新春CFO座談会(1)~今年の目標は~

 

― 本日はお忙しいところお集まりいただき、ありがとうございます。年頭に当たり、ベンチャー系の企業でCFOとしてご活躍の方々にお集まりいただき、今年の抱負や仕事上の問題などを幅広く語っていただければと思います。

 

以下の座談会では、一部、守秘義務を要する事項に言及しているものもあるため、個人名などを特定されないよう、お話しいただいた方はすべて匿名とさせていただきます。それぞれの方々が所属される企業について語っていらっしゃる内容も、企業名を特定されないように、一部、変更して掲載しています。

 

ご参加いただいた方々のプロフィールは以下の通りです。

Aさん(男性30歳代):金融関係の会社勤務からベンチャーへ転職。その後、あるスタートアップに創業メンバーとして参画したのち、現在の金融系ベンチャーにCFOとしてヘッドハントされる。

Bさん(女性30歳代):シンクタンク勤務ののち、ITサービスのベンチャーに転身。いくつかのスタートアップを経て、最初に転職したITベンチャーにCFOとして戻る。

Cさん(男性30歳代):友人たちと学生時代にIT関連のベンチャーを立ち上げ。管理や営業など、技術系が多い友人たちをカバーするうちに自らCFOに。

Dさん(男性40歳代):税理士法人を経て、経理事務担当として中小企業で働くうちに、管理部門全般の実務を経験。現在、成長著しい飲食サービス会社で管理部門の責任者に。

Eさん(男性50歳代):商社出身。関連会社や合弁会社の経営に携わった経験をもつベテランのCFO。子会社のITサービス会社のIPOに際して財務経理の責任者として陣頭指揮を執る。その後、別のベンチャーにCFOとして転じ、現在、上場を目指している。

 

― それでは、まず始めに、2017年の目標とか抱負などを伺いたいと思います。

 

Aさん 会社としての目標は、事業基盤を確立することです。弊社はITを活用した金融サービスをビジネスにしています。個々のサービスはここ2年ほどで確実に立ち上がってきているのですが、事業として見るとまだまだです。

 

― 特にCFOとして、これというものはありますか。

 

Aさん 資本政策や資金計画については、現在、検討中です。実は、いま入居しているオフィスの賃貸契約が9月にきれるので、移転先を探しています。社員数も増えていますから、オフィススペースを拡張したいのですが、山手線の中では難しいかもしれません。

 

― 資金面もご苦労がありそうですね。次に、Bさんはいかがですか。

 

Bさん 会社としての目標はもちろん、ありますが、CFOとしては資金調達ですね。

 

― 増資ということですか。

 

Bさん そのつもりです。既にVC1社に参画していただいてはいるのですが、サービスを継続的に改善していくのにエンジニアの採用などが必要です。また、サービスメニューを増やしていくのに、他社を買収する方向で、候補先を検討しています。そのためにも、億単位になりますが、一定の資金が必要となっています。

 

― Cさんはいかがですか。

 

Cさん 私たちは、創業して10年を超えていますから、もうベンチャーとは呼べないですね。まずは、今期の決算をしっかりと着地にして、来期の課題に取り組んでいきたいですね。

 

― Cさんのところは3月決算ですね。

 

Cさん ええ。年度のほうを重視していますから、正月だから目標を改めて立てるというわけではありません。個人的には、昨年、結果がでたダイエットをさらに続けて、あと3キロくらいは落としたいですね。

 

Dさん うちは、IPOを目指しています。今年というわけではないのですが、遅くとも東京オリンピックまでには上場しているつもりです。具体的な準備に入ることができるように、まずは業績面をしっかりするのが、今年の目標です。そのために、トップラインをしっかりとする以上に、利益率を確実に向上させてしていくのが、会社全体の課題です。

 

― CFOとしての打ち手といいますと?

 

Dさん 昨年、一昨年と店舗の改装や買収などがありましたから、今年は今のところ、大きな投資は予定していません。その分、オペレーション・コストをしっかりと見ていきたいと思っています。特に、FL(食材費と人件費)については、営業部門と毎日やり合うくらいでいいかなと思います。オフィスにいて数字をいじっているよりも、現場といっしょに数字を改善できたらと考えています。

 

Eさん 弊社はIPOが具体的なスケジュールに入っています。具体的な日程は申し上げられませんが、今年のイベントとしてやり切ります。

 

― ところで、皆さん、去年の目標は覚えていらっしゃいますか。

 

Bさん 去年は、現在の会社に戻ったばかりでした。目標も何も、リストラをした直後でしたので、まずは、経営者と残った社員の間のコミュニケーションを何とかするのに、2カ月くらいかかりました。毎日、数名ずつ集めて、ランチや夕食をいっしょにしながら、話し込みました。お陰で人間が丸くなりました。

 

― Bさんが戻られた経緯は後ほど伺うとして、他の方はいかがですか。

 

Cさん 毎年、あっという間に1年が終わってしまう感じです。創業当初は1年が終わる感覚すらなかったのに比べたら、少しは落ち着いてきているのかもしれませんが。目標というよりも、目の前の課題を何とか解決するのに手一杯ですね。

 

Eさん 去年の目標は、IPOの準備を軌道に乗せることでしたから、着実に仕事を進めてきたというところでしょう。初めてのことではないので、ある程度は、手順とか押さえるべき事項はわかります。早め早めにCEOや経営幹部にやってほしいことを仕掛けてきました。

 

Dさん 毎年そうですが、年初の目標や見通しは、半分、いや3分の1も実現しないですねえ。次々に新しい話がでてきて、それに取り組むという感じでしょうか。うちは、毎年のように、他社さんのお店を買収したり業態転換を図ったりと、チャレンジすべきものが急に出てきますから。

 

― 目標を立てる前に、新たな課題が出てくる?

 

Aさん 私たちが事業化しようとしているのは、いわゆるフィンテックと呼ばれる分野です。この分野は正に成長途上ですし、グローバルに次々と新しいサービスや競争相手がでてきます。何か目標を定めるというよりも、ITを使って金融を一人ひとりのものにしていくというビジョンが実現できるのであれば、まずはトライしてみます。

 

― そのためにも、資金や人材、技術などが必要ですね。

 

Aさん 幸い、人材や技術は目途が立っています。資金面も、私が加わる前に比べたら、多少は改善しました。ただ、借入に偏っているので、今年は手を打たないといけません。それも早急に、です。

 

― すばやく手を打つといえば、Dさんのところも、昨年は即断即決を迫られたそうですね。

 

Dさん 去年は、ある同業他社から引き受けた店舗を軌道に乗せるはずでしたが、2ヶ月で無理だとわかって、別の外食チェーンに売却しました。即断即決というか、会社の目標とはいっても、CFOとしてはダメなものはダメとはっきりさせて、すぐに手を打ったのは正解だったと思います。

 

文章作成・編集:QMS+行政書士井田道子事務所(201714日更新)

 

新春CFO座談会(2)~CFOの仕事とは~

  

― 実際に担当されている仕事というのは、どのようなものですか。

 

Aさん 当面は資金調達が仕事の中心です。それに関連して、資金計画や事業計画を毎月、アップデートしています。もちろん、日常的に資金の管理とか、経理全般をみています。

 

Dさん 実は私はCFOではないのです。役職は、管理部門担当の執行役員です。金融機関との折衝もあれば、不動産の管理、個々の契約の折衝や実務処理、社員の採用や人事管理全般、財務や経理、広報、IT、法務関連では弁護士や弁理士などとの折衝など、営業・商品・店舗開発以外のことを広く担当しています。

ちなみに、今最も時間を取られているのは、新オフィスへの移転です。事業の拡大が早いもので、本社機能がいくつものビルに分散してしまっており、春までには1ヶ所に集約する予定です。商品開発部門もいっしょにしたいので、レイアウトや技術的な事項などを設計事務所や施工業者と打ち合わせることもあります。

 

― それは幅広いですねえ。

 

Eさん 大手企業でしたら、CFOの役割とか責任が明確になっているはずですが、ベンチャーや中小企業では財務と経理どころか、ITもリスクマネジメントもやっているのが普通でしょう。個々の製品やサービスの収支見通しに始まって、事業計画や会社全体の経営計画まで、一手に作成している人もがいても不思議はありません。

 

― Eさんがもともと働いていらっしゃった商社では、いかがでしたか。

 

Eさん CFOは基本的に財務の責任者として財務部・経理部・予算管理部などを管掌していました。私が在職していた当時は、まだCFOという名称は使っていなかったかもしれません。今は、たとえば、投資委員会はCIO(チーフ・インベストメント・オフィサー)が主宰しますが、CFOは主要メンバーとして、CRO(チーフ・リスクマネジメント・オフィサー)や業務本部のメンバーといっしょに、投資に関する意思決定を通じて資産の再配分を行っているはずです。

 

Cさん ベンチャーのCFOは、財務や経理を取り仕切るだけではありません。

私自身、先週は毎日、商談に出歩いていましたし、開発会議に出席して新しいサービスの方向付けに参画することもあります。まあ、弊社のように、トップからアルバイトの社員まで、大半がエンジニアや研究者という組織では、事業企画や商品企画、営業から代金回収、資金調達から返済まで、開発と人事以外は全て対応するくらいでないと、会社が回っていかないですね。

 

Dさん 人事は関係されないんですか。

 

Cさん うちはCEOCTOがエンジニアや研究系の出身で、採用する人はほぼ全員がエンジニアか研究者ですから、採用は技術系のトップでないと無理です。私では、面接で内容のある会話ができませんから。

 

Bさん 待遇の交渉とか、業績評価とか、まったく関与されないんですか。

 

Cさん もちろん、応募書類の管理とか、雇用契約の詳細を詰めるとか、毎月の給与支払い事務とか、年末調整とか、そういった実務的なことは担当スタッフとお願いしている社労士さんで処理してもらっています。人事に関する意思決定といいますか、経営レベルの人事には関わっていませんし、実務レベルは担当者と社外専門家に任せているという意味で、私はタッチしていないということです。

 

― CFOといっても個々の企業の事情によって、実に多様ですね。とはいっても、やはり資金関係の仕事というのは、皆さん共通していらっしゃると思います。

そこでお伺いしたいのですが、たとえば、VCや金融機関との折衝ごとは、顧客や社外専門家などとの折衝と違った難しさがあるように思われますが、いかがでしょうか。

 

Eさん VCと一口においいても、実に様々なものがあります。投資の規模も違いますし、それに応じて投資をする段階も違います。まずは、VCの特徴を理解してからですね。これまでの投資実績を見れば、だいたいのことはわかりますが。

 

Dさん 弊社は、VC3社入れています。ただ、投資していただいた時期は異なります。

最初のVCは、5年ほど前になりますが、創業者が多店舗展開をスタートした時期に、フランチャイズの仕組みに詳しい方がいらっしゃるところにお願いしました。投資額は大きくはありませんでしたが、経営のノウハウを得たいというほうが目的だったかもしれません。一時期、そのVCから非常勤の取締役を出していただいたこともあります。
 直近にお願いしたVCは、セントラルキッチンなどに投資する資金を調達する際に入っていただきました。このVCさんは、外食には投資されたことはなくて、これまでは海外進出とかM&Aなどに特徴をお持ちのところでした。

 

Bさん 弊社は、ただいま検討中です。既にいくつかのVCさんとミーティングをもちましたが、資本を増強することは皆さん理解していただくのですが、事業の方向性については、協議を進めている段階です。

 

― 金融機関との関係はいかがですか。

 

Aさん 金融機関こそ、多種多様です。

メガバンク、地銀、信金信組など、それぞれ規模も役割も違います。同じ金額を借り入れるにしても、個々の金融機関、さらに言えば、個々の支店にとっての意味が違いますから、相手の状況についても考えることが必要です。ベンチャーの場合、自社のことだけで精一杯で、なかなかそこまで目が行きとどかないかもしれません。

 

Cさん 忘れてならないのは、公的な金融機関です。政策金融公庫や東京都の中小企業制度融資などは、民間金融機関から融資を受ける前に利用すべきでしょう。融資のメニューも豊富ですから、起業や創業の際に利用して終わりでなく、事業を成長させるタイミングに応じて相談されるといいと思います。うちも何度か融資してもらっています。

 

― 起業する際にどの金融機関と付き合うほうがいいとか、特にありますか。

 

Bさん 弊社もそうだったのですが、最初は、起業する方とか会社の代表者などが、個人的に口座をもっているところに相談されるのがいいと思います。まったく関係のない金融機関と取引しようとしても、話は進みにくいでしょう。

 

― 仄聞するに、事業計画も提出先によって内容が違うとか?

 

Bさん 内容が違うというのは、ちょっと言い過ぎだと思います。資金を調達するといっても、出資を募るのと借入をお願いするのとでは、事業を説明する際に話の重点の置き方が違うのが当然です。

 

Eさん Bさんが言われた通り、出資と借入ではお願いする先が事業計画を見て判断するポイントが異なります。

VCなど出資を検討される際には、事業の成長性を重視します。事業計画でもその点を強調することになりますし、次に収益性を説明します。この点は他の皆さんも基本的には同じでしょう。

 

Aさん 借入となると、金融機関は返済能力を重視します。事業がどんなに成長して、将来儲かりますと言われても、約定通り、毎月、きちんと返済してくれないと困ります。

 

Dさん 極端なことを言えば、返済がきちんとされている限り、金融機関との関係は良好ですし、資金需要があるとなれば追加で融資をお願いすることもできます。それが遅れたり返済不能ということになれば、良好な関係というわけにはいきません。これは、大企業でもどこでも同じでしょう。

 

Eさん 一般論ですが、事業の成長を、スピード感をもって実現するつもりであれば、それを後押しできるだけの組織力とか資金力がしっかりしたところでないと難しいですね。

ベンチャーが取引する顧客にもよりますが、顧客層が幅広くなればなるほど、取引する金融機関も規模が必要です。インターネット専業銀行でも十分、対応できますが、大手の法人を主たる顧客にしていくのであれば、結局はメガバンクということになります。

 

― 助成金・補助金の活用は?

 

Cさん 創業から数年くらいでしょうか、ベンチャーを対象にしたものや小規模事業者を対象にしたものは、いくつも応募しました。それで資金繰りをつけていたわけではないのですが、結果として、自分たちの事業やサービスの特徴を第三者に理解しやすいように説明するテクニックは身についた気がします。うちは技術系のため、経営者が技術に素人の人に説明するのが苦手でしたが、いいトレーニングになったようです。

 

Aさん 今の会社だけでなく、以前いた会社でも特に申請したことはないですね。よく知らないということもありますが、資金はそれなりに調達していますから、利用したことはありません。

 

Bさん Aさんのところは資金面がしっかりされているからでしょう。うちあたりは大変です。リストラしたくても金がないという状況でしたから。

ただ、幸いなことに、まとまった金額の助成金が交付されるタイミングで、リストラに迫られることになりましたから、少しは助かりました。もし、2年前に助成金の申請が通っていなかったらと思うと、会社の存続自体がダメだったかもしれません。

 

文章作成・編集:QMS+行政書士井田道子事務所(201718日更新)

 

新春CFO座談会(3)~CEOとともに成長できるか~

  

― ところで、最初の起業資金は、どのように集められたのでしょうか。

 

Aさん いまの会社については、起業時にいたわけではないので詳しくはわかりません。聞くところによると、創業者であるCEOが業務委託として働いていた時に開発したプログラムを、委託先のIT系の会社に売却して得た資金があったそうです。

 

Bさん うちは、創業メンバーがスタートアップ向けのイベントで入賞したりして、関係者から注目を集めたことがきっかけとなって、スポンサーとなっていただける会社と出逢うことができました。今となっては、それが良かったのか、悪かったのか…

 

Cさん もともと普通の学生でしたから、元手はなかったですね。いろいろと手分けしてバイトをしながら、貯めたお金をもち寄りました。けっこう、バイト先で気に入られて、管理職みたいな仕事までやっていた者もいて、その退職金が一番まとまった金額だったかもしれません。

 

― Eさんが最初にCFOを経験されたところは、親会社がオーナーだったわけですね。

 

Eさん そうです。実質的には100%子会社同様でしたが、出資比率という点では、親会社がマジョリティをもって、グループ各社が少しずつ出資する形をとっていました。

多分、こう申し上げると他の皆さんからは資金で困ることはないように思われるかもしれませんが、その分、事業の枠とか取引先の制限とか、人事や業務管理などへの関与、とにかく口出しする人が多いんですよ。特にIPOをするとなってからは、社外との調整の10倍はグループ企業内の調整に労力を取られました。

 

Dさん 私は創業当初のことはよく知らないのですが、CEOが個人で経営していたお店が行列店みたいになり、それで儲けたお金を元手に大きくしてきたとは聞いています。とはいえ、今も金融機関からの借り入れが資金の大半ですから、資金と事業がうまく回っているだけ、と言ったら言い過ぎでしょうか。

 

Aさん ひとつ前にいたスタートアップでは、社債を発行して1千万円程度の資金を調達したことはあります。VCに引き受けてもらいました。正確に言えば、VCが組成した投資事業組合と、そこに出資をしていたIT系の上場会社の子会社に、半分ずつお願いしました。

 

― CFOという仕事柄、資金調達でのご苦労は多いと思いますが、そのほかに大変なことというと何かありますか。

 

Bさん それは、もう昨年やったリストラです。私が今、CFOとしてやっている会社は、さきほど申し上げたように実質的に創業当初から外部資本が入っていました。始めはそれで良かったのですが…

 

― Bさんは一度、社外に出られて昨年戻られたそうですが。

 

Bさん ええ、4年ぶりに戻りました。いっしょに創業したCEOから、手助けして欲しいと頼まれまして、ちょうど、関わっていた別のスタートアップが一段落したところだったこともあって、戻りました。

 戻って最初の仕事がリストラです。スポンサーからは早期に事業を立ち上げるように、けっこう迫られていたらしく、社員や協業先を無理に拡大していたようです。

その後始末ということで、新たにスポンサーを探して、減増資を行いました。実は、資金は減増資でほぼ使い切ってしまいまして、社員に辞めてもらうのは、前回お話しした補助金が入金されたものを転用しました。人員整理といっても、役員を除くと10名にもなりませんが、前任のCFOが対象者ときっちりと面談を行って、残った社員は私のほうで対応しました。

 

― そういう経験をされると、CEOとの関係とか大きく変化しませんか。

 

Bさん どうなんでしょう、昔からの知り合いですし、私がいなかった4年間にも、CEOや他の経営陣とも時々情報交換をしていましたから、実情も何となく知っていました。大丈夫かと少しは心配していましたが、もう一度、力を貸してほしいと役員全員から頭を下げられれば、断るのもどうかと。まあ、仕方がないです。

 

Eさん 多分、BさんやCさんのように仕事をする前からの知り合いというのと、私のように、サラリーマン的といいますか、ベンチャーの経営者であっても、こちらは「雇われ」という立場にある場合では、創業者CEOCFOの関係は違うでしょう。

 

Dさん そうですね。私も「雇われ」であることに違いはありませんから、いうべきことややるべきことは、いつも意識して仕事をしているつもりです。ただ、引くべきところといいますか、創業者の決めたことに、基本的に異は唱えません。

 

Aさん それはわかります。入社する前までと、入社した後に実際に仕事をするのとでは、言葉遣いから違いますから。ヘッドハンティングというと聞こえはいいですが、「雇われ」であることには変わりはありませんから。

 

Cさん 当初は同じように学生気分でスタートしても、数年も経たないうちに、それぞれの役割に応じた格みたいなものは出てきますね。やはり、CEOとなった人はリーダーというか経営者というか、顔つきも言うことも事業を引っ張ってく責任が表に出てくるようになりますね。

 弊社のCEOはもともとエンジニアだったので、技術やマーケティングに注力しても経理や人事などはあまり関わってこなかったのですが、創業後34年くらいでしょうか、人事でいえば採用や評価、経理では金融機関との交渉、移転先のオフィスの内装などに積極的に関わるようになりましたね。

 

Bさん そうでないと困ります。他社さんを見ても、創業者が経営者に変わっていくところは、スタートアップからベンチャー企業に成長するように思います。創業者に成長がないと、事業もなかなか成長しない気がします。

 

Dさん ふと思い出したのですが、同業者がCFOといいますか、経理の責任者を探してことがありました。3ヶ月くらい経って、その後どうなったのか尋ねたところ、CEOや他の役員も高く買っていたはずの人が入社直前になって会社のほうから断ったそうです。

その理由というのが、入社前日に管理系のスタッフと顔合わせも兼ねて行ったカラオケで、どうもセクハラみたいなことをしたようです。後から顔を出したCEOにその場で直訴、警察沙汰の一歩手前だったそうです。

 

Cさん そういうことは事前に面接とかリファレンスチェックとかで、わからないものですか。

 

Dさん わかるくらいだったら、採用オファーを出すわけはないですよ。その会社のCEOがその人をけっこう気に入って、処遇面も良い条件を提示していたらしく、本人もそれで舞い上がってしまったのかもしれません。

 

― それはまた、困ったことですね。

 

Eさん 困ったでは済まないですよ。ヘッドハンターでも使っていたら、クレームものというか、着手金まで全額返せと言いたいくらいですよ。

 

Dさん いまお話ししたケースも、人材紹介会社から違約金は取ったみたいです。その代わり、口外しない約束なのでしょうけれど、CEOどうし、CFOどうしの間では、噂話として広まってしまうのは避けられません。狭い世界ですから。

 

― そういう失敗も含めて、創業者の成長を後押しするのもCFOの役割かもしれませんね。

 

文章作成・編集:QMS+行政書士井田道子事務所(2017112日更新)

 

新春CFO座談会(4)~CFOは探すか育てるか~

  

― ベンチャーでCFOを探しているところは多いと思いますが、どうやったら見つけることができますか。

 

Cさん 一般的には、ヘッドハンティングとか人材紹介などを活用することになります。今は、CFOに特化した人材派遣サービスとか、CFOの仕事をアウトソーシングするようなサービスを提供する会社もありますね。

 

― 皆さんは、そうした会社やサービスを利用されたことはありますか。

 

Dさん 私は一時期、ある人材紹介会社2社に登録していたことはあります。現在は、会社として人材紹介会社を利用していますが、CFOとか経営幹部を探しているわけではありません。

 

― Aさんは、今の会社にはヘッドハントされたとお聞きしましたが。

 

Aさん 金融やITに強いヘッドハンター数名とは以前から知り合いでした。こちらが特に仕事を探していなくても、時々は向こうからコンタクトがありますから、業界動向とか知人たちの動きなどを情報収集させてもらいながら、軽く食事をすることはあります。

 そうした関係がもともとあったところで、今の会社のお話をいただいたわけです。

 

Cさん 私たちのように学生から起業してそのまま事業をやり続ける場合は、自前で育てるも何もありません。私自身、CFOとしてのトレーニングとかMBAの受講経験とかもありません。ただ、これでも大学や院で経済学全般やファイナンスの理論程度は学びましたから、まったくのゼロから企業財務をやっているわけではありません。

 

Bさん 本当なら、先輩のCFOが実地に指導しながら次のCFOを育てるとか、成長途上のベンチャーならCFOにしたい人を他社のCFOの人が週に12日来て指導するとか、実践的なものがないと難しいでしょうね。

 レンタルみたいな形でうまくいく会社もあるのでしょうけれど、私は自信がもてないですね。

 

Eさん そういえば、創業者であるCEOが実質的にCFOを兼ねているような会社もありますね。直接存知あげているベンチャーの経営者で、3人ほどそういうタイプの方がいます。

 

― CEOCFOですか。

 

Eさん もともとファイナンスの方面に強いのか、前職で財務や会計などの仕事を経験していたのか、詳しくはわかりませんが、そういうバックグラウンドをもった方が起業されると、創業者自らファイナンスの責任者として動くことがあります。

 起業する方は、自分で起業資金を何とか調達されるわけですから、本来、ファイナンスに詳しかったり、その経験が深かったりするはずです。

 

Dさん そういう会社では、事業のほうはCEOが見ないのですか。

 

Eさん いや、そんなことはないですよ。ただ、COOとかCTOといった、いっしょに起業したメンバーが事業面や技術やマーケティングなどをちゃんと伸ばしていかないと、CEOひとりで全て見るわけにはいかないでしょうから。

 

― ちなみにCFOに向いている人とか、CFOの適性というと何かありますか。

 

Aさん レジリエンスとかグリッドとか、ダメだったら諦めるのではなく、すぐに復活して、できるまで諦めない…、融資にせよ資本調達にせよ、そう簡単には実現しませんからね。

 

Bさん 楽観的でもあり悲観的でもある、厳しい時こそ前を向いて、いい時こそリスクを考えて慎重に動く、CEOと同じ感覚ではないのかもしれません。

 

Eさん 最低限の適性は、数字が苦にならず、数字を理解できることです。もちろん、数字だけではだめで、事業そのものへの理解とか組織や戦略を組み立てる能力、交渉を中心としたビジネス・コミュニケーションのスキル、これらの前提となるロジカル・シンキングとかビジネスセンスといったものは不可欠でしょう。

 ただ、そう特殊なものは必要ないと思います。ある意味、ビジネスパーソンであれば、誰でもできるものかもしれません。

 

Dさん 数字への感覚といえば、何かCEOが何か新しいアイデアを喋っている時に、その話が100万円の話なのか1億円の話なのか、桁が読めないと話になりません。弊社のような飲食サービスの場合、厨房機器を更新すれば対応できるのであればすぐに「やってみよう」となりますが、店舗そのものを開発するとなると、アイデアだけでは突っ走るわけにはいきません。

また、いわゆる相場勘みたいのものも日常的には必要です。まったくわからない分野であっても、桁を間違えてはダメです。特に、不動産の相場とか採用する人の給与水準とか、東京都内のこの辺りであれば、一等地はいくら、ちょっと裏道に入ると30%ダウンとか、バイトの募集をかけるにも時給1000円が厳しければ、1200円でとれるのか、お金以外に提示できるものを何か捻り出せないか、毎日、数字の連続ですね。

 

Cさん いまのご指摘は、本当にその通りですね。10年前の自分に言ってやりたいですよ。オフィスを借りるにしても、まったく見当が付かなくて、気合で決めていました。

 

― 今おっしゃったようなことは営業系の企画スタッフが担当することではないのでしょうか。

 

Dさん そのまま、うちの社長に言ってください。私も営業支援みたいな仕事はそろそろ外してもらいたいのが本音です。うちの実態を言えば、営業開発は社長と私ですから。

 

Bさん 一口にベンチャー企業のCFOといっても、会計処理担当もいれば、いわゆる金庫番みたいな人もいますし、資金調達というか借入交渉のスペシャリストもいれば、いっしょに事業計画を何度も練り直してくれるところから入ってくれてほとんど創業メンバーとなる人もいます。

なかには、投資してくれる人もいます。ときにはリストラのためにCFOを引き受けてくれる人もいるそうです。

 結局、会社がいまCFOに何をやってほしいのか、その点がはっきりとしていないと、どういう人を探せばよいのか、わかりません。

 

Cさん 最低限の基本としては、MBAの財務コースが基礎知識で、それに金融機関との交渉とか社内経理などの実務経験が必要なのでしょう。

 

― こうして集まっていただいた方も男性が4人と多いのですが。

 

Aさん 私たち5人だけでも、職歴とか学歴では、あまり共通点はないでしょう。さきほどEさんが指摘されたように、誰でもできる可能性は十分にあると思います。こういうキャリアを積まないとCFOになれないということはないでしょう。

それに、やってくれる人がいればいつでも来てくださいという会社が多いのも現実です。昨日も、知り合いのヘッドハンターからこういう会社でCFOを探しているという情報が入ってきました。ベンチャーといっても、割と有名なところでも探していますね。

 

Bさん ものの考え方とか話の組み立て方といいますか、事業と財務をセットで考えて話をもっていくのに、事業のみでもダメですし、財務だけでもダメということはあります。両方を同時に組み立てて語るのがCFOなのかもしれません。

 

Dさん 確かに、経理は経理で会計や税務の面が問題ですし、財務は財務で金融機関やVCとの話が中心で、そこに事業や戦略を絡めて説明するというのは、通常は機会がないかもしれませんね。私も今は事業と財務をセットで話すことに少しは慣れましたが、以前は事業のほうが抜けていることが多くて、社長によく注意されていました。

 

Eさん 普通は、営業なら営業、経理なら経理でキャリアを積みますから、ベンチャーに転じたからといて、いきなり事業と財務を見て判断するほうが無理かもしれません。

皆さん、何か意識してトレーニングとかされたことはありませんか。

 

Cさん 私は、古典といいますか、井原西鶴や近松門左衛門の作品を読みますね。江戸時代って、けっこうビジネスの時代ですし、士農工商とはいいながら商人が時代を担っている感じがします。そのなかで、商人の生き方・考え方とか、商いの基本とか、お金の回り方とか、参考になることが多いですね。

 

Bさん そういう意味では、「ベニスの商人」は舞台として見ることもできますし、戯曲としても読みやすいです。特に、シャイロックの主張は、契約は契約という点で一理ありますし、ベニスという国家そのものがベンチャーのスピリットにあふれているといいますか、主人公のアントーニオが貿易船に全財産を賭けるという物語の発端からしてベンチャーそのものです。

 

Dさん 私は日常が情報収集の場です。どの街を歩いても、不動産屋を覘いたり、店のチラシを貰ったりします。基本、車では移動せず、電車とかバス、せいぜいタクシーで動くことで、相場の感覚を更新するように心掛けています。

  

文章作成・編集:QMS+行政書士井田道子事務所(2017118日更新)

 

新春CFO座談会(5)~ベンチャーの経営課題~

 

 

― さて、最後にお話しいただきたいテーマですが、CFOとして、またはファイナンスの視点から見て、ベンチャーの経営課題というと何でしょうか。

 

Bさん 経営課題というか、日頃感じているのは、起業家がお金のことを相談するうえで適当な人があまりいないのではないか、ということです。

 

Aさん 確かに、創業当初からCFOがしっかりついていて、お金のことはCFOとしっかり話し合って決めている、そういうケースはそうそう見られないですね。VCを回って資本調達をするといった段階になって、ようやくCFOに相当する人を探したり、創業メンバーの誰かがCFOに転じたり、といったケースが多いでしょう。

 

Bさん 起業する人にとって、また中小企業のオーナー経営者にとって、金融機関とかVCとかは、必ずしも本当のことを相談できる相手ではないと思うんです。

CFOなら相談できるかといえば、これも実は微妙ですよね。オーナーとCFOとの個人的な関係とか、出資しているかどうかとか、それぞれの事情によって、何をどこまで相談できるか違いますよね。

 私のように、創業者のCEOと、もともと個人的な知り合いでもあり、実際に創業期を過ごしたこともあるといったことでもあれば、互いに相談しやすいところもありますが。

 

Eさん CFOといっても上場会社であれば、それなりに果たすべき責任とかやるべき仕事に一定の枠もありますが、中小企業やベンチャーではそうはいきません。特にオーナー経営者に仕えるとなれば、何でも屋といいますか、CEOがやれといったことは何でも対応しないと話になりません。

 そうすると、人によっては、CEOに毎日振り回されるばかりと感じることもあるでしょう。それも、朝令暮改どころか、今言ったことと明らかに矛盾することを、次の瞬間に指示することも日常的でしょう。

 

Aさん ちなみに、私の前にCFOだった方は過労から心身ともに体調を崩してしまい、退職したそうです。それでCFO探しを急いでいたところ、私のほうに話が来たみたいです。

 CFOに限るわけではないと思いますが、ベンチャーでは方針がコロコロ変わるので、それを真に受けるのか、ある程度は受け流すのか、確かに難しいですね。ただ、すべてを真っ正直に受け止めて処理することは不可能です。無理にそうしようとすると、身体や心が壊れてしまいます。

 

Dさん CFOが体調を崩す話はよく聞きますね。就任して1年くらいが分岐点でしょうか。もともと人がいないベンチャー企業で、CFOが働けなくなってしまうと、本当に戦力ダウンですから。リスクマネジメントにあたるべきCFOが最大のダウンサイドリスクを生み出しては、さすがにマズイです。

 

― 外部との関係ではいかがですか。

 

Cさん VCには資金を出資するタイミングとか規模とかが、それぞれのVCの果たすべき役割に応じて決まっていますが、一般の金融機関が融資という形にこだわらずに、ベンチャーや中小企業に資金を投じるスキームがあってもいいとは思います。ただ、それは、VCの種類や数を増やすことが先決のような気がしますし、そもそもVCを運営する人材をそうそう急に増やすことができるとも思えません。

 

― 皆さんのような方々の中からVCに転じる方はいらっしゃらないのでしょうか。

 

Bさん そういえば、…、案外、聞かないですねえ。

 

Aさん VCは、やはり金融機関出身とか、コンサルティング会社や監査法人などから転じる方が多いように思います。事業会社出身ではあっても、金融関係など他の業界を経験してからVCに入ってくる人が大半でしょう。

 

Cさん 中には官僚出身とか、本当に事業の目利きなんてできるのかと疑問をもたざるを得ない人すら、VCのなかにも確かにいます。

 

Aさん 一口にVCといってもいろいろです。役所以上に官僚的なVCもあれば、ここはシリコンバレーかと思うほどダイナミックに動いているVCもあります。そういうもののなかから、成功例・失敗例が出てくるにしても、まだまだ絶対数が足りないのではないですか。

 

Cさん ちなみに、最近の起業家の人たちはかなり計画的というか、私たちの頃のように起業してからファイナンスのことを改めて考えるほうが例外的かもしれません。

 事業計画を立てる際にも、資金繰りとかファイナンスのことを最初から具体的に組み込んでいたり、起業前からVCを回っていたりする人もいます。

 

Bさん いまはシ―ドマネーすら、公庫なども含めれば、けっこう集めることができますからねえ。起業当初はCFOがいなくても、CEOひとりで資金を集めることも難しくはないでしょう。

 ただ、スタートアップから一般のVCが出資する段階までのところが、相変わらず、資金調達の面でも事業立ち上げの面でも難しいですね。ファイナンスでいえば、出資するほうも手間はかかりながら結果が出にくいので、なかなか積極的に動きづらいですし、融資といっても金融機関からみればこれといって実績があるわけでもありません。まとまった金額を貸し付けるわけにもいかないですね。

 

― 昨年、金融庁が「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」を発表しました。ベンチャーの現場で変化はありましたか。

 

Aさん いきなり変化があったら、それはそれで驚きです。

 

Cさん 銀行が企業の成長可能性に融資しろというのは、流石に本末転倒といいますか、金融における業態の違いを無視しているようにすら感じられます。成長可能性に資金を供給するのは、正にリスクマネーを供給することに他なりません。

 

Aさん 金融庁も一般の銀行がVCになることを求めているとは思いません。これまでの融資のありかたが、あまりに安全志向に偏っていたから、少しは成長性も考えて融資するような商品も評価するという姿勢なのではないでしょうか。

 

Eさん われわれだって、成長可能性を第三者が的確に評価できるのであれば、もう少し楽に資金調達できるかもしれません。「言うは易し、行うは難し」です。

 

Dさん ここ10年くらいの実感としては、地銀とか信金信組とか、地域に根を下ろした金融機関もベンチャーへのサービスに前向きになってきましたよね。メガバンクだけでなく、金融機関が幅広くベンチャーとの関係を強化していくことには賛成です。

 

― VCについてはいかがでしょうか。

 

Aさん VCの活用ということも、相応にこなれてきた感じがします。単に資金を出してもらう存在から、VCのもっているネットワークとか、起業の技術とか、資金以外のものを活用することに意味があると気がついている起業家も多いですね。

なかには、資金は十分に調達しているのに、敢えてVCを回って、そのVCの得意な業界のキープレーヤーを紹介してもらう起業家もいます。

 

Eさん VCにせよ金融機関にせよ、資金が不足するから調達する、という発想ではなく、「事業を○○までにこの段階まで成長させる」というところから逆算して資金を調達するのが、ベンチャーの世界では普通になりました。

 その一方、資金調達ばかりが先行して、肝心の事業のほうがついてこないケースも、けっこうな確率で発生しているように思われます。資金の出し手もその辺の問題を気にし始めているかもしれません。

 

Cさん 資金に余裕といえば、数年前のことですが、知り合いのベンチャー、といってもその頃は規模的には中堅企業程度になっていましたが、その会社でCFOが持ち逃げ事件を起こしたことがありました。

 

Dさん ああ、その話、聞いたことがあります。確か、技術系のスタートアップを買収しようとして、現金を用意しておいたところ、それをCFOが持ち逃げしたとか。Cさんのお知り合いでしたか。

 

Cさん もともと、あの会社のなかで、役員の間でも会社の方針を巡って足並みが乱れていたのは、外部からでもわかりました。資金調達は順調にいっていたらしいのですが、資金の活用が必ずしも効果的ではなかったのかもしれません。そこで、技術を買うのか、自社で開発するのか、当面様子を見るのか、方針が定まらなかったらしい。

まあ、買収といっても金額はたいしたことはなかったようです。だから、現金で処理しようとしていたわけですし。ただ、その現金の存在が悪い方向に働いたんでしょうね、本人は退職金代わりに貰っていいはずと主張していたそうですが。

 

Bさん CFO個人の問題というよりも、やはりその会社の問題ですか。

 

Cさん ベンチャーの経営者の中には、テクニックに走るというか経営のノウハウ的なことにばかり目が行って、そもそも事業をどうするのか、その課題から逃げてしまう人がけっこういますよ。さきほどご紹介した持ち逃げの話も、元はといえば、事業運営の方針がはっきりしていなかったことが原因ですから。

 

― 起業家や経営者が自社のビジネスが直面する課題から目を逸らすなんてことがありますか。

 

Cさん けっこう、よくありますね。たとえば、資金の問題にしても、事業を立ち上げる際に1年程度さきまでの資金繰り計画くらいは必要ですが、それをあまり考えずに始めてしまうとか、資金不足が発生すれば、借入申込書や事業計画書の書き方ひとつで何とか凌ごうとするとか、資金についての軸がないまま、事業を進める経営者もまだまだ少なくないでしょう。

 

Eさん 経営者の中には、経営者であることに満足してしまい、そこそこの事業規模になったところで成長が止まってしまう人もいます。いろいろと事業のアイデアは語るのですが、それだけで実行が伴わないとか、今取り組んでいるビジネスを軌道に乗せる努力は避けて、別の新しい製品・サービスに着手したがるとか。

 

Bさん そういえば、ピッチイベントとか経営者同士のフォーラムとか、そういうところにばかり注力して、肝心の事業についての取り組みが?という人も時々見受けられます。

 多くのCFOが思うのは、プレゼンをするなら金融機関やVCを相手にやってほしいし、それも尤もらしい上手なプレゼンではなく、技術的なこと、市場や顧客のこと、本当にビジョンといえるもの、そういうものを語るのがCEOであるはずです。

 

Aさん そうですね。CFOなら事業をお金の形で語ることはできますが、起業家でない分、技術・市場・顧客といったことは語り切れませんからねえ。

 

Bさん もちろん、起業家のなかには、手慣れた感じで起業していく人も増えてきました。シリアル・アントレプレナーが増えてきていることもその一因かと思います。一度でも起業経験があれば、起業の手順とかステップみたいなことはわかりますし、どのタイミングでどういうことに手を打っていかなければならないか、身体で覚えている人もいますね。

 CFOも同様で、シリアルCFOといいますか、複数のベンチャーでCFOを経験する人も増えてきて、CFOの人材プールも形成されてきています。

 

Eさん ベンチャーとVCのマッチングはさまざまな仕組みもありますが、今後はCEOCFOのマッチングの仕組みみたいなものがますます必要になってきている気がします。

 

― 本日は長い時間にわたり、興味深いお話をいただき、ありがとうございました。ご参加いただいた皆様が、ますますご活躍されますようにお祈り申し上げます。

 

 

文章作成・編集:QMS+行政書士井田道子事務所(2017124日更新)