起業家の働き方改革(2)

(1)より続く

 

前回ご紹介したように、起業家に限らず誰でも、自分自身のことに関する自己管理、自分を支えてくれる家族の管理、それから自分がやるべき仕事の管理(これが経営者や起業家となれば事業の管理にほかなりません)と段階的にマネジメントは難しくなります。

言い換えれば、自己管理もできない人に、家族のことや仕事のことがまともにマネジメントできるはずがありません。

 

さて、自己管理のスタートは、健康管理です。

起業家の場合、一般のビジネスパーソンとは異なり代わりの人はまず、いませんから、健康管理に失敗することは即、事業の停止・中断、時には失敗や倒産を意味します。言い訳は許されません。

とはいえ、現実には徹夜で仕事をしなければならないこともあれば、オフィスに泊まり続けた挙句に長距離の夜行バスで移動して、翌日は朝から商談を10件も20件もこなさなければならないこともあるでしょう。そうでなければ、事業が立ち上がるとは思えません。

ただ、こうした仕事のやり方を起業当初からいつまでも長く続けているのは考えものです。創業当初から12年、長くて3年以内にこうしたやり方から脱却できないようでは、スタートアップを実現することは難しいでしょう。

もちろん、何年経っても、緊急事態ということは起こるものですし、そういう時は不眠不休で働くこともあるでしょう。ただ、それは例外であることを自覚して、起業家は自らの健康管理を適切に行うことが、事業を立ち上げていく上で強く求められます。

たとえば睡眠負債という考え方があります。このところ、多くのメディアで採り上げられているので、ご存知の方も多いでしょう。

起業家にとって睡眠不足の最も大きな問題は、判断ミスを招く可能性が高まることでしょう。ジェフ・ベゾスの8時間睡眠(注1)ではありませんが、少なくとも67時間は必ず睡眠をとることは、起業家が健康管理をする際の最低限の条件かもしれません。もしかすると、金融機関やVCなどがベンチャー企業に融資・出資するチェックリストに、その企業の経営者の睡眠時間が既に載っているかもしれません。

 

自己管理は健康についてだけではありません。その次に、生活習慣の改善とか自己学習といったものが考えられます。特に知識(本やインターネットなどから学ぶこともともに、経験から学ぶことができるものも含めての知識)については、経営者としてのビジネスの経験が少ない人ほど、ビジネスパーソンとしての基本をさまざまな情報や経験から身につけることが重要です。学ぶことが習慣化されていることは、起業家に限らず広くビジネスパーソンに必須でしょう。

こうした生活習慣は、健康管理にもつながる重要なものであるとともに、起業家個人の信用を形成し高めていくのに不可欠な要素でもあります。起業した事業が成功するかどうかは、その事業を開始した当初ほど、まずは起業家自身の信用に大きく左右されるからです。

既に企業家としての実績を挙げた人がシリアル・アントレプレナーとして新たに起業するとか、それまで仕事をしていた会社から独立するとか、大企業の子会社などとして設立された場合はともかく、一般に起業する場合は、その起業した人にも新たに設立された会社にも信用はありません。

単に信用がないだけであれば、着実に仕事をしていくことで信用をつけていけばいいのですが、起業家の中には着実に仕事をするよりも他のことに夢中になったり、起業しようとしている事業以外のことにエネルギーを振り向けたりするケースが、時には見られます。そうした人が信用を得ていくことは不可能であることは当然として、起業したビジネスについて学び続ける前に次のことに取り掛かっては、学んで身につけることができるものがありません。

このように、学習と信用は、起業家自身が一種の生活習慣として身につけるべき日常の行動から、形成され高められているものです。起業家にとって、このふたつが欠如した状態は成功の基盤がないものと言わざるをえません。

 

(3)に続く

 

【注1

たとえば、次の記事では、ジェフ・ベゾスをはじめとして、有力な経営者の睡眠について紹介されています。

http://style.nikkei.com/article/DGXMZO10880880Q6A221C1000000

  

作成・編集:経営支援チーム(2017718日)更新