磯村尚美氏スペシャル・インタビュー

第1回「価値観を根底から見つめ直すメンタリング」

7Breakthrough 代表 磯村尚美氏
7Breakthrough 代表 磯村尚美氏

 さまざまなベンチャー企業の「人材・組織・働き方」をご紹介していくインタビューの第10弾。

 

今回は、起業家や経営者などを対象にしたコーチングなどを行われている、7Breakthrough(セブン・ブレイクスルー)代表の磯村尚美さんにお話を伺います。

 

― 7Breakthrough(セブン・ブレイクスルー)では、どのようなサービスを提供されているのでしょうか。

 

磯村さん 起業家や経営者向けのブレイクスルーコーチング、人材育成、リーダー養成コーチングとともに、子育てや家族等の人間関係に関するカウンセリングも行っています。また、ビジネスパーソン向けのコミュニティ運営などにも取り組み始めております。

 

― どういったきっかけとか経緯で、こうしたサービスを始めようと思われたのですか。

 

磯村さん 人間の成長プロセスにおける私自身の体験がベースになっています。私自身がいい家庭環境で育ってこなかったのですが、30代後半で人生に行き詰まり問題が噴出しました。

  小さな時から生きている意味がわからず、目標が持てず、無意味に思える毎日を生きてきました。次女の出産後、子育てに行き詰まり、突然これまで歩いてきた階段が崩れました。自分の人生を歩んでいなかったことに気づいたのです。

 

― ご自身の経験が出発点ですか。

 

磯村さん そうですね。これをきっかけに自分の人生を生きたい、子育てをできる親になりたい、生き直したいとメンタリングを受けることにしました。

  その当時、私の感じていた生き辛さの原因は、誰一人として心の理解者がいなかったことでした。また、子供のころから、何をしてもダメな子などと親戚中から責められ、自己肯定感が持てず、人格の土台が歪んだカタチで育ってきたことでした。

  メンタリングの中では、主に人間性と人間関係の再構築をしました。他にはないメンタリングです。

  

― そこでメンターに出会われたのですか。

 

磯村さん 何より、私がラッキーだったのは、成熟したメンターに出会えたことです。人生に革命が起こったと言っても過言ではありません。これまでの人生が変わり、今は全く違う本当の自分の人生を歩んでいます。以前とは見えている世界が違うというか、物の見え方が変わりました。生きる目的も明確になり、自分だけができる社会貢献を見いだしました。

  こうしたメンターのように、自分を見失った人たちの人間成長のサポートをしたい、成熟したリーダーを育て、子育ての環境を変えたいというのが私のミッションです。

 

御自身の経験も踏まえて説明される磯村さん
御自身の経験も踏まえて説明される磯村さん

― そもそものお話ですが、7Breakthrough(セブン・ブレイクスルー)というのは、どういうものですか。

  

磯村さん 成長プロセスで私たちは周囲の人々からさまざまな影響を、いい意味でも悪い意味でも、受けながら育ち生きています。

 そのなかには、“人を潰す育て方”もあれば、“人を生かす育て方”もあります。その人の持つ才能の種を発見し、育む、花や実をつけ人が集まる大木になるかならないかは、誰が育てるのか?どう育てられたか?です。

  私の場合は、常に可能性を潰されてきましたが、メンターに出会い、才能が開花したという訳です。

 

― 育て方に大きく影響される?

  

磯村さん その人が自分の人生を所有し、人生が意味あるものになるか、主体的に生きることができるかは、誰に影響を受けて育つのかによって異なります。真に才能を伸ばす、人を育てることができるのは、指示や叱咤激励ではなく、理解され、大切にされ、意思をどれだけ尊重されてきたか、どう人間関係をもってもらえるかによります。

  しかし、残念ながら、このような関わりをもって貰えた人、またもつことができる大人が少ないです。このため、身につけて来た価値観、固定概念が健康的でなく、人間の成長を阻んでいるケースが大半です。視界を点から面に広げ、客観的に見ることができる大きな視点をもてるように、自分自身の制限をブレイクスルーする独自のメンタリングで、個の成長にフォーカスし、また社会を担うリーダーを育てています。

 

― 7つの要素があるそうですが?

 

磯村さん まず、『自分自身』にフォーカスする3つの要素があります。これを3 selvesと呼んでいます。①自己理解、②自己尊重、③自己成長、この3つを人間の成長の土台に据えています。

  自分自身の本当の姿を見せてもらい知ること、心から人によって理解され大切にされることで自分を尊重できるようになります。他人に振り回されません。自分の意見を尊重し主張できるようになります。

  もし、自分の意見や主張をはっきりと言わず、またYes,Noをはっきり言えないと、人にあわせて生きていくことになります。それでは、自己理解や自己尊重といった人間成長の土台ができません。

 

― 土台がしっかりしていないと、建物も人間もうまくいきませんね。

  

磯村さん そうですね。自分自身が人間的に成長していく上で、この3つが人格形成の土台になります。その土台ができ、導き手(私の場合はメンター)との人間関係が構築できて、はじめて他の人との④人間関係が築くことができると考えています。たとえば、保育のベースにある3歳までの絆作りが、それ以降の人間関係構築に大きく影響しています。

  そして、⑤リーダーシップも発揮されていきます。また、人生の揺るがない⑥目標、ヴィジョン、自分だけができる社会貢献が明確になっていきます。

  こうした成長のプロセスで最重要なものは⑦「愛」だと考えています。愛という言葉はちょっと照れくさいように聞こえるかもしれませんが、自分自身がどのように受け止められ、理解されたか、どれだけ大切にされたか、本物の愛の体験があるか、そして自分には価値があるということを見せてもらう必要があります。

  これが、後ほどお話する自己肯定感、セルフイメージにつながります。自分を大切にできて、はじめて自分以外の人を大切にできます。自身がもってもらったように、愛/思いやりと尊重のマインドが自然と人格としてにじみ出てきて、多くの人から信頼を得ることができます。

  以上の7つは、人間の成長のプロセスであり、成長の要素でもあります。

  

― おっしゃることは理解できますが、企業経営には、どのようにつながるのでしょうか。

 

磯村さん リーダーシップ、目標、ヴィジョンといったものは、企業経営、特にリーダーとして経営にあたる方に不可欠な要素であることは、改めて申し上げるまでもないでしょう。また、子育てや家族との関係に悩んでいる方にも、同じく必要なプロセスであり要素です。

  Breakthrough(セブン・ブレイクスルー)のコーチング/カウンセリングでは、知識やテクニックとして人間関係をうまくこなしていく方法を学ぶのではなく、セッション内でこれまでなかった心と心のつながりを実感していただくことができます。それが、人間関係を構築していくことです。また、根底にある歪んだ価値観を健康な価値観へ変え、その人が本来もっている、素晴らしい才能が開花するようなアプローチを採っています。

 

201635日掲載)

 

第2回「メンタリングを通じてリーダーを育てる」

7Breakthrough 代表 磯村尚美氏
7Breakthrough 代表 磯村尚美氏

 7Breakthrough(セブン・ブレイクスルー)代表の磯村尚美さんにお話を伺う第2回は、前回に引き続き、ブレイクスルー・メンタリングの特徴などを語っていただきます。

  

― 起業家や経営者を対象にコーチングをされているそうですが、具体的には?

 

磯村さん はい。それぞれの課題や成長のサポートをさせて頂いています。

 ある人は悩みを誰にも相談できず、不安だらけの中、自分をブレイクスルーさせたいとセッションを受けられ、ある人は従業員を育てたいとコーチングを受けられる方もいらっしゃいます。また、もっと自分の一生を賭けられる何かを見つけたい、世界を変えていくリーダーになりたい、自分の枠を広げたいという方もいます。

  さまざまな方々が、リアルに思考を整理したいとセッションを受けられています。

 

― 特に重点を置かれている分野とかテーマはありますか。

  

磯村さん これから、さらに重点的に取り組んでいこうとしているのが、成熟したリーダーを育てることです。

 実際、多くの経営者や起業家の方々と直接、お会いしてきたのですが、なかなか、人格の整った成熟したリーダーと思える人には出逢うことができませんでした。

 そこで、成熟したリーダーを探し出すよりも、自分で育てて行く方が早いと決心しました。成熟したリーダーが増えれば、主体的な人が育っていき、社会がよりよいもの、あたたかいものに変わると考えています。

 

― リーダーを育てる、といっても、どこから着手すればいいのでしょうか。

 

磯村さん 大きくは、2つのアプローチがあります。

 ひとつは、既に起業家や経営者などビジネスパーソンとして活躍されている方々を対象に、コーチングを通じて、さらに成熟したリーダーに成長されるようにサポートさせていただいております。

  本来であれば、事業が上手く行っている方にもコーチングを受けられることをお勧めしているのですが。実際には、すでに何らかの問題を抱えている状況で、初めてコーチングを受けられるケースが多いようです。

  対象となる方の大半が、これまでは40代前半の男性経営者でした。

  10年前からコーチングを受けられて来られた経営者の方々を、何人か存知あげていますが、みなさん成長の壁にぶつかった時にコーチをつけられたようです。コーチングを通じて、目標、ヴィジョン、社会的貢献を明確にされたようです。思いやり深く、社内でも社外で信頼も得られています。常に前向きで誰に対しても紳士的で、皆さんとても魅力のある経営者です。

  

― もうひとつは?

 

磯村さん もっと、早い段階からリーダーとなる可能性を育てていくことができれば、というものです。

  10代、20代の若い方たちも、リーダーとして成長をサポートして行きたいと考えています。

  また、現在は、子育てや家族との関係に問題を抱えている方々を対象に、カウンセリングという形でサポートしております。今のところ、ご相談に来られるのは多くは女性です。

  カウンセリングの結果として、子育てや家族との関係で悩んでいたご本人が、主体的になられ、自分の人生に意味を見いだし、自分らしく生きる事ができるようにサポートをしています。多くの方に共通なのは、子どもの頃の家庭環境が成長のブレーキになっていることです。

 セッションを受ける事で他人に振り回されなくなり、しっかりとご自身の意思を持ち、自分自身の人生に輝きをもって、新しい人生を歩まれていきます。成熟したリーダーとして課題だった子育てを克服され、中にはビジネスの世界で活躍する経営者になられる方もおられます。

 

リーダーのありかたを論じる磯村さん
リーダーのありかたを論じる磯村さん

― 具体的な方法論としては、メンタリング中心ということでしょうか。

 

磯村さん 心、メンタルに重きを置いています。特に体験を重視しています。たとえば、多くの人を集めてセミナーを開催しても、お伝えできるのは、コーチングやカウンセリングの技術や、その元となる心理学などの知識に過ぎません。

 知識はあるに越したことはありません。ときには、邪魔をする場合もありますが(笑)。ただ、知識だけでは、単にスキルやノウハウにすぎず、実行できるとは限りません。

  たとえば、人工呼吸の知識があるからといっても、実際に現場で人工呼吸ができるかといえば、そうではないですよね?

 

― 知識だけでは、無理ですね。

  

磯村さん 一口に教えるといっても、複数の子どもに教える塾的スタイルと、その子がどこで行き詰まっているのかを個々に見つけサポートしていく家庭教師的スタイルがあります。私がとってきたのは後者で、いわば経営者の人間関係構築や人格成長の家庭教師です。

  人間の成長のプロセスも、今いる場所も、ひとりひとり違います。その人が、今現在、成長のどの段階にいるのかを見極め、その人にあったサポートが必要です。その時、その時にある課題を一緒に扱い、個別にコミュニケーションをとり、人間関係も構築しながらメンタリングを進めていくことが、最も重要だと思っております。体験がすべてです。

 

― すると、実際のセミナーでは講義をするという形ではないのですか。

 

磯村さん セミナーでは、参加者の皆さんに質問し、話しかけていきます。一方的な講義でなく、皆さんを巻き込んでコミュニケーションをとる対話形式になります。参加者の皆さん、個々のお話を聞き出すところからスタートし、会が終わったころには、人間関係も深まっているなんてことも、稀ではありません。

 実は、こうしたアプローチは、私自身がカウンセリングを受けることで経験したものに基づいています。

  

2016312日掲載)

 

第3回「リーダーシップは自然と滲みでてくるもの“人間力”」

7Breakthrough 代表 磯村尚美氏
7Breakthrough 代表 磯村尚美氏

 磯村尚美さんへのインタビューの第3回は、特に起業家や経営者のリーダーシップについて、引き続き、お話を伺います。

  

― リーダーとかリーダーシップについて、どのようなものとお考えですか。

 

磯村さん 私が考えるリーダーの第1の条件は、まず、自分を大切にできる人です。それから、家族を大切にできる人、そして、周りの近い関係の人から大切にできる人です。

 そうしたリーダーシップのセンターには、愛があります。人に対しての尊敬の念、リスペクトがあり、相手の最善を考えられる人です。

 

― 割と身近な関係から重視されているようですね。

  

磯村さん はい。自分を大切にできるからこそ、より身近な人を大切にでき、さらに他の人を大切にできる、と考えています。

  たとえば、誰かを助けたいと手を差し伸べたのに、自分の都合でその手を離してしまったら、相手はどうなるでしょうか。中途半端な助けが、かえって相手を傷つけ、助ける前よりも悪くなってしまった、そんな事態に陥ることが考えられます。

  

― そうですね。善意のつもりが、悪い結果になることも往々にしてありますね。

 

磯村さん ここで重要なのは、動機です。誰かに認めたいからとか、自分が満たされたいから、人を助けたいと思うならば、本当の助けではありません。自分に価値がないから、せめて誰かの役に立ちたい、生きる意味を見いだしたいというニーズがあることに、自分でも気づかないまま、人に手を差し伸べる人も多いのです。

  それは相手を助けるためではなく、自分のため、自分の心を満たすために行っていることです。誰かを助ける時に、自分の動機、それから相手にとって最善を考えることができるかどうかを、チェックする必要があります。

  

― 動機ということまで、あまり考えずに、行動するほうが一般的かもしれませんね。

 

磯村さん もし、自分を犠牲にして相手のために頑張れば、相手のことが嫌になり、怒りにつながる可能性が高いのです。誰かのことを大切だ、助けたいと思われるなら、まず、自分自身が満たされている必要があります。

  「家族の犠牲の上に成り立つ、社会貢献や企業活動はない」と、私もいつもメンターから言われています。

  

― 起業家や経営者のなかには、ビジネスのため、会社のためだけでなく、製品やサービスを通じて社会を変えていくという、事業の大義のために、他を犠牲にする人を見かけますが。

 

磯村さん、そうですね。経営者やリーダーの多くは家族を犠牲にしていることが多いです。まず、自分、そして身近な家族の幸せがあって、初めて他の人を真に助ける事ができ、人を大切にできるリーダーだと私は考えています。

 

― ところで、通常、リーダーというと、大胆な決断を下すとか、困難に立ち向かう、といったイメージがありますが。

  

 磯村さん もちろん、判断力、決断力、行動力も必要です。

  しかし、家族や部下を助けて守ることができること、相手の存在価値を、ありのままに認められる人であることを、私は特に重要だと考えています。

  また、人を育てることができるかどうかということも、重要視しています。私が言う人を育てるとは、相手の埋もれている才能の種を発見し伸ばすこと、心を育むことができ、つながりをもち、関係性を深めていくことです。人を育てるにあたって、相手のありのままを認め、人間関係を構築できるか、これが肝だと思っています。

  

リーダーシップにおける人間力を説く磯村さん
リーダーシップにおける人間力を説く磯村さん

― ひとりで何かするというよりも、周囲の人たちにいい影響を及ぼすのが、リーダーのようですね。

 

磯村さん そうですね。さらにリーダーの要件をあげるなら、大きな視点をもつこと、ヴィジョンを示し、相手を巻き込んでいくことができることです。

  そして、これはやり手の経営者だからこそ難しいのですが、一旦、立ち止まることができること、これは結構、重要です。立ち止まれたら、軌道修正できますから。

  さらにもう1つ付け加えるとすれば、問題が起こった時に相手をリスペクトしながら、どう対処していけるのかも、重要ですね。

 

― 何か基本的な資質とか能力みたいなものはあるとお考えですか。

  

磯村さん リーダーとしての素養ですが、1つは生まれ持った才能、2つ目はその人から自然と滲み出てくる人格(幼少期からの成育環境によるもの)、そして3つ目に自分にない要素、これは訓練して身につける必要があるものもあります。

 その中でも、私は特に2つ目の人格、成熟度、人間性、人としてのあり方、そして、人間関係のつながりを築いていくことが必須であり、最も問われるところだと考えています。

 

― リーダーというと自ら先頭に立って頑張るイメージがありますが。

 

磯村さん はい。いわゆるカリスマといいますか、一人で先走ってしまうタイプやトップダウン型、自分についてこいという親分気質のリーダーも多いです。彼らはひとりで何でもよくできるので、ある程度のことを簡単にこなすことができます。

  ですが、それでは周囲の人(企業でいえば社員ということになります)がついて行けないとか、つながりが希薄で信頼を得られないケースも多く、ひとりで走りっぱなしで、振り返ると誰も後ろにいないという状況にすら陥りがちです。それでも、心があたたかく人間的に魅了されて、人がついてくるというリーダーもいらっしゃいます。素晴らしいですよね。

  

― 一口にリーダーといっても、先頭を突っ走るばかりではないとも思うのですが。

 

磯村さん そうですね。一方、ボトムアップ型、経営者自ら末端の社員のいる場所にまで下り、日常的に声をかけるなど、人間的な関わりを大切にするサーバントリーダーであれば、個々人や組織全体のモチベーションをあげ会社を活性化でき、顧客によりよい価値を提供することができるでしょう。そして、業績面でも評価される会社となるのではないでしょうか。

 

― そうしたリーダーは、必要なスキルや知識を身につけるだけではなれないのでしょうか。

 

磯村さん 確かに、ご自身にまだ備わっていないリーダーとしてのスキルや知識を身につける必要があると思います。ただ、それだけでは不十分でしょう。

  私は、人間力が最も重要だと思っていますので、その視点からお話します。

  リーダーを見れば会社がわかりますし、部下を見ればリーダーの人間性がわかる、というくらい、人間としてのあり方や人との関わり方を通して、そのリーダーの人間性や人格が自然と滲み出ています。だからこそ、人間力を磨く必要がある、リーダーとして成熟度を高めて行く必要があると思います。

  

― スキルや知識というよりも、人間力そのものが問われるということですか。

 

磯村さん そもそも、リーダーご自身が自分の器の小ささや限界を感じていらっしゃる方が多いのも、事実です。人間性、人間としての器の大きさは、これまでリーダー自身がどんな風に他の人に関わってもらったのか、どんな人間関係の持ち方を体験して会得してきたか、誰に影響を受けたのか、によって変わります。

 自己の限界点をブレイクスルーし、人間としての器をさらに広げるために最も必要なのは、単なるスキルやノウハウによるのではないと考えています。

  

2016319日掲載)

 

第4回「リーダーこそ、社員としっかりコミュニケーションを」

7Breakthrough 代表 磯村尚美氏
7Breakthrough 代表 磯村尚美氏

 磯村尚美さんへのインタビューの第4回は、リーダーシップとコミュニケーションについてお話を伺います。

 

― 経営者といったリーダーに必須のスキルというと、まずは、コミュニケーション・スキルということでしょうか。

 

磯村さん 確かに、コミュニケーション・スキルは必要です。ただ、それは、経営者が人の感情を動かす知識や技術を学び、その技術を組織や日常生活に取り入れれば、それでよいというものではありません。

  その経営者の能力が高く、社員がたくさんいて、毎年、利益が前年水準を更新しているとしても、部下がついてこなかったり、逆に反感を買い孤軍奮闘の状態に陥ったりする場合があります。社内のさまざまな問題や社員の不満などが渦巻いていても、知らぬは経営者自身のみといったケースも多くみられます。

 

― なるほど。実は、ある会社で、経営者が組織活性化にはMBWAが効果的だと聞いて、すぐにやってみたところ、社員からは「社長が仕事の邪魔」と陰口を叩かれるようになってしまったそうです。

  これはほんの一例ですが、ベースとなる信頼関係がない職場では、下手に効果的な経営手法をマニュアル的に導入すると、余計にひどいことになってしまいますね。

 

磯村さん はい、部下は思った通りには動きません。それぞれ意思や感情をもっています。人間としての心ある関わり方がなければ、関係性が希薄となり、従業員はリーダーのために動きません。

  また、リーダーのヴィジョンが明確にされているか、それが従業員に共感され、共有されているかも、重要だと思います。もしそうでない場合、会社であれば、従業員にとって労働は生活費を稼ぐための手段に過ぎないものになってしまいがちです。従業員一人ひとりの特性をよく理解していないと、ミスマッチが起こります。生産性は上がりにくいでしょう。

  

― コミュニケーションということでは、男女による違いもありそうですが。

 

磯村さん ありますね。特に男性は、一匹狼です。何か問題があっても、周囲の人や専門家に相談せずに、一人でずんずん行動に移してしまうことが多いです。

  そうして、一人で全てを抱え込んでしまうので、あるところで限界が来て、パンパンになった風船が突然、割れるように、爆発してしまうのです。

  

― 爆発する?

 

磯村さん そうです。女性に比べて、男性は感情を発散せず、一人で悩みや課題を抱え込みがちです。

 昨日までバリバリ働いていたのに、ある日、突然、ぷつんときれてしまい、ドーンと落ち込み、欝になってしまうケースも多いです。

  

― リーダーゆえに、余計に人に相談しない、相談できないのでしょうか。

 

磯村さん そうですね、より抱え込みやすいと言えるかもしれません。

 男性の経営者同士はライバルでもあり、いいところを見せつけたい、自分でやりたいという性質をおもちです。会社のこと、経営のこと、家族のことと抱える課題の数も多く、根本的な重い課題をもっていらっしゃいます。

  

― リーダーほど、孤独ということもある?

 

磯村さん 相談相手がおらず、孤独です。不安だらけでプレッシャーに押し潰されそうでも、弱音も吐かず、一人で抱えていらっしゃいます。実際そんな風に話して下さる経営者の方も、少なくありません。

 一方、事業が順調に見えても、社員の中にはいろいろな不満が渦巻いているものです。リーダー自身もいろいろと対策は取るのですが、リーダーと社員の間にできた溝がますます深くなって、何かの問題をきっかけに、社員の大半が辞めてしまったり、急激に業績が落ち込んだりすることも見受けられますね。

 

コミュニケーションのポイントを解説する磯村さん
コミュニケーションのポイントを解説する磯村さん

― 問題が爆発してしまう前に、リーダーは事前に問題状況を察知して何らかの手を打たないといけませんね。

 

磯村さん 前回にも少しお話しましたが、問題は必ず発生します。その問題にどう対処するのかが、むしろ重要です。社員との間に問題が生じているのなら、コミュニケーションをしっかりとるべきです。目の前で話をしていても、言葉のニュアンスでその受け取り方が違い、お互いに誤解している場合も多いのです。

  しっかりとコミュニケーションをとり、お互いの真意を摺り合わせて行く必要があると私は思います。また、対外的に何かあった場合には、社員を責めて責任を負わすのではなく、社員を守るのもリーダーの役割です。

  さまざまな問題を一人で抱えていらっしゃる経営者やリーダーは、実に多いです。彼らのよき理解者、相談相手として、本音を話せる仲間がいると助けになりますね。

 

― 社内の信頼関係とかコミュニケーションというのは、ベンチャーなど規模が小さい組織ほど、築きやすいように思いますが。

 

磯村さん 規模が小さい方が、コミュニケーションラインは確かに少なく短いです。ただ、どんなに人数が少なくても、リーダーの考え方やコミュニケーションスタイルにより、コミュニケーションラインの太さが違います。

 すなわち、構築される信頼関係のありかたが違ってきます。

  

― しっかりとした信頼関係を築く上で、特に注意すべき点はありますか。

 

磯村さん リーダー自身が自分の問題をしっかり解決していることが、一番ですね。コミュニケーションのもとといいますか、リーダー自身の心の根本にあるものが、人間関係や会話の中で投影されますので、それが解決していないと問題が生じやすいです。

 たとえば、ベンチャーに限らず、経営者で成功された方の中には、「怒り」をベースに成功された方も少なくはありません。昔、人に馬鹿にされたとか、辛い目にあわされたとかで、誰かを見返してやろうとか憎しみや怒りからその人のメンタルなエネルギーが発生していると、やっぱりどこかで破綻を起こしていくと思うのです。

  こうしたことの原因の一つに、特に日本人に言えることですが、セルフイメージや自己肯定感の低さがあります。経営者でさえも、セルフイメージが低い方が多いです。

 

― 自己肯定感?

 

磯村さん はい。この自己肯定感が低かったりなかったりすれば、主体的に生きることができません。人の意見に左右される、YesNoが言えない、人にあわせてしまう、そういう行動をとってしまうのです。

  意思をもって選択、決定、行動しているようでも、実は人にあわせてしまっている方が多いです。人の意見に流されやすいです。こういった方は何かあるとあの人がこういったから、こうしたとか、自己選択したことに対して、人のせいにしてしまいがちです。

  

― 自己肯定感が弱かったり、なかったりすると、どうなりますか。

 

磯村さん 真に自分で意思決定ができていないので、責任を人に転嫁してしまうのです。人の目をおそれて自分の意見をもてない、言えないということになります。

  これは、日本の文化、現状の子育て環境の問題にも、つながることなのですが、不安や恐れが強く、自分をもつことができないという状況に陥ってしまいがちです。

 何か問題があったときですら、自分のことを犠牲にして、相手の事情や都合にあわせて考えるので、自分のことは二の次、三の次となってしまいます。これは、他人が人生の運転手になっている状態です。自分の本当の気持ちを表現できないまま我慢していることが多いので、相手に対する怒りにつながりやすいのです。そして、そのこと自体に気づいていない方が大半です。

 

2016326日掲載)

 

第5回「リーダーは自己肯定感をもって」

7Breakthrough 代表 磯村尚美氏
7Breakthrough 代表 磯村尚美氏

 磯村尚美さんへのインタビューの第5回は、起業家や経営者のリーダーシップから、その根底に求められる自己肯定感について解説していただきます。

 

― 企業経営でいえば、たとえば、こちらの事情よりは顧客の都合を優先する、その結果、社員に過剰な労働を強いるし、社員も顧客満足のためなら、自分の生活よりも、仕事を優先する、そういう状況がそもそも問題だという認識すらもたないことが、根本的な課題ということですか。

 

磯村さん うーん、ちょっと違うかな。顧客の都合を優先するのは重要だと思います。顧客満足度が会社の売上や信頼にもつながりますから。

 

― といいますと?

  

磯村さん 前回お話した、怒りをベースに成功された経営者の方について、もう少しお話しましょう。

 ちょっと心理学的になりますが、悲しみが積もり積もると、怒りに変わります。

  悲しみは理解されれば昇華できますが、多くの場合、理解されない、もしくは、逆に責められて、傷つきます。理解されなければ、自分が認められていないとか、価値がないとか、自分が悪いとか、自分を責めがちです。これは、自分自身でも自己を認められず、自己肯定感が低い状態です。

  

― 怒りの根底に、自己肯定感が低い状態があるということですね。

 

磯村さん 自分を傷つけた人や社会を見返そうということがモチベーションになるということも生じます。この怒りがベースになった会社経営の場合、伸び代も小さく、人から真の意味で師事されないと私は考えています。

  問題なのは、会社の価値観やゴールが顧客満足度や社会貢献的なミッションであるかどうかということではありません。自分では気づかない怒りから、存在を認めさせようという、リーダーのもっている不健康な価値観に、会社の土台が置かれているということが、問題です。

  会社の価値観は、リーダーの人格により方向付けられるところが大きいですから、リーダーが健康な価値観を身につけていることが大切ですね。

  

― 健康な価値観をリーダーが身につけていると、自ずと自信をもった意思決定や経営ができそうですね。

 

磯村さん 自己肯定感が低いというのは自分に自信がない、他人の評価を尺度にすることでもあります。本当に自分に自信があれば、究極、人がなんて言おうと、どう評価しようと、自分はありのままでいいと、自信をもって主体的に生きることができます。他人からの評価はどうでもいいのです。

  ちなみに、自己肯定感の低さは、特に日本に特徴的なものだと考えています。アメリカなどでは、自己肯定感が強い人が多いですね。

  

― 日米で何が違うのですか?

 

磯村さん 日本の文化や子育て環境の問題が根底にあります。日本の場合、認められ理解されて、子供時代を過ごし育てられてきた人が少ないです。その人たちが大人になって、子育てをするのですから、子供を認め、理解するという、子供を伸ばすための子育てを知らないですよね。

 つまり、自己肯定感を育む教育ができていないんです。

  自分で考えて、これはおかしいとか、もっとこうすれば仕事がうまく進むとか、いろいろと考えてアイデアや意見を出せるのは、自分の意思を尊重され理解されて、自己肯定感を育まれてきているからです。

  

― 自分の存在を認められていないと感じていれば、何かアイデアを言い出そうとは、まず思いませんね。

 

磯村さん アメリカなどでは、ちゃんと自分の考えを表現するように子供を育てるようですが、日本の文化は『恥』の文化でもあり、自分の意思を優先するより、他人を優先しなさい、人の迷惑にならないようにという観念に親が囚われています。

 自己主張をすることが必ずしもポジティブに見られず、むしろ、余計なことばかり言って、うるさいなどと否定して、良くないこととみなされがちです。知らぬ間に子どもの自主性の芽を摘んでいるのです。主張する人をみると、うるさい人などというレッテルを張られるのは、このような文化が根強いためです。

 

― 自分の意思をもって主体的に考える習慣がないと、最後まで言われたままにやるだけになってしまいそうですね。

  

磯村さん そうですね。ハンドルを言わば他人が握っている状態です。考えるよりも、言われた通りする方が簡単で楽です。会社では上司が部下を育てるのに苦戦していますが、上司側も叱咤激励しか人を動かす方法を知らない方が多いですね。職場のリーダーは管理職に、管理職は役員に、役員は社長に、それぞれが「やれ」「どうしてできない」と言われ続けていることも多いと聞きます。負のバトンタッチ、リレーと言ってもいいかもですね。

 

自己肯定感の重要性を説く磯村さん
自己肯定感の重要性を説く磯村さん

― 負のバトンタッチですか。

 

磯村さん 管理する側や親になってから、部下や子供をどうやって育てたらいいのか、わからず、戸惑ってしまいます。本当の子育てを体験してきている人がそう多くいらっしゃらず、本物の人材育成について知っている人が少ないため、人を育てる知識を得ることができる環境自体が、まだ整っていないと考えています。

 多くの人にとって、子育ては自分が育ってきた体験が元となっていますので、どう育てられたか、誰に育てられたか、誰に師事してきたか、により大きな影響をうけます。

 

― 確かに、人を育てるということを、単なるテクニックやノウハウのレベルではなく、根本から体系的に学習するとか、自己の体験以外のところから習得するという機会は、まず、ないですね。

  

磯村さん また、敷かれたレールにのることや、言われた通りする文化が根付いているのも原因で、レールからそれることは会社内では仕事を失ってしまうという恐怖やリスクも伴います。

 この点からも、自ら主体的に考えて、人とは違うことをきちんと主張する人は生まれにくいと言えます。

 

― 虐待された子供が親になって、今度は子供を虐待する側になってしまうという話を聞いたことがありますが、企業内でも「やれ」「頑張れ」と言われる中で、たまたまサバイバルで生き残れた人が上位者になって、今度は言う側に回る、という構図は、同じですね。

  

磯村さん そうですね。リーダーのあり方が会社の文化を作り、人を育てます。リーダーがどんな人であるかの影響は大きいです。

  それから、虐待の連鎖は大きな課題です。子供が自由意志を持って育つことができません。こうした負の循環を切るために、人を育てる土壌作り、成熟したリーダーの育成、また人生に意味を見いだし、主体的に生きることができるサポートをできれば、と思い、7Breakthrough(セブン・ブレイクスルー)を始めた、といっても良いくらいです。

  

― ある企業の例ですが、ファッション関連のビジネスを展開されていて、社員も役員もオシャレでセンスのいい人が多かったのですが、IPOの話が出て、具体的に株式公開準備が進んでいくに従って、型にこだわらない自由なファッションから、社長も含め多くがダークスーツ姿に変わってしまいました。

  

磯村さん 残念ですね。力の強い所に入ると、郷に入っては郷に従えで、先を行く先輩社長方に足並みを合わせざるを得なかったのかもしれません。ベンチャーに勤める人や創業オーナーでも、新しいステージにアップする時にはプレッシャーを感じます。これは誰もが感じるでしょうし、いいプレッシャーでもありますね。

  多くの人は自分のスタイルや強みを貫くことができず、人の目を気にするという不安や恐れをもっています。自分たちのスタイルを貫くには勇気がいりますが、ビジネスがビジネスだけに、ファッショナブルなスタイルを貫いて欲しかったですね。オリジナルのスタイルが商品であり彼らの強みなのですから。

 

― 同調圧力なのかもしれませんね。

 

磯村さん そうですね。スーツや制服に限らず、ビジネスにおいても、もっと自由であっていいと私は思います。

 型にはまらずに生き生きできる、新しいスタイルの経営も認められていいと思います。誰かに認められることを目的にするより、独自のスタイルを気にせずやって、後から人がついてくる、そんなふうに自分のスタイルを貫いて行ける人が増えると、日本の社会ももっと楽しくなるのではないでしょうか。

  ただ、まだまだ雇用に関してもそうですが、当然というルールがあり自由が効かないように感じますね。

 

― 確かに、通勤、単身赴任、残業に関すること、育児や介護などによる長期休業の取りにくさもそうですが、会社に対する忠誠心というか、当たり前になっているものが多いですね。

  

磯村さん いろんな考え方はありますよね。通勤にしたって自宅勤務が可能になるとか、時間内に仕事が終わってしまえば早めに締めて帰ってしまうとか。信頼関係もそこには必要ですが、まだまだ勤続年数や、勤務時間での評価をしている会社も多いですよね。

 

― どのあたりに問題を強く感じられていますか。

 

磯村さん 特に、人に対する投資は、経営者からすれば大きな課題だと思いますね。いつ利益が出なくなってしまうのか、という不安も大きいですし、ものになるかならないか、わからないのに人を雇うことのリスクもありますから。

 また、経営者自身、人を育てることを知らない方が多いですよね。どうすれば部下の才能を伸ばし生かすことができるのか、モチベーションをあげることができるのかとか、貢献度が高くなるのかとか、思い悩んでいても、やり方がわからないまま、という経営者をよく見てきました。

 

― 人事のテクニックでは解決しない、根本的な問題を抱えたままということが多いのでしょうね。

  

磯村さん そもそも、採用の時点でミスマッチな人を採用していたということもあります。採用や人材育成で失敗をたくさんされていらっしゃると、人件費に対しての投資がしぶくなってしまう方も多いですね。

  賃金に関しては、正当な最低限の評価がもらえないと従業員の不満につながります。士気も下がれば、生産性も下がります。定着率が悪く、安定しない会社も見てきました。

  

― 前向きというか明るい方向はありませんか。

  

磯村さん 人事について多くの問題点がある反面、最近は「育ボスの会」などの活動も目立ってきており、家庭での時間を増やし、定時退社とか有給休暇や育休への理解も進んでいます。高齢化社会なども含め、危機感を感じ始めた大手企業が取り入れはじめていますが、逆に家族との時間をしっかりともつことで、家庭も会社も上手く回り、業績が上がっている会社も増えているようですよ。

 

201642日掲載) 

第6回「コミュニケーションにも自覚すべき男女差があります」

7Breakthrough 代表 磯村尚美氏
7Breakthrough 代表 磯村尚美氏

 磯村尚美さんへのインタビューの第6回は、自己肯定感の問題からコミュニケーションを巡る問題に。

 

― リーダーが主体的に考えて行動するというのは、特に起業や経営という点では、当然と言いますか、そうでなければ困る気がしますが。

  

磯村さん お話してきましたように、特に日本の社会、家庭や学校では、「主体的に考えて自分を表現しなさい」と言われても、そうすることを子供のころからサポートされてこなかった人が大半です。

 逆にいえば、可能性の芽をたくさん秘めたまま開花していない人が、数多くいるということです。ある型に嵌められてきているので、自主性や主体性を制限された状態です。

  経営者や起業家にとっては、取り組む課題が大きいので、ただでさえ、たくさんの壁にぶちあたりますよね。そして、闘いは他人というより自分自身であることが多いので、自分の器の小ささや限界を現実に見せられることもしばしばです。この壁を乗り越えていくためにも、自己肯定感やセルフイメージの高さは重要です。

  

― やはり、子供の頃どのように育てられたかは重要ですか。

 

磯村さん はい、とても重要です。子供の頃、特に3歳までに絆(アタッチメント)を持ってもらえることが自己肯定感、人間関係の構築に大きく影響するということは、保育学においても述べられています。小さい子供はよく、だだこねをしますが、たとえそれが正しくなくても、自分の気持ちを誰かにぶつけてみて、受け止めて(聞いて)もらう体験から、自己肯定感が形成されていきます。

 

― 自分の気持ちをわかってもらえる、という経験ですね。

 

磯村さん はい。理解者が親ならば望ましいのですが、信頼関係、絆(アタッチメント)が結べるたった一人の大人との人間関係が、本来は必須です。そうでない場合は、後々いろいろな問題が生じることが多いです。虐待やネグレクトなど子育ての問題もそうですし、ひきこもりや依存症なども、根本的には自己肯定感の低さに原因がありますね。

 

― 子育てというと、父親の役割とか男性の育児への関わりというのも、重要ですか。

 

磯村さん 特に3歳からの父親の役割が子どもの人格形成にとって重要と聞いています。母親と父親では子育ての役割が違いますから、家庭のリーダーである父親の役割は特に重要です。

 子供が女の子なら、お父さんが初めての男性のイメージになりますし、男の子ならお父さんから力強さや勇気をもらいます。いずれにせよ、お父さんから肯定されることは、とても大切です。

  また何よりも、この3歳ころまでの時期における、お父さんの子育てへの協力体制、関わり方で家族の将来を決めてしまいます。子育てに最も手のかかるこの時期にパートナーの協力が得られない場合、家庭に夫の居場所はなくなり、子供がある程度大きくなった時点で離婚につながる家庭も多いです。

  女性の視点でいえば、夫の役割や協力はお金を稼いで家計を支えればいいというものだけではないのです。

 

― 気持ちを受け止めるということは、言葉だけでなく幅広い意味で、コミュニケーションが重要ということですね。

 

磯村さん 心があるコミュニケーションの取り方、関わり方というか、関係性づくりが、やはり大切だと思います。父親の役割について簡単にご説明いたしましたが、コミュニケーションに男女差があることはご存じでしょうか。男女の差を少し知っているだけでも、家庭内におけるずれや夫婦間のずれを埋めていくことができます

  一般に、男性は理論的思考の方が多いです。結論があって、端的な話は理解しやすいようです。一方、女性は、あったことを主語がないまま、話が展開して行きがちです。話しているうちに場面がいくつにも展開し、主語も変わっていることが多いので、男性にとっては話が聞き辛いようです。

 

コミュニケーションの留意点を説明する磯村さん
コミュニケーションの留意点を説明する磯村さん

 ― コミュニケーションの男女差というのは、広く見られる現象でしょうか。

 

磯村さん はい。万国共通で、あまり民族や文化などによる違いはないようです。

 男性はウルトラマンです。何か相談されると、解決しようと解決策を提案していきますが、女性は解決を求めていませんので、男性側からの解決策の提案がきっかけで喧嘩になることもあります。

  もともと、男性はハンター志向で何かを解決しようと働きます。女性は、受けとめる、受容を大切にしており、話を聞いてもらうことに意味があるので、具体的な解決策を求めているわけではないことが多いです。

 

― 合理的に仕組みを作って、組織を動かそうとするのが男性ですし、そうしたソリューションを生み出すことが得意でもあります。ということは、組織の構造や機能を整理して、改革するだけでは、企業はうまくいかない?

 

磯村さん 男女差がそこにあるのかは何ともお答えできませんが、そこに組織を動かすソフトウエアが必要になります。

 

― それが、コミュニケーションというわけですか。

 

磯村さん はい。コミュニケーションは必要ですが、単なる言葉の伝達でなく、人間関係が大切だと私は思います。

 

― コミュニケーションは言えばいい、伝えればいい、というように聞こえますが、それだけでは組織も人も動かない。コミュニケーションが機能するには、発信する側と受け取る側で、共通の場とか価値観とか、何か前提となるものがないと、うまく伝わりませんね。

 

磯村さん そうですね。本当に理解されたとか、わかってもらえたとか、尊重されて話ができたとか、そこにハートが必要です。

  ただただ、聞いておうむ返しをすればいいと、それが聞き上手だなんて思っている方もいらっしゃいますが、それはコミュニケーションではありません。知識的、機械的になっていることに、意外と気づいていない方がリーダーにさえも多いように思います。

  

― 確かに、リーダーのコミュニケーションというと、プレゼンがうまい人とか、タフ・ネゴシエイターというイメージになりがちですが、サーバント・リーダーシップともなると、話を聞いてくれるリーダーとか自然と共感してくれるリーダーという姿もイメージできますね。

 ところで、今は、表情が見える場でも、相手を見ずに、スマホやタブレットのほうばかり見ている人もよくいるように思いますが。

 

磯村さん 直接話をしている最中でも、ガジェットばかり気にしている人が、実に多いですね。

 

― 目の前にいるのに、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションにならない?

 

磯村さん 昔と違い、連絡をとろうと思えば、24時間いつでもとれますし、相手からも連絡が入ります。ビジネスでは迅速さも求められますし、遅刻などの連絡がお知らせで入る場合もあり、やっぱりチェックすることもあります。

  あるとき、カフェでカップルが隣に座ったのですが、お互いの携帯を取り出して、そこでコミュニケーションをしていました。これにはびっくりでした。

  メッセージのみのやりとりではメール人格ができやすく、現実の世界で乖離したキャラクターになっている人も多いです。できれば、目を見てしっかりお話したいですよね。

 

― 現実の組織運営では、フェイス・トゥ・フェイスばかりというわけにもいきませんね。

 

磯村さん そうですね。ただ、メールやSNSも使い方には、注意すべきことがあります。コミュニケーションということでいえば、直接、フェイス・トゥ・フェイスで言葉を交わすのに比べて、メールというのは同じ表現でも、23倍、伝わり方がきつくなるようです。また、相手に真意が伝わっていないケースも多いです。

 

― やはり、文字にするほうがダイレクトなのでしょうか。

 

磯村さん それもありますが、同じ言葉でも、受け取り方が違います。表情を見ていれば誤解も生じにくいですが、表情が見えないツールというのは、難しいですよね。育って来た環境で身につけた価値観、すなわち、それぞれのフィルターを通りますから、相手が普通に伝えていることでさえも、怒っているとか批判されているという誤解や溝が生じやすいです。

 私も、メールなどでは、できるだけ事務的な内容のものにするように心がけています。私の場合、これまでに何度も失敗しましたから。その轍を踏まないように注意して、どうしてもメールで伝えなければならない場合は、文面に絵文字をいれるなど工夫をし、電話でフォローします。それでも失敗するときもあります。

  カウンセリングなどを行う際は、対面が望ましいのですが、少なくともスカイプなどを通じて、表情や声のトーンなどがわかるようにしています。

 

201649日掲載)

 

第7回「今は経営者をサポートする仕事を起業しました」

7Breakthrough 代表 磯村尚美氏
7Breakthrough 代表 磯村尚美氏

  磯村尚美さんへのインタビューの第7回は、改めてサービスの特徴や事業の現状についてお聞きします。

 

― ところで、磯村さんご自身のビジネスは、どういう形で進めていらっしゃるのですか。

  

磯村さん コーチングに関しては、これまでは主に個人レッスンの形で進めてきました。10回のメンタリングを基本のコースとし、その後は月に12回のフォロー(顧問契約)をさせていただく、といった形です。

 カウンセリングは1セッション50分を、23セッションまでとして進めてきました。

  

― ビジネス・コーチングは、一般にいろいろとありますが、7Breakthrough(セブン・ブレイクスルー)の独自性はどのようなところでしょうか。

  

磯村さん ビジネス・コーチングは、短期目標や長期目標や理念などを描き、ビジネス・ゴールを設定して行くことが多いです。期間を決めて、それを現実化するために、イメージ化の作業や意識付けなどを行います。「俺は(私は)できるんだ」と行動への自己実現を後押しするものですね。

  また、経営者は壁にぶつかる時期などには、自信や自分を見失いがちです。そこで、質問を投げかけて、思考を整理して、ご本人の中にある思いを引き出していきます。また、ブレを修正し、ぶれないマインド、軸を作っていく時もあります。ご本人が気づかない思いを導きだしたり、課題を見る視点を変えたりしていきます。

  

― それに対して?

 

磯村さん 7Breakthrough(セブン・ブレイクスルー)のコーチングも、いま申し上げたような点は同じです。

  特徴としては、まず、クライアントの自由意思の尊重を徹底しています。こちらの意見を押し付けないこと、選択肢を広げることに徹します。コンサルさんでは、自分の成功体験の型に嵌めがちですし、学校で学んだだけのコーチでは、ご自身の体験がなく意見を押し付けがちになることも多いです。

  課題を解決するのは、クライアントご自身です。失敗するとわかっていても、その経験を積ませるようにサポートをします。これは、親が子供を育てるのと同じです。どんな困難にも、ご自身で道を選択し、乗り越えることができるようにサポートをします。

  

― なるほど。経営者自身が、自分で道を選択し、困難を乗り越える経験を積む、そのサポートをされるわけですね。

  

磯村さん お話しされている内容から、その人のもつ価値観を探っていくことも、また、特徴の一つに挙げられます。成長を阻む根っこまで、深くアプローチができることです。

  感情、心の奥まで見ることで、ご自身の壁を大きくぶち破ることが可能となります。器を大きく広げることができるということです。

  ちょっとスピリチュアル的ですが、感情、心だけでなく、精神、霊に働きかけます。眠っているかもしれない、本当のご本人を呼び起こします。

  

― 具体的には、どのような方法で行われるのですか。

  

磯村さん 手法としては、言葉の奥深くに潜む本音を探ります。子供のころの家庭環境もお伺いし、成育過程における価値観をあぶり出すように進めていきます。価値観の土台になっているものが、成長のブレーキになっている場合が多いからです。

  さらに、あらゆる角度から思考を広げる質問をしていきます。成長を阻んでいる不健康な歪んだ価値観があれば、それを客観的に映し出し健康なものに書き換えていきます。

  ビジネス・リーダーとはいえ、知らないうちにハンドルを他人に渡していたなんてことも多いので、ご本人がハンドルをとれるようにサポートします。

 「○○すべきだ!」などと、押しつけの意見はいいません。ご自身に選択肢があり、自由意志があることを体感していただけるようにサポートしています。思考などをできるだけニュートラルな状態にするための質問を、あらゆる角度から投げかけます。ご本人の意思を明確にするためです。

  

― 価値観の土台まで明らかにしていくように、さまざまな質問を投げかけられるのですね。ほかに特徴はありますか。

 

磯村さん もう一つ、3つ目の強みは、コーチとクライアントの間に人間関係、絆を作っていくことです。心置きなく話すことができる安心の土壌ができますので、『どんな自分でも大丈夫!』と自己肯定感、セルフイメージが増し、高くなります。

  この安心に勝るものはありません。心の安心の居場所があれば、どんな困難にも立ち向かっていけますから。

  経営者を対象とするとはいえ、目先の利益追求のためのコーチングではありません。そうではなく、人生を意味あるものにするコーチングです。

  人生のあらゆるステージで生じる困難に一緒に立ち向かっていく、人生のコーチ、サポーターですね。その人の人生がより豊かなものになる、まだ目標がない人にも自分だけができる社会的貢献が発見できるようになる、そんなお手伝いしています。

 

メンタリングを通じて経営者をサポートする磯村さん
メンタリングを通じて経営者をサポートする磯村さん

― 商品として見た場合、なかなか売りにくいものですね。

 

磯村さん 子育てや家族関係に問題を抱えている方々へのカウンセリングにせよ、ビジネスパーソン向けのコーチングにせよ、形のある商品ではありません。いわば、私自身が商品ですから、なかなか拡販していくわけにも参りません。

 今は、顧客基盤といいますか、ビジネスのベースとなるものを、一歩一歩、信頼を頂けるように作り上げようとしているところでもあります。

 

― マーケティング活動にも、いろいろとチャレンジされているのでは?

  

磯村さん そうですね。

  関西から東京に移ってから約2年後から数年で、Facebookだけでもリアルに1200人くらいの方々とのつながりができました。

  業界にこだわらず、セミナーや交流会には積極的に参加していましたので、各界につながりができました。

  

― その間の経緯を、もう少し詳しくお願いできますか。

 

磯村さん 東京に来て最初に参加したのが、教育界でした。虐待について、教育のあり方について訴えたかったので、先生とセミナーを開催したこともあります。しかし、教育界へ外から新しい風を吹き込ませるのは難しく感じました。そこで、ここからのアプローチを一旦、断念しました。

 

― 教育の次は?

 

磯村さん コーチングやカウンセリングの事業をする前には、さとう式リンパ・ケアインストラクターとして、身体(からだ)のケアや資格付与の講師としても活動していました。

  心にフォーカスを置いていたのですが、私自身が当時はまだ自分の問題を解決していなかったので、心の導き手になれませんでした。心と身体はつながっていますので、まず身体からアプローチをして、心を楽にする仕事に取り組みました。

  

― 心も大切ですが、身体も重要ですね。

 

磯村さん 次いで、女性、子育て支援をしようとメンバーを集めましたが、資金面や知名度など課題がたくさんあり、メンバーには申し訳なかったのですが、一旦、解散しました。

  それから、経営のノウハウを学び、人脈を構築するために、積極的にセミナーや経営者会に参加しました。

  そうこうしているうちに、カウンセラーであるメンターと取り組んでいた私自身の問題、子供時代の虐待の爪痕から回復することができました。やはり直接、心のサポーターになりたいとコーチ(メンター)業に転換しました。

  

― ようやくですね。ですが、やりたいと思われてきたことは一貫していらっしゃるように感じますが。

 

磯村さん よりよい社会に変えたいという思いは変わりませんでしたから、社会が早く変わるには、成熟したリーダーが増えれば変わるはずだ、と経営者のコーチングを選びました(笑)。

  離婚して主婦から起業家への転身です。ハードルは高かったのかもしれません。一般的にいって、クライアント獲得、集客は起業家の課題ですが、いまでも、やはり私の課題でもあります。

 

2016415日掲載)

 

第8回「一人でも多く、成熟したリーダーを」

7Breakthrough 代表 磯村尚美氏
7Breakthrough 代表 磯村尚美氏

 磯村尚美さんへのインタビューの最終回は、今後の展望について伺います。

 

― 人脈とか潜在顧客のベースは必要と思いますが、そこから実際にコーチングの依頼を受けるまでとなると、一工夫が求められそうですね。

 

磯村さん おっしゃる通りです。

 何か具体的な形のある商品というわけではないので、直接会って私を知って頂く、他の人とは何かが違うと感じて頂いたというのが、これまでの活動スタイルです。少しずつ私のことをご存じの方が増え、最近は少しずつご紹介を頂くようになっています。私をご存知でなければ、具体的な案件に発展することはないですね。

 

― 試供品をサンプルとして配るわけにもいきませんね。

 

磯村さん はい。すぐにはコーチングにつながらなくても、人生の何かのタイミングで思い出してもらえたらいいなと思いながら、その人にとってその時に必要な言葉など、心に残るメッセージを伝えています。

  5年間で感情に1万時間を割いて向かい合ってきましたので、少し話せばその人の課題がみえます。ですから、その人を助けることができるといいな、と少しのチャンスでもその人の心に働きかけ、種を蒔いているところです。

  今後は、セミナーや相談会、ブログによる発信なども行いながら、私の人間性を知って頂き、何かあった時に、すぐにご相談いただける相手として思い出して頂けたらと思っています。

 

― 収益的には、けっこう厳しくないですか。

 

磯村さん そうですね。駆け出しの起業家にとって集客が課題です。それは私にも言えることです。認知度が低く、信頼や実績がないうちは大変です。早く売上を立てたいとコンサルをつけたこともありましたが、上手く行きませんでした。

  数年やってみて、じっくりじっくり、一歩一歩、前進することが一番の早道ということがわかり、焦りがとれました。どうしても取り組みたい仕事なので、時間はかかるかもしれませんが、ゆっくり着実に進んでいます。

 

― けっこう、気苦労が多いようにお見受けしますが。

 

磯村さん はい。ご相談というと、どうしてもデリケートなお仕事です。特にカウンセリングでは全く気が抜けません。一言ひとことに、細心の注意を払いながら、クライアントさんのお話を聞いています。言葉からクライアントさんが何を言わんとされているのか、言葉の奥にある本当に伝えたいと思っていらっしゃること、またご本人さえ気づかないインナーチャイルドの思いもありますので、その思いが何かを探します。

 また、こちらから何か言うときにも、言葉を吟味しながらお話ししています。一歩間違うと、クライアントさんの命にかかわるからです。

 

― ビジネスと個人的な相談事が入り混じってしまいそうですね。

 

磯村さん 日常でも悩みのご相談を受けますが、私はマインド、心の専門家なので、無料相談にならないように、仕事とプライベートをしっかりと線引きするようにしています。

  コミュニケーションを取ることが、何にもまして重要です。そういう意味で、私の提供するサービスは、相手の方の真のニーズを読み取って、ご相談いただいた方に、「自分を受け止めてもらえた」「自分の成長をサポートしてもらえた」という体験を実感していただくことに他なりません。

 

― 体験してもらうまでが、大変そうですね。

 

磯村さん はい。現状では、まだまだ経営としては不十分です。今は、弁護士の方と連携して相談会を開いたり、別のビジネス・パートナーの方と交流会などのビジネス・コミュニティを発展させたり、夢見る温かい社会の構築にいろいろと試行錯誤している段階です。 

 

ビジネス面での課題を語る磯村さん
ビジネス面での課題を語る磯村さん

― なるほど。それでは最後に、既にビジネス・リーダーとなっている人たちやこれからリーダーを志す人たちに、何かメッセージがありましたら、お願いします。

 

磯村さん もし、私が提唱する人格の成熟したリーダーを10人輩出することができれば、世界が変わるでしょう。その10人それぞれが職場や家庭などで愛の手を差し伸べ、心のつながりをもつことで、温かいコミュニティが形成されていくでしょう。そして、その体験をもった新たなリーダーが育っていくでしょう。その連鎖が繰り返され、世界が変わります。

 成熟したリーダー、人を真に育てることができるリーダーの存在は偉大です。世界を変えていく原動力になり、推進力となります。

  そうしたリーダーが存在するにつれて、世界に愛があふれ、家庭に温かい明かりが灯るでしょう。自分の人生に意味を見いだせないとか、他人の評価に縛られた人生を送っているとか、そんな風に本当の自分を見失っている人に、息吹を吹き込むことができるからです。

  自分の人生に意味を見いだすことができるので、心から輝く大人が増え、それから人を育てることができる体験をもつ人が増えます。

  大人だけではありません。子供が子供らしく育てられます。自分らしく愛されて育つ子供たちが増えます。

  こうして、自分らしく生きることができる人が社会にあふれます。自分が自分であっていいと自己承認ができるので、他人を羨ましく思うこともなくなります。ひとりひとりカラフルで彩りあふれ、お互い尊重し合える、温かく優しい社会に変わっていく、そう私は信じています。

 

― ビジネス・コミュニティだけでなく、社会全体を温かく意味のあるものに変えていくのがリーダーといえそうですね。

 

磯村さん そうですね。特に家庭は、温かいものであってほしいです。

 私のような子ども時代を過ごす人がいなくなることを、心から願います。

  家庭にはパパがいてママがいて、互いに愛し合える幸せな家庭を増やしたい、自分の人生に意味を見いだせる人を増やしたい、そう心から願っています。

  ひとりひとりの存在に価値があるのです。時間はかかるかもしれませんが、効果は実に大きくなるものと期待して、この仕事に取り組んでいます。

  

― 今日はお忙しいところ、お時間をいただき、ありがとうございました。

 

インタビューを終えて

 ベンチャーにせよ、歴史のある会社にせよ、経営を見直す必要に迫られている企業や組織体は、数多いと思います。そうしたときに、事業構造や組織体制を一新することはあっても、職場のありかたから見直すことは、実行するのがなかなか難しいでしょう。

  職場の慣行や不文律も含めて、ワークスタイルや社員一人ひとりの仕事観から根本的に見直すことが不可避だとすれば、いわば仕事のソフトウエアを改革しなければならない職場、特にそうした職場のリーダーや責任者として取り組まなければならない方々は、自分のもつ(仕事観を含めた)価値観から見直すことに取り組まなければならないかもしれません。

  少なくとも、顧客やビジネス・パートナーとのコミュニケーション、職場におけるコミュニケーション、プライベートな場面におけるコミュニケーションなど、さまざまなシーンにおいてコミュニケーションのありかただけでも見直すことが、実はビジネスを継続的に成功させることにつながる道ではないでしょうか。

  そして、リーダーは単にビジネスを成功させるだけでなく、そのプロセスを通じて社会全体に良い影響を及ぼすことも期待されます。企業に社会的責任があるのと同様に、ビジネス・リーダーにも社会的責任があると言えます。

  特に、次の世代を担う人々を育てることがリーダーの役割でもありますから、変革が最も必要なのはリーダー自身かもしれません。その手助けを、磯村さんが一人でも多くされることを願って止みません。

 

(2016年4月23日掲載

                                                写真提供:磯村尚美氏

                          写真・構成・文章作成:行政書士井田道子事務所+QMS