうですが。

 

国府谷さん 聴心塾といいます。

 ここでは、聴心館で提供している認知行動療法などのサービスを担うことができる人材の育成を目指して、研修やセミナーを行っています。

  聴心塾では、週13時間12回が1課程で、2年半かけて全10課程を学習していただき、基礎から臨床実践まで学んでいただく「認知療法士養成講座」が主軸です。臨床心理士や保健師、看護師の方や、心理学初学者でもプロとして頑張りたいという意識の高い方が、学んでおられます。

  このほか、うつなどのメンタル疾患についての「症状別セミナー」、士業の方から主婦や学生など一般の方まで面接技術のスキルアップを目指したい人向けの「上手な話の聴き方講座」などを行っています。

 

― かなり幅広い層を対象として人材育成を行われているように見られますが。

 

国府谷さん 基本的には、聴心塾はプロとして開業を目指す人を念頭に置いています。特に認知行動療法士研修では、内容的にも、精神医学や脳神経科学なども必須で学んでいただきますから、カルチャーセンターのつもりで来られた方には、ついていくのが難しいかもしれません。

  認知行動療法士として開業する意思のある方については、少数精鋭で理論も臨床実践も学習していただき、聴心館のブランドで開業していただく感じでおります。

 

― 聴心塾は、認知行動療法の理論や手法を学ぶスクールですか。

 

国府谷さん 聴心塾は学習の場とはいえ、プロを養成するためのスクールですから、ビジネスを絶えず意識しています。学習して終わりではなく、開業、そして、実際にメンタルヘルスや心の問題を抱えている人たちの改善治療に当たっていっていただくことを意識しております。

 

― 個人や企業を対象としたカウンセリングセンターだけでなく、スクールも併設された理由とか動機など、特にありますか。

 

国府谷さん 聴心館で行っていることは、認知行動療法をベースとして、私自身が企業のニーズに応える仕事を通じて身につけてきた方法を体系化しています。

「薬に頼らなくてもうつは治せる」ということを広く社会に広めたい、そうすることで社会に貢献したい、そんな思いから独立・開業しました。

  ですから、自分だけで抱え込むというよりも、より多くの人に理論や方法を身につけてもらい、さらに社会に広めてもらいたいという想いがあります。聴心塾を運営しているのは、そうした考えからです。

  もし、スクーリングで儲けようと思ったら、ひとり月額24,000円の受講料がほとんど経費で消えていってしまいますから、もっと高く設定しないとダメですね(笑)。

 

2016611日掲載)

 

第2回「起業は社会への貢献」

聴心館 館長 国府谷明彦氏
聴心館 館長 国府谷明彦氏

 国府谷明彦さんへのインタビューの第2回は、新しいサービスを提供する聴心館を起業されたご経験について伺います。

 

― 聴心館はいつ頃、開業されたのですか。

 

国府谷さん 開業して丸8年になります。開業した直後に、運悪くリーマンショックが起こりました。

 それまでは、企業の法務人事的な要素のカウンセラーとして働いていましたが、時代の変化とともに、メンタルケアというかうつ対応がメインの仕事になっていました。折しも『心理学』の発展途上の時代で、国内外の文献にあたり、最新学説を臨床の場で試しながら進んできました。

 そこでの経験を元に、これまで自分が身につけてきた理論や技術が、一企業内でなく社会で通用するかどうか、勝負してみたいという想いから独立しました。

  

― ある程度、こうすれば事業として成立するだろうという見通しはあったのですか。

 

国府谷さん なにしろ、日本にはうつ病の方が300万人おります。正確には精神疾患の方が300万人ですが、そのほとんどの方がうつ病の要素を抱えています。また、その予備軍と推定される軽いうつ症状をもつ人が3000万人いるとも言われています。

 こう申し上げてはなんですが、実に大きな市場があります。

  言い換えれば、それだけ大勢の困っている人たちがいます。自分の技術が通用すれば、その人たちを少しは助けることができるかもしれません。事業の見通しというよりも、社会に貢献するという趣旨からの起業でした。

 

― 最初からこちら(青山)にセンターを開設されたのでしょうか。

 

国府谷さん 当初は、上野で開業しました。後に現在の青山に移転したのですが、立地が違えば、患者さんのタイプも随分と違いました。また、東日本大震災が起こったため、被災した方々への心のケアを考えて、仙台でも開館しました。

 

― 上野から青山に移転されたり、仙台にもセンターを開館されたりして、ビジネスとしては順調に発展されているようですね。

 

国府谷さん いや、そうでもありません。

 開業当初は、認知行動療法よりも傾聴としてのカウンセリングを中心にスタートしました。ただ、なかなかクライアントさんが増えませんでした。いま考えてみると、カウンセリングという立ち位置が中途半端だったのかもしれません。

  改めて考えてみると、自己主張できる人間観を最優先させる欧米流のカウンセリングは、和を大切にする日本人には必ずしも適さないかもしれないと思い当たりました。もともと人生相談のような風土を持つ日本人ですから、アドバイスを自然に求めてきます。

  そこで、傾聴型のカウンセリングから、セラピー型の認知行動療法主軸を変えてきました。より、改善治療を前面に押し出すことで、マーケットにおける位置づけが明確になってきたように感じています。

  

― 提供されるサービスを変えてこられたということですか。

 

国府谷さん カウンセリング、特に傾聴型のカウンセリングは、個として確立し自己主張する個人という欧米型の社会が前提となるものです。自信をなくして落ち込む人に対して、自己主張できるように気づきによって自力で自信を回復させていくのをサポートする技術と言えます。

  日本のように、強く自己主張することが必ずしも好意的に受け止められない社会では、自力で気づきを掴んで立ち直っていくというよりも、何らかのアドバイスや処方箋を得て、患者さんと治療者が協力して安心や安定を得ていくというほうが、患者さんに受け入れられるようです。

  もちろん傾聴ということも重要ですが、処方箋やアドバイス、いわゆる昔からあった身の上相談みたいなものが、この国の風土にはあっているのかもしれません。認知行動療法はその意味でも有効です。

 

身につけてきた知識やノウハウを社会に活かすべく起業された国府谷さん
身につけてきた知識やノウハウを社会に活かすべく起業された国府谷さん

― 創業当初のビジネス・モデルに固執しすぎないほうがいいのでしょうか。

 

国府谷さん そうかもしれません。少なくとも私の場合は、そのようにやり方を変えていくことで、患者さんの心の問題を解決するのに、より有効なものになりました。

  医療寄りにサービスの内容を変えていくことで、マーケットのニーズに合ってきたのかもしれません。従来は、精神科の病院に行くと投薬治療が中心で、カウンセラーの所に行くと傾聴ばかりで、ピンとくるような治療に向けたアドバイスがないという、患者さんの不満が潜在的にあったのではないでしょうか。

  一方で、良いものであれば売れるという時代ではないように思います。高品質のそろばんは爆発的に売れるでしょうか。ニーズは電卓アプリの入っているスマホの時代ですよね。ポイントは、ニーズがどこにあるかということでしょう。開業当初に想定したビジネス・モデルとは違っていても、マーケットのニーズにサービスを適応できたという実感があります。

 

― 上野と青山では、同じサービスを提供するにしても、印象はかなり違いますね。

 

国府谷さん そうですね、確かに青山に移転したことも効果的だったかもしれません。立地条件やサービスのやりかたなど、さまざまな点でビジネス・モデルを見直して、適宜、修正してきた結果、今があると思います。

 

― ところで、若いころから、いつかは独立・起業とお考えだったのでしょうか。

 

国府谷さん そういうわけでもありません。ただ、改めて振り返ってみると、中学生の頃から、どういうわけか、友人から相談を持ちかけられることがよくありました。

 大学生の頃には、友人の父が経営する法律事務所で働き始めました。そこで、多くのご相談を受けて仕事をすることになりました。その経験から、できる限り誠実に問題に取り組んでも、なかなかクライアントの希望する経済的な成果を出すことができないことを、身をもって知りました。

 たとえば、お金のトラブルの事件で、300万円回収できたとしても、そもそも回収希望が500万円であると、依頼人は満足しません。頑張って仕事をしたことは、評価はされるのですが、納得はしてもらえないのです。弁護士になるというのは社会的な評価は高いのですが、一生の仕事として自分の求めていることと何か違うという感じがしたのです。

 

― それで方向転換されたのですね。

 

国府谷さん 法務人事の仕事を得たのですが、法律事務所時代から、人の話を聴くということに何か納得するものを感じていました。中学生の頃から、人から相談を持ちかけられていたことも影響していたのかもしれません。仲間内の参謀本部なんて言われていたこともありました。

 相談を受ける仕事をしていく中で、必要に迫られて、国内外の心理学の文献を読み学び、毎日それを相談に生かす形を取っているうちに、内容が悩みやうつ、精神疾患のようなものが主流になってきたのは、時代の変化によるものなのでしょう。

 この頃に産業カウンセラーの資格も取得しましたが、これで食べていくという感覚ではありませんでした。当時も今も、この資格で食べると考えるのは無理があるとよく言われています。

 こうした経験と、その過程でいろいろと学んできたことや実績を上げられたことを、もう一度、社会に広く活かし貢献する方法はないかと考えた上で、資格的には難しいといわれたことでしたが、産業カウンセラーとして起業する運びとなりました。こういった経緯で聴心館を開業しました。

 

2016618日掲載)

 

第3回「認知行動療法は科学的根拠に基づき、改善治療が実証されています」

聴心館 館長 国府谷明彦氏
聴心館 館長 国府谷明彦氏

 国府谷明彦さんへのインタビューの第3回は、認知行動療法について解説していただきます。

 

― そもそものお話ですが、聴心館で行われている認知行動療法について、どういうものか教えていただけますか。

 

国府谷さん 認知行動療法の特徴は次の4点です。

  第1に、科学的根拠に基づく心理療法ということです。

 医学と同様に、研究者の方々が長年の研究により改善治療効果を実証するデータを集めており、エビデンスのある心理療法として確立しています。他の心理療法とは異なり、データを取って効果を検証するという意味で、科学的な手法がとられているのです。

 第2に、効果が実証された改善法であるということです。

 多くの研究者の方々が薬と同じように治験を行い、うつ病についていえば、認知行動療法の結果は、投薬による結果よりも高い効果が実証されています。このことから、アメリカの精神医学会では、うつの第一選択薬(最初に処方する薬)として認定しています。

  第3に、認知行動療法は共同実証主義によるものです。

 つまり、治療者と患者さんがチームで取り組む治療です。治療者が一方的に患者さんを診断し治療しようとするのではなく、治療者と患者さんがいっしょに仮説を立てて症状を分析し、その治療法を見つけていくものです。そのために、さまざまな検査を行い、分析に特定のフォーマットを活用して、症状や問題状況、処方箋などを見える化する手法を採用しています。

  最後に、問題の背後にある悪循環に着目し、具体的な解決を図るものです。

  抽象論に偏ったり,表面的な現象だけを取り扱うのではなく、問題や症状を生み出し維持している悪循環に注目して、解決策や処方箋を探ります。新しい考え方やスキルを身につけていただくことで、悪循環を解消していくのです。

 

  

― 聴きほぐし(カウンセリング)についても特徴がありますか。

 

国府谷さん 精神疾患ばかりでなく、お悩みやネガティブな性格改善のようなことも行なっています。こうした場合でも、認知行動療法による科学的な分析が基本となります。患者さんが「ただ気持ち良くなって帰ってくれれば良い」というのではなく、本質的な分析は心がけています。ただ、患者さん自身がそこまで本質的なものを望んでいない場合もありますから、そこはケースバイケースになります。

 このように、聴心館では、認知行動療法の実証的手法を積極的に活用し科学的なアプローチから得られた知見を体系化して、精神疾患やメンタルの不調、お悩みなどの症状をエビデンスに基づいて分析し改善するのが基本になっています。

 

― 聴心館で扱われる範囲はどのあたりでしょうか。

 

国府谷さん いろいろな意味がありますね。患者さんのお悩みから、性格改善、精神疾患まで広く対応しています。

 たとえば、精神疾患の局面で、うつの例を見れば、本人の環境や生育歴(ストレスや経験など)に起因する心因性のうつもあれば、ヨーロッパ、特に北欧に多く見られる、日照時間が短いことによる内因性のうつもあります。

 このうちで、聴心館で扱うのは、心因性のうつです。こちらは、環境面から形成された性格や信念にアプローチすることで、悪循環のメカニズムを断ち切るのに有効なポイントを見きわめ、そのポイントに働きかけることで、うつをもたらしている悪循環を改善させていくようにします。

 患者さんの中には、心因性ではないうつや精神疾患の方もいらっしゃいます。そういう場合は、当然のことですが、素早く見極めることで脳神経外科などの専門病院を受診されることをお勧めしています。その結果、症状の原因が脳腫瘍で、脳外科手術を行ったことで命の危険を回避したケースもあります。

 

― やりかたといいますか、認知行動療法の進め方に何か特徴はありますか。

 

国府谷さん 具体的な手法は、聴心館で開発してきたフォーマット、たとえば、査定面接で収集したシートから、その人のもつ性格特性や信念などを分析し、働きかけるべきポイントや治療法そのものなどに発展させていく一連のシートがあり、治療のためのワークブックが活用されています。

 これらのシートやワークブックがあるので、脳神経科学や精神医学、認知行動療法についての基礎理論を学び、体系的に臨床実践していけば、誰でも認知行動療法士として現場で働くことができるようになります。

 

認知行動療法について解説する国府谷さん
認知行動療法について解説する国府谷さん

― 改善するには、どのようなポイントが重要なのでしょうか。

 

国府谷さん 認知行動療法では、科学性・実証性というのが重視されます。そこで、投薬治療に変えて認知行動療法で改善を図ることができるのです。

 ですから、治療者として意識することは、効果のある技法を、正規の効果のある形で施術しなければならないということです。治療者が、自分勝手に治療技法を変えてしまえば、治験で検証された効果が保証できなくなります。治療技法の真意を理解して施術することが大切です。

 

― 改善治療といっても、個人差がいろいろとありそうですが。

 

国府谷さん これは、医学でも言われていることですが、症状には共通性と個別性があります。

  たとえば『胃がん』といった場合、胃の中に悪性の腫瘍があることですね。これは、共通性ということです。典型的な形と考えてもらえば良いでしょう。これに対して、患者さんには個人々々で固有の状態をもっています。『胃がん』は胃がんとして、もともと下痢をしやすい体質とか、すぐおなかに鈍い痛みを感じやすいとか、そうしたものを個別性として理解します。

  認知行動療法でも状況は同じです。

  共通性の部分についてみれば、治療の見通しは大体見当がつくのですが、個別性の要素があるので、それが個人差となって出てくるのです。個別性を意識しつつ、共通性に基づき治療をする、これを最新の医学では『診断的フォーミュレーション』と呼びますが、認知行動療法でも同じ意識で、治療改善しています。

 

― 研究の動向について一言、教えていただけますか。

 

国府谷さん 認知行動療法は、第3世代に入っています。

 第1世代は、認知療法と行動療法が別々に存在していた時代です。認知行動療法として統合されたのが、第2世代です。

  そして今、コンピューターの発達の伴い、ビッグデータと呼ばれるデータ処理の時代に呼応して、第3世代に突入しています。

 本人がある状況を認識(認知)したとします。「失敗した」とか「うまくできた」というのが認識ですね。この時、この認識の元になるデータが本人の中に存在しています。知識とか過去の経験とか判断材料とかがデータになります。認知療法をベースに、こうしたものをデータとして扱い分析していくのが『メタ認知(療法)』です。

  一方で、行動療法をベースに行動分析の見地から、本人の認知を脇に置いて、状況や環境のデータを集め、人がどういう状況でどういう行動を起こすかを、統計的に詳細なデータに基づいて分析するのが『関係フレーム理論』です。

 このように、認知行動療法は、より深くより詳細なデータを重視して分析し、治療する時代になっています。

  

2016625日掲載)

 

第4回「聴心館を日本から海外に展開していきたい」

聴心館 館長 国府谷 明彦 氏
聴心館 館長 国府谷 明彦 氏

  国府谷明彦さんへのインタビューの第4回は、現状の課題や今後の事業展開などについて、お話を伺います。

 

― 聴心館としては、東京以外にも、仙台などにカウンセリングセンターを開設されていますが、さらに広く展開されるおつもりでしょうか。

 

国府谷さん そうですね、全国にうつで悩む方がおられますので、できれば全国に展開したいと思っています。

  やりかたとしては、フランチャイズがいいのか、直営方式がいいのか、考え中です。

 たとえば、認知行動療法の具体的な流れ(査定、概念化・治療計画、改善治療)やそれぞれの段階で使用するファーマットなどは、すでに共通化していますし、その背景にある考え方や理論などは聴心塾で学習プログラムとして確立されていますから、フランチャイズで展開することが可能ではあります。

 その半面、認知行動療法自体が日進月歩で進化していること、どこでも同じレベルの良質な改善治療を提供したいことなどを考えると、直営のほうが良いのかなとも思っています。

 

― 聴心塾で学ばれた方々を暖簾分けしていくイメージでしょうか。

 

国府谷さん まあ、一言で申し上げるなら、“聴心館のブランド化”ということでしょうか。身体の不調であれば、かかりつけの病院に行かれるように、心の不調であれば、まずは聴心館にお越しいただくファースト・コンタクトのカウンセリングセンターでありたいですね。

 

― 聴心館のサービスは、日本に限定されるものでしょうか。お聞きしてみると、アジアであれば、ある程度、受け入れられるのではないかと思われますが。

 

国府谷さん いま、海外から勉強に来ている人もいます。そうした人たちの人材育成ができれば、海外にも聴心館を展開していくことは可能と言えます。特に、いま発展中のアジア地域は、お国柄にもよりますが、発展のピークを過ぎた頃から、うつ病流行の状況が出て来ることが予想されます。それに合わせて、展開していくことはできそうです。

 

― そういった事業展開をしていく上での課題といえば何でしょうか。

 

国府谷さん カウンセリングや認知行動療法は、人の心を扱うわけですから、きめ細かい配慮が必要です。その国の人のことは、その国の人でなければわかり合えない部分が、かなり大きいと言えます。

 現に聴心館においても、日本に在住の海外の方からカウンセリングの依頼を受けることがあるのですが、その母国から来て聴心塾で学んでいる生徒が担当しています。いかに現地の治療者を育成するかが鍵となるでしょう。

 

― それでは、最後になりますが、認知行動療法のカウンセラーとして、日本の企業社会の課題をどのようにお考えでしょうか。

 

国府谷さん 大企業は、一言でいえば、かなり硬直しているのではないでしょうか。パワハラなども、そうしたひずみが出てしまった現象のひとつでしょう。

  中小企業では、過労死などブラック企業の問題が目につきますね。そうした状況が、心やメンタルヘルスの面で問題を引き起こしていることは、注目すべきことと思われます。

 

ベンチャーに関わる人々に助言する国府谷さん
ベンチャーに関わる人々に助言する国府谷さん

 ― ベンチャービジネスについてはいかがですか。

 

国府谷さん 起業家や起業に直接関わっている方々のなかには、ビジネスとか起業ということを勘違いしていると思われる方が、けっこういるように思います。

 

― どういう人たちでしょうか。

 

国府谷さん ビジネスである以上、利益を上げることは大切なのですが、儲けることだけが目的で、儲かったらそれで終わりという人たちもいます。数年するとその人たちがいつの間にか消えてしまっています。儲かるビジネスを次々立ち上げて、嗅覚的にそれを繰り返しているのならまだ良いのですが、儲けることが目的化して、逆に儲からずに消えてしまう人たちがいるのです。

   何をやるか、何をやりたいか、ということが後回しになって、儲かるか儲からないかだけが前面に出てくる人たちなのです。本人は、儲けるためには当然のことをしているだけ、という意識のようですが、結局それがアダとなって、儲からずに消えてしまうようですね。

 

― 確かに、そういう傾向の人もいますね。

 

国府谷さん もちろん、多くの起業家の方は、取り組まれているビジネスの意味を誠実に考え抜き、社会的な課題を解決するためにビジネスを立ち上げたのでしょう。しかし、その一方で、今申し上げたような問題をもっている起業家の方もいます。

 

― そういった問題のありそうな人と、従業員やいっしょに仕事をしなければならない人に何かアドバイスをお願いします。特にベンチャーでは、創業者がそういう人であると、避けて通るわけにはいきませんので、一言お願いします。

 

国府谷さん 問題のある人というのは、往々にして自分だけが儲かれば良いといった傾向があると思います。その意味では、まわりや従業員に配慮がありません。そういう人には近づかないのが一番良い方法なのですが、そうも言っていられませんよね。

 よく申し上げるのは、現実に自分が被害を受けないように、仕事や手順など現実の部分ではきちんと注意しておくことが大事です。その上で、メンタルの面では、客観性や真実性だけを問題にして相手を理解しようとすると、却って心がおかしくなってしまうことに注意が必要です。

  例を挙げましょう。たとえば、社長が怒って文句をつけてきたとします。その際に、その文句が正しいかどうかを深刻に検討するよりも、「怒って文句をつけられた」のではなく「社長からアドバイスをもらった」と理解するほうが、あなたが楽になりますよ、ということなんです。もちろん、文句の対象となる仕事については、冷静に何をどう対処するかは考えておかなければなりません。「社長に文句を言われた」ということを、メンタルな面で深刻に考えず、楽になる考え方をするということです。

  私は、こうした理解の仕方を、“丸く”解釈すると、よく言っています。

 

― 考え方や見方を変えてみたということですね。

 

国府谷さん そうですね。でも、単に見方を変えるというばかりでなく、自分が常に被害者にならないということなんです。文句の被害者にならずに、影響を受けずに「自分が主体で」仕事をする人になるということです。現代社会では、被害者になりたがる人がとても多いのが現状です。

 もうひとつポイントがあります。

 それは、「まじめに仕事に取り組みなさい」とか「何事も一生懸命、頑張ってみたらどうですか」ということは、聴心館では敢えて申し上げていないということです。

  仕事だから現実には全力で生真面目に取り組む必要があるのですが、メンタル面では、問題のある経営者に振り回されていては、心が保たないことがよくあるのです。メンタルでは、少しでもいいから、まじめに一生懸命になりすぎずに、見る角度を変えたり、考え方を変えてみたりすることを忘れないでください。

 

― 貴重なアドバイスをいただき、どうもありがとうございました。

 

インタビューを終えて

 国府谷さんとお話ししていると、穏やかな表情や物腰のなかに、これを伝えたい、これを理解してほしい、という気持ちが表れてきて、こちらも時間が経つのを忘れて聴き入ってしまいました。

 その国府谷さんから、起業家について、かなり厳しいコメントをいただきました。あまり収益があがらず、ビジネスとして成立しないのは問題ですが、儲かりさえすればそれでいい、というのでは、これもまたビジネスとしてわざわざ起業する意味があるかどうか、問われるところです。

 起業する人自身はもとより、その隣で起業を支える人たちもまた、なぜ、このビジネスをやるのか、ということを絶えず自問自答するとともに、日頃の立ち居振る舞いが周囲の人々にマイナスの影響を及ぼしていないか、相互にアドバイスし合うように心掛けたいものです。

 ところで、インタビューでは時間の制約などもあり、必ずしも十分に説明できていないところもあります。認知行動療法および聴心館(グループ)に興味をもたれた方は、詳しくは聴心館のHPをご覧いただきたいと思います。

  

201672日掲載)

                                        写真提供:国府谷明彦氏

                      写真・構成・文章作成:行政書士井田道子事務所+QMS